Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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Macmillan 2005, ライフコースの構造:古典的論点と現代の論争

Ross Macmillan, 2005, "The Structure of the Life Course: Classic Issues and Current Controversies," Advances in Life Course Research, Vol.9 pp.3 - 24.
ライフコースに関する特集の冒頭の論文で、これまでのライフコース研究を整理し(て、この特集の論文を位置づけ)た論文。ライフコース論は1970年代ごろから発展した研究分野と思われるが、Macmillan によると、その主要な論点は
  1. 就職や結婚のようなライフイベントのタイミングや順番、継続期間の実態
  2. 上記の事象が、社会的、歴史的な文脈(例えば、大恐慌、戦争、移民、高学歴化、福祉制度の変化)から受ける影響
  3. ライフコースの多様性にまつわる不平等、社会階層との関係
  4. 類似のライフコースを生み出す社会規範の存在
であったという。このような関心は 2005 年時点でも継続しているが、近年の新しい傾向として、
  • ライフコースの標準化 standardization
  • ライフコースの個人化 individualization
という議論が出てきているという。ただ個人化は標準化の対義語として用いられているので、けっきょく新しい論点は「標準化か、それとも個人化か?」という一つのポイントに集約できる。ライフコースの個人化は標準的なライフコースをたどらない人たちの不利益を指摘することも多いので、けっきょくライフコースの多様性にまつわる不平等、社会階層との関係という古典的な論点を引き継いでいるのがわかる。ただデータの蓄積が進んだおかげでライフコースの多様性が増加しているのか(個人化)、それとも減少しているのか(標準化)、データをもとに議論できるようになってきたということなのかもしれない。

まとめてみれば当たり前の話なのだが、自分の考えを整理するうえで役に立った。気になったのは、Macmillan 自身はそれほどでもないのだが、ライフコース論という業界は holistic approach という方法/パースペクティブを強調する傾向があるという点である。ライフコース論者は、人生の軌跡の「全体」をとらえたい、という欲望にとりつかれているように、部外者の私からは見える。私たちが入手しうるデータは常に断片的で有限なので、holistic といっても完全に実現されることはない。もちろん、 20 代のころのライフコースと 30 代のころのライフコースの関係だけでなく、 10 代や 40 代以降との関係もわかるようになれば、私たちのライフコースに関する知識は増加したといえるだろうし、結婚や出産のような家族関係のライフイベントと職歴の関係だけでなく、居住地や交友関係の変化との関係も明らかにしたい、という意味で、 holistic という言葉を用いているなら、じゅうぶん賛同できる考え方/欲望なのだが、 holistic という言葉を強調する人たちはもっと別のものを求めている気がするのである。

「物質文化へのアプローチ:ファッションと被服の社会学」Crane and Bovone 2006

Diana Crane and Laura Bovone, 2006, "Approaches to Material Culture: The Sociology of Fashion and Clothing," Poetics, Vol.34 No.6, pp.319-333.
Poetics 誌のファッション特集のイントロ。ファッションについてはジンメルやヴェブレンのような古典で扱われているのはよく知られているし、流行については学生にも人気のテーマではあるが、社会学的研究の蓄積や発展についてはあまり聞かない。しかしながら衣服が物質文化の一部であることは疑いなく、Crane and Bovonoe はアパデュライらの研究をひいているが、ググってみると日本でもアパデュライ以前から、物質文化に着目することの重要性を説く論説はあるようである。よく言われるように、衣服にはその人のアイデンティティや価値観が何らかの形で表れる場合があり、集団への同調や反抗、地位の表出や偽装といったトピックも定番である。このように衣服は社会学の重要な研究対象となりうるとされる。具体的には以下の5つのアプローチがあるという。
  1. 衣服をテクストとして読み解く研究。具体的にどうすれば正しく読み解けるのか、その方法論は不明で(写真と同じように読解可能とされるが)、具体例も 1つしかあげられていない。バルトの『神話作用』みたいなのか?
  2. 衣服が生産され流通するシステムの研究。文化産業研究や業界研究がこれにほぼ該当し、デザインや流行の決定から、小売りの現場にいたるまでが研究対象となる。産業社会学や職業社会学の一種という位置づけ方もできるかもしれない。
  3. メディアなどで衣服がどのように扱われるかの研究。メディアによって象徴的価値や意味が衣服に与えられるが、その研究。ゴフマンの Gender Advertisements が例に挙げられている。
  4. 消費者による衣服の扱われ方の研究。消費者は製造元やメディアが付与しようとした象徴的価値をそのまま受け入れることもあるし、それらをずらしたり、読み替えたり、書き換えたりする。そのような活動、例えばストリート・ファッションやパンク・ムーヴメントの研究がこれにあたるのだろう。
  5. 国によるファッション文化の違いの研究。上記のような衣服の製造・流通・消費が国によって違っていたり、共通性があったりすることは自明で、これらについて研究することもできる。
これは partial list というから包括的な分類というわけではないが、今のところこんな感じということだろうか。最後にイタリアのファッション産業の特徴が軽く触れられて終わっている。

具体的な研究例が少ししか書かれておらず、残念。あまり多くないということか。しかし、流通の川上から川下へという視点で研究を整理している点は参考になった。

Hakim 2010 「エロティック資本」

Catherine Hakim, 2010, "Erotic Capital," European Sociological Review, Vol.26 No.5, pp.499-518.
ハキムがエロティック資本に関する自説を開陳した論文。エロティック資本の定義は明示されていないが、以下の 6つ(場合によっては 7つ)の要素からなるという。
  1. 美しさ beauty。顔が主に想定されているようだが、身体のその他の部分も含む
  2. 性的魅力 sexual attractiveness。これは美しさとは明確に区別され、立ち居振る舞いに宿るという。美しさが写真で表現できるものであるのに対して、性的魅力は動画でなければ表現できないそうであるが、それ以上の理論的・経験的区別はなされていない。
  3. 愛嬌、魔力、人々に好かれる能力 grace, charm, ..., the ability to make people like you。エロティック資本の社会的な側面であるという。
  4. 活気、すなわち、健康、社会的エネルギーと上機嫌であることの融合 liveliness, a mixture of physical fitness, social energy, and good humour。ダンスやスポーツの能力に表れることが多いという。
  5. 服装、化粧、香水、ジュエリー、その他の装飾品 adornment、髪形、アクセサリ
  6. 性的能力、エネルギー、エロティックな想像力、遊び心 sexual competence, energy, erotic imagination, playfulness そしてパートナーを性的に満足させるすべて
  7. 多産性 fertility。これは女性のみに限定され、必ずしもすべての時代や文化にあてはまるわけでもないので、留保がつけられている。
エロティック資本は、文化資本や経済資本、社会関係資本とは異なるものであることが強調されているが、文化資本と重なる部分もあることはハキムも認めている。また、他の形態の資本と組み合わされることで、エロティック資本は大きな力を発揮するという。例として外交官の妻が美しく魅力的で社交的である場合、夫の大きな助けとなることがあげられている。この例からもわかるように、ハキムによれば、女性のほうが男性よりも多くのエロティック資本をもち、感情労働がしばしば女性の役割であるのも、女性がエロティック資本を多く持つからであり、それに見合った賃金が支払われないならば、エロティック資本の収奪ということになる。

エロティック資本の多くはトレーニングや社会化によって高めることが可能であり、遺伝などの影響をハキムは否定しないが、後天的な可変性のほうが強調されている(女性のエロティック資本が高いのも女性の努力と学習の賜物)。今日、人々のエロティックなものに対する需要はますます高まっており、エロティック資本の重要性はかつてないほど高まっているという(が、経験的な証拠は薄弱)。とうぜんエロティック資本を多く持つ者のほうが、恋愛市場や結婚市場で有利であり、結婚後も配偶者とのあいだの交渉力が強く、労働市場においても有利であるという。

男性研究者もフェミニストもエロティック資本の価値を否定、ないしは無視し、せっかく女性が優位に立てる資本の価値を切り下げようとしている、とハキムは批判する。彼女によれば、このようなエロティック資本の働きと価値を認めるべきであり、ミスコン批判や風俗産業の取り締まりにも批判的な論調である。

以下感想。自説は new theory だと何度か言っているが、new といえるほど新しくもない。パーツになる議論は、すでに知られているものか、トンデモくさい議論で、俗説ではふつうに言われていることのように思う。おもしろいのは、上記のような 6つの要素をエロティック資本という一つの傘の下にまとめたというところだろうか。erotic という形容が適切かどうかはともかく、容姿や愛嬌、活気、ファッション、魅力といった要素は、社会的評価とも関係している可能性が十分あり、部分的には人的資本や文化資本ともかさなる。顔の美しさや体形が賃金に影響することは米国ではほぼ確認済みであり、西ヨーロッパでもチラホラそういう論文が出ている。

わざわざ「資本」というアナロジーを用いるならば、自己増殖し self-enforcing、他の資源(例えばお金や人脈)の獲得を容易にするような性質を持っている必要があると思うが、お金や人脈を得やすいというのはあるかもしれない。自己増殖性や文化資本の獲得については怪しいが、文化資本も自己増殖するかどうかははっきりしないので、この点でエロティック資本だけを批判するのはフェアではあるまい。測定の困難さも問題の一つであるが、ハキムが自己弁護しているように、文化資本などのその他の資本も測定が困難な点では大差ない。

脱工業化が進み、対人サービス、私たちの専門用語でいえば、ノンマニュアル職の比率が高まることで、よく知らない他人から好感を持たれる必要のある人の数は増えていると考えられる。エロティックという用語を使う気はあまりないのだが、そういう見た目や好感度のようなものをとらえる工夫はもっとなされてもよいと思う。

献本御礼:樋口・永吉・松谷・倉橋・シェーファー・山口『ネット右翼とは何か』
樋口 直人,永吉 希久子,松谷 満,倉橋 耕平,ファビアン シェーファー,山口 智美
青弓社
¥ 1,728
(2019-05-28)

プロパガンダに利用された bot の分析や桜井誠の支持者の分析など、おもしろそうな話題がいろいろあります。どうもありがとうございました。勉強させていただきます。
献本御礼:『出会いと結婚:格差の連鎖と若者2』佐藤博樹・石田浩編
本の帯には
家族形成(出会い/婚活・交際・結婚・出産)と格差は関連するのか。
とあります。東京大学社会科学研究所が行っているパネル調査の研究成果のようです。どうもありがとうございます。勉強させていただきます。
Usmani 2018 「民主主義と階級闘争」

Adaner Usmani, 2018, "Democracy and the Class Struggle," American Journal of Sociology, Vol.124 No.3, pp.664-704.
地主と労働者階級のもっている能力 (capacity) が民主主義度におよぼす影響を検討した論文。クロスセクションで民主主義度と一人当たり GDP の関連を見ると、多少の正の相関がみられることは、Lipset (1959) が指摘して以来、有名な話であると思うが、このような関連をもとに資本主義と生産力の発展が民主主義を促進するという議論もある。いっぽう、階級間のパワーバランスの重要性を指摘する研究も有力で、例えば地主階級の没落や産業資本家の勃興、労働者階級の持つ資源、といった要因が事例研究からは指摘されてきた。これらの階級闘争の強調は、Lipset 的な議論と矛盾するわけではなく、同時に成り立ちうる。

著者は特に地主階級の能力と労働者階級 (理論パートでは nonelite と呼ばれているが、ほとんど労働者階級のこと)の能力を重視しており、前者が弱まるほど、そして後者が強まるほど民主化が進むという。経験則として言えば民主化は必ずしも社会主義化につながるわけではないので、産業資本家にとっては必ずしも脅威とは言えないのに対して、農業労働者を土地に縛り付けることが難しくなることが多いため、地主階級にとって民主主義は脅威であるという。

データは国単位のパネルデータで、データソースはいろいろあるので省略するが、フルモデルで 64か国、1901-2003 のあいだのバランスの取れていないデータ(パーソン・カントリーの数は 4013)。民主化度 Polity2 score を従属変数とする固定効果モデル(年次ダミーも投入)で、自己回帰(一時点前の民主化度を独立変数に含む)を仮定している。主な独立変数である労働者階級の能力は、労働力人口に占める産業労働者(製造業、鉱業、建築業、輸送業で働く労働者)の比率で操作化されており、地主階級の力は家族農業の農地比率とその農地で働く人の比率を掛け合わせたものであるが、分母や「家族農業 family farm」の意味は不明。

分析の結果、仮説通り地主と労働者の力はそれぞれ有意な効果を持ち、シミュレーションからは、いわゆる発展途上国と先進国のあいだの民主化度の差の半分ぐらいは説明できるという。統制変数で有意だったのは、平均的な教育水準と周辺諸国の民主化度で、一人当たり GDP や収入の不平等度は有意でなかった。これらは従属変数の民主化度の指標を変えたり、データを1年おき、2年おき、3年おき、といった間隔で抽出しても、ほぼ一貫して有意であった。

以下感想。産業労働者比率で労働者階級の能力を操作化することの妥当性を主張するくだりがかなり長く、レフェリーや事前の研究会でいろんな人から批判されたのだろうと想像される。また、「因果の向きに関しては十分に実証できていないけど意味のある結果なんだ」といった主張も何度も繰り返されていて、「あたりまえだろ」と突っ込みたくなったが(つまり、民主化が労働者の能力を強めた)、これも色々批判されたんだろうなー、と感じる。また著者自身も Discussion で触れていたが、同じ要因が 100年以上にわたって同じように民主化度に影響するという仮定でモデルが推定されているのだが、さすがにその仮定は苦しいかなー、という印象はある。しかし、階級闘争というか、資源動員論的な観点から理論を整理して、いろいろ無理はあろうがいちおう長期のパネルデータを作って実証している点は高く評価できる。

献本御礼:『ビット・バイ・ビット:デジタル社会調査入門』滝川・常松・阪本・大林訳
本の帯には、
人々の行動に関するビッグデータを分析している「データサイエンティスト」必読
とあります。ネットをとおしてデータを収集する方法が主題で、質問紙調査だけでなく、観察や実験など幅広く論じてあります。どうもありがとうございます。勉強させていただきます。
「文化の書き込まれた偏見:不平等生成過程での製品の役割」Childress and Nault 2019

Clayton Childress and Jean-François Nault, 2019, "Encultured Biases: The Role of Products in Pathways to Inequality," American Sociological Review, Vol.84 No.1, pp.115-141.
小説の内容と編集者や代理人のマッチング過程が、人種等の不平等につながることを主張した論文。ブルデューの文化資本論によれば、評価者は自分と類似したハビトゥスを持つ人を高く評価しやすい。それゆえミドルクラスはミドルクラスのハビトゥスを持った候補者を高く評価し、結果としてミドルクラス出身の若者のほうが、ミドルクラスの仕事につきやすい、というわけである。米国の実証研究でも似たような主張がなされているようだが、Childress and Nault が主張するのは、評価者と製品のあいだにも、似たようなメカニズムが働くということである。つまり、評価者は自信と文化的に親和的な製品を高く評価しやすい、という仮説である。

ただし、このようなメカニズムはいつでも作動するわけではない。第一に、その製品の市場に不確実性が高い、つまりどの製品がヒットするか予測が困難でなければならない。なぜなら不確実性が低ければ、経済合理性の論理が強く働き、文化的に親和的でなくても「売れる」製品が好まれるはずだからである。第二に、評価者は自律性を持っていなければならない。他者の強い影響下にある場合、自分と文化的に親和的な製品を選びたくても選べない場合があるからである。第三に、簡単に脱分化化 (de-cultured) されるような製品の場合は、上記のような文化的親和性の論理は働きにくいだろう。さらにこのようなプロセスが不平等につながるためには、評価者の文化的多様性が低くなければならない。評価者が多様で好まれる文化も多様ならば、特定の文化やハビトゥスの担い手だけが好まれるということは起きないはずだからである。

上のような四つの条件に適合し、不平等が生じている業界として、現代米国小説の出版産業が検討されている。ここでいう製品とは小説であり、評価者とは編集者ないしは代理人のことである(以下、両者を編集者と総称)。どんな小説が売れるかは予測困難であるし、編集者は高い自律性を持っており、彼らが出版の可否の決定に非常に強い影響力を持っている。さらに小説は非常に文化的な製品であるし、米国の編集者はミドルクラス以上の出身の白人がほとんどであるという。白人率は 88% とか 94% といった数字があげられており、編集者になるにはほとんど無給のインターンシップを経なければならず、親の経済的援助なしには生活できないという。

データは 2015 年の小説エージェントのデータベース (N = 447〜1086) と2008年から2009年にかけてなされた編集者や作家、計 82 人へのインタビューと出版社での4か月の参与観察、6ヶ月の一般的な産業での参与観察である。結果として、白人の編集者は白人が主人公の小説を、女性の編集者は女性が主人公の小説を、若い編集者は若者が主人公の小説を、好んで出版する傾向が示されている(オッズ比で5倍前後の有意差あり)。逆に言えば黒人が主人公の小説を出版するのは主に黒人の編集者なので、上記のようにほとんどの編集者が白人という状況では、黒人が主人公の小説は出版されにくい、ということになる。つまりこの論文でいう「不平等」とは主に人種的不平等である。

こういった「不平等」は露骨な差別意識にもとづいているというよりも、編集者が個人的かつ直感的に「よい」とか「共感できる」と思った小説を出版しようとする傾向がある、そしてそれは業界で推奨されてさえいるからであるという。それゆえ、主人公と編集者自信が似ているとか、編集者が育った町が舞台とか、編集者が現在直面している問題を扱っているとか、そういった小説が出版されやすいという。人種が同じである方が共感をえやすいというのも当然で、こういった慣行は編集者自身にも自覚されているようである。

以下感想。主張はごもっともで特に異論はない。当たり前といえば当たり前の結果ではあるが、オッズ比で 5 倍も差がつくというのは想像以上で、そこはおもしろいと思った。また文化的親和性の論理はどんな状況でも働くというわけではなく、特定の条件下で働きやすくなるという議論ももっともで、こういった方向性は生産性があってよいと思う。ただし、この論文では小説出版業界だけが問題になっているので、上記の4つの条件が本当に文化的親和性の論理を作動しやすくするような要因なのかどうかは今後検証される必要があろう。

著者たちは、人と人の文化的親和性ではなく、人と製品の文化的親和性を扱ったのがこの論文の独創的かつ重要なポイントであると繰り返し強調しているのだが、実際には小説の主人公の性別や人種がその小説の作家と同じ性別や人種である例しか参照されていないので、けっきょく編集者と作家の文化的親和性が出版確率を高めていると考えても同じで、あまり説得力がない。また、ここでいう「不平等」とは一体何なのかはっきり書かれていない点は残念だった。非白人の編集者が 6% なので、非白人の作家には出版の機会が限られている、と言っているように読めるのだが、もしも編集者に原稿を持ち込む小説家に占める非白人の比率が 6% 未満ならば、不平等があるとはいえないが、この比率は不明である。Childress and Nault は小説の読者の 24% は非白人であると指摘しているので、このような非白人の読者の数に見合った、非白人を主人公とする小説が出版されないことを「不平等」と言っているのかもしれない。しかし、本当にそれほど非白人のニーズが満たされない状況が長期にわたって続くことが、米国のような規制の弱い市場で本当にあるのだろうか、という疑問はわく。

「仕事満足度とひどい仕事:なぜ清掃員は仕事に満足なのか?」by Lene

Alexandre Léné, "Job Satisfaction and Bad Jobs: Why Are Cleaners So Happy at Work?," Work, Employment and Society, Vol.0 No.0, pp.1-16, available in Online First.
なぜ清掃員の仕事満足度が高いのか検討した論文。単純に考えて、楽で金銭的な報酬やフリンジ・ベネフィット、社会的に尊敬される程度(外的報酬)が高く、やりがいがあって、面白く、成長の機会があり、社会の役に立つ(内的報酬が高い)ような仕事のほうが満足度が高そうだが、必ずそうなるというわけでもない。これらが低くてもなぜか満足している人もいるし、逆にこれらの報酬が高くても満足しない人もいる。清掃員は外的報酬も内的報酬も低いと言われているが、 Léné によれば彼らの平均的な仕事満足度はかなり高い。その理由は彼らの現在の仕事の性質というよりも、彼らのこれまでの職歴や将来移動しうる仕事の性質、準拠集団、といった彼らをとりまくさまざまな文脈によるという。

データは French DARES Working Condition 2013年調査で、分析に用いる有効サンプルサイズは 30,198 である。男女込みで平均年齢は 41 歳だが年齢の最小値と最大値は不明。仕事満足度の指標は、仕事満足に関係しそうな以下の意識項目を単純加算したもので(アルファ=.76)、ストレートに仕事に対する満足を尋ねてはいない(この調査では仕事満足度をたずねていない)。

仕事であなたは以下のようなことをどれぐらい感じますか?
  1. ほかの人の役に立つような何かをしている
  2. 仕事がうまくいったことに誇りがもてる
  3. この会社/組織に誇りが持てる
  4. 楽しめるような仕事をしている
  5. 自身の努力に見合った尊敬と承認を仕事によってえている
  6. 搾取されている
  7. 非難されるようなことをしなければならない
  8. 退屈である

職業カテゴリ別に満足度の平均値を計算すると表 1 のとおりで、分散は不明なのでこれらの平均値のあいだに有意差があるのかも不明であるが、回帰分析ではいろいろな変数を統制しても清掃員 (cleaner) ダミーは一貫して正の有意な値を示すので、他の職よりも有意に高いことはまちがあるまい。

表1 職業カテゴリ別仕事「満足度」の平均(Online Supplement の Appendix 3 より転載)
Occupational Category n 平均満足度
Liberal professions 96 .97
cleaners 2874 .78
Agricultural workers 240 .67
Managerial staff working in the public sector 806 .56
Managerial staff working in the public sector 806 .56
Secondary school teachers, scientific professions 1345 .49
Professions linked to information, the arts and entertainment 224 .48
Civil servants and general duty personnel working in the public sector 4410 .43
Intermediate occupations in healthcare and social work 2552 .4
Skilled craft-type manual workers 1392 .3
Engineers and technical managers working in the private sector 970 .3
Primary school teachers and employees of similar status 1145 .21
Intermediate administrative occupations in the public sector 974 -.01
Foremen, supervisors 594 -.29
Administrative staff working in the private sector 1577 -.37
Police and military 669 -.38
Unskilled craft-type manual workers 665 -.4
Intermediate administrative and commercial occupations in the private sector 1762 -.57
Technicians 1246 -.59
Drivers 573 -.76
Employees working in the retail industry 1071 -1.53
Skilled manual workers employed in handling, warehousing and transportation 403 -1.73
Skilled industrial-type manual workers 1097 -1.73
Unskilled industrial-type manual workers 799 -2.01

この表1を見るとわかるのは、仕事満足度は職業の社会経済的地位にある程度相関しているが、清掃員は例外的に満足度が高いということである。回帰分析では社会人口学的な変数と清掃員ダミーだけを統制したモデルでは、R2 = .131 であるが、さらに仕事の性質に関する 40 ぐらいの変数を統制しており、これによって R2 は .354 まで上昇している。しかし、清掃員ダミーの係数は .731 から .478 まで低下しただけで、有意なままである。清掃員ダミーの効果の .478 / .731 = 65% は上記の統制変数によって媒介されているわけだが、どの変数によって特に媒介されているのかは記述がない。Léné はむしろいろいろ統制しても残る .478 の効果はきっと上記の文脈効果に違いない、ということを強調しているが、もちろんそうだという保証はない。

以下、感想。仕事満足度をストレートに聞いても、社会経済的な地位はそれほど強く相関しないような印象があるのだが(自信はない)、ここでは私の印象よりもはっきり出ていて意外だった。清掃員は例外的というのはおもしろい話で、「人に役立っていると実感できる」、「一般の人と関わる機会がある」、「仕事で失敗すると減給される」といった統制変数が仕事満足度に強い有意な効果を持っているのだが、これらはある程度、清掃員ダミーの効果を媒介しているのではないかと思った。Léné の言うことは専門家の間ではふつうに言われていることで、ただ証拠なしにそれを言っても意味がないから、みんな書かないだけなので、Léné の主張は根拠に乏しいと批判されても仕方あるまい。むしろどんな統制変数が主に清掃員ダミーの効果を媒介しているのかについて検討するほうがよっぽど生産的でおもしろいのに、そこが書かれていないのが残念である。仕事の性質についていろいろな角度からたずねているので、おもしろいデータだと思う。もちろんこの従属変数は「満足度」ではない、という批判は可能なのだが、似たような概念にはなっている気がする。

献本御礼:安井大輔編『フードスタディ・ガイドブック』
食にまつわる人文・社会科学系の代表的な著書を49冊紹介した本。各章3〜7ページぐらいでしょうか?どうもありがとうございます。勉強させていただきます。

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