Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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献本御礼:柴田悠『子育て支援が日本救う:政策効果の統計分析』
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献本御礼:『がんばること/がんばらないことの社会学』大川2016
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階級的プロジェクトとしてのグローバル化? 国境を超えた活動の国際比較

Jan Delhey, Emanuel Deutschmann and Katharina Cirlanaru, 2015, "Between 'Class Project' and Individualization: The Stratification of Europeans' Transnational Activities," International Sociology, Vol.30 No.3, pp.269-293.
国境を超えた活動にどの程度階級間格差があるのか、そしてそのような格差が大きいのはどのような国なのかを分析した論文。グローバル化と階級の関係は様々な観点からなされていると思うが、グローバル化の主な担い手は資本家や中産階級であるとする議論は多い。経済移民は主に下層によって担われていたし、今もそうだと思うが、EU 圏内での人、金、情報の移動を考えると、ビジネス・エリートの重要性は否定できない。 Transnational Capitalist Class といった議論は、国境を超えて連帯しているのは資本家であって、労働者は分断されたままだということを示唆している。

一方、ポストモダニズムでは、階級の死とか、個人化、アイデンティティ・ポリティクスといったことがらが強調されてきた。こういった観点に立てば、グローバル化に関しても階級を強調する議論は「古い」ということになろう。むしろ、現代西欧社会では、人種やエスニシティ、ジェンダー、といった要因こそが重要だとされる。そこで、Delhey, Deutschmann, and Cirlanaru は階級と異質性(ジェンダー、年齢、居住地、父母や祖父母が移民かどうか)のどちらが、国境を超えた活動に対してより大きな影響を持つのか、明らかにし、そのような影響力が国によってどう異なるのか明らかにしようとしている。ポストモダニズム的な観点に立てば、階級間格差は、より経済発展した国では意味を持たないということになろうが、上記のような国際階級論(とでもいうべき議論)によれば、国境を超えた活動は、経済発展した国々の中産階級以上のキャリアに特有のものであると同時に、transnationalism はそういった経済発展した国々の資本家や中産階級の階級文化となっているとされる。

データは 2010 年のユーロバロメータ 73.3 (27か国)で、自身が移民の対象者は分析から除外してある。従属変数は transnationalism index で、

  • 長期休暇を外国で過ごすか
  • 外国で働いたことがあるか
  • 外国人の友人がいるか
  • 外国のニュースをフォローしているか、
  • 以下省略
といった 12個の項目を足し合わせたもの(アルファは不明)である。EGP階級図式の変形版(自営かどうかや役職の情報がないせいなのか、自営とsupervisor of manual workers のカテゴリが消滅している)が階級の指標として用いられており、その効果の大きさは国によって大きく異なり、階級だけを説明変数として投入した場合、決定係数はラトヴィアの 0.5% からアイルランドの 15% までばらついており、学歴と階層帰属意識、支払い困難度(ワーディングは不明)を説明変数に加えると 4% (ラトヴィア)〜 25% (アイルランド)まで決定係数は上がる。異質性の指標である、年齢、性別、居住地、祖父母が移民かどうか、父母が移民かどうか、といった変数だけを投入した場合の決定係数も国によってさまざまだが、前述の階級だけのモデルの決定係数に比べれば大きい国が多い(20 / 27)。しかし、前述の階級や学歴、階層帰属意識を投入したモデルに比べると、決定係数の小さな国が多い(15 / 27)。このような階級の効果の大きさと一人当たり GDP の相関を見ると、正の有意な値を示している。このような傾向はマルチレベルモデリングでも確認されている。つまり、経済発展した国ほど国境を超えた活動の階級間格差は大きい、という結果が示されている。なお、階級間格差はラトヴィア、エストニア、リトアニア (バルト三国)、ルーマニアといった旧社会主義国で小さいのだが、おおむね経済力で説明がつくとされている。

分析はいろいろ雑だが、国境を超えた活動と階級の関係という問題設定は面白いと思う。異質性を扱うのにエスニシティ関連の指標が父母・祖父母が移民かどうかしかないとか、階級カテゴリも変とか、ケチはいくらでもつけられそうである。しかし、国際比較なのでそういった突っ込んだ分析が難しいのは仕方ないのだろう。ただ問題設定として階級と異質性を区別したうえで、どちらのほうが効果が大きいかが議論されているのだが、どちらが効果が大きいかといった議論は無意味なように思える。それはどういう変数(質問項目)があるかにかなり規定されてしまうので、こういう結果が出るのはそういう質問紙の構成だからでしょう、という気はする。とはいえ、国境を超えた活動のような人気のトピックについて、統計的に論じている点は高く評価したい。

献本御礼:『結婚と家族のこれから:共働き社会の限界』筒井2016
本の帯には、
私たちは、いつから「夫・妻・子」のかたちにこれほど依存するようになったのか。
結婚すること、家族を持つことが万人に難しい時代、社会学の視点から、岐路に立つ現代社会を分析。
とあります。ありがとうございます。勉強させていただきます。
献本御礼:『歌舞伎町はなぜ〈ぼったくり〉がなくならないのか』武岡暢 2016
日本人がこの街でだまされる理由
はじめての「歌舞伎町学」入門
というのが帯の宣伝文句です。勉強させていただきます。どうもありがとうございました。
献本御礼:『オトコの育児の社会学:家族をめぐる喜びととまどい』工藤保則・西川知亨・山田容編 2016
基本は啓蒙書のようですが、家族社会学などの教科書としても使えるように作ってあるそうです。勉強させていただきます。どうもありがとうございました。
「行き止まりか、跳躍台か? ジェンダーと非正規/不完全雇用履歴の帰結」 (Pedulla 2016)

David S. Pedulla, 2016, "Penalized or Protected? Gender and the Consequences of Nonstandard and Mismatched Employment Histories," American Sociological Review, Vol.81 No.2, pp.262-289.
非正規雇用や不完全雇用が職歴にあることが雇い主の採用意欲にどう影響するのか、男女別にフィールド実験で調べた論文。非正規雇用研究では、非正規雇用が trap か stepping stone かという問題(一度非正規になるとその後正規雇用になるのが困難になってしまうか、それとも失業状態から雇用への架け橋として非正規雇用が機能するか)が論じられており、オランダとスウェーデンの職歴やパネル・データの分析からは、長期失業するよりはマシだが正規雇用を続けるよりは不利(つまり、失業から雇用への跳躍台になるという意味では stepping stone だが、正規雇用よりも不利という意味では trap)という結果が得られている(Korpi and Henrik 2001; Steijn et. al 2006; Gangl 2010)。 男女差も無くはないが、それほどはっきりした傾向はないという感じである。このような非正規雇用の不利は、雇い主の非正規労働者に対する評価を通して生じていると考えられる。つまり、雇い主が、非正規雇用の前歴がある求職者の能力は低いとか、仕事熱心ではないとか評価するので、正規雇用にずっとついてきた求職者に比べて不利になるという理屈である。もしもそうだとすると、非正規雇用の前歴の効果は男女で異なるかもしれない。男性はリタイアするまで仕事に強くコミットすることが要求されるのに対して、女性には家事や育児の責任が求められ、男性ほど仕事に強くコミットすることが期待されていないのは米国でも同じである。それゆえ、男であるにもかかわらず非正規雇用の前歴があることは能力の欠如のしるし (signal) であるが、女性の非正規雇用の場合は家庭責任を優先しているだけで必ずしも能力の欠如のしるしではない、と雇い主は考えるかもしれない。そこで、このような評価を雇い主が本当にするのか検証したのがこの論文である。

フィールド実験では、実際の求人に対してニセの履歴書を 2つ送りつけて、面接などの肯定的な返事が帰ってくるかどうかを調べている。ニセの2つの応募は、一点を除いてほぼ同じである(完全に同じだと雇い主から怪しまれる可能性があるので実験条件以外にも多少の違いをランダムに作ってある)。一方は直前の職が正規雇用または失業状態で、他方はパート、派遣、または不完全雇用である。不完全雇用とは、求職者のスキルレベルより顕著に低いスキルしか必要ない仕事のことで、この実験では、求職者はすべて中西部のランキングが同程度の2つの公立大学のうちどちらかを卒業し、その後 2年間働いてから転職し、その次の仕事を4年半つとめたあと、さらに転職したことになっているのだが、この最後(直近)の仕事が、大規模小売店の販売員 (sales associate) で、それ以前の仕事が専門職など明らかにもっとスキルが必要な仕事であったのに対して、顕著に必要なスキルレベルが低くなるようにしてある。非正規雇用や正規雇用、失業に関しても学歴、初職、第二職は同じだが、三番目の職だけが非正規雇用だったり、失業状態だったりするように作られている。

このような履歴書を、ニューヨーク、アトランタ、ロサンゼルス、シカゴ、ボストンにある会社の求人に対して送りつけている。ただし、2012年11月から2013年6月までに全国規模のオンライン求人サイトにあがってきた求人で、条件に合うもの(職種は管理職、販売職、会計に限定)をサンプリングしている。有効サンプル・サイズは 2420。従属変数は肯定的な連絡(面接などの通知が電話などで返ってくるかどうか)で、分析の主要な結果は、以下の図(p.274 より転載)のようになる。

  • 検定は正規分布を使った単純な平均値の差の検定
  • * 同じ性別の Full-Time と比べたとき p < .05,
  • **       〃         p < .01
  • + 同じ従業上の地位の男女を比べたとき p < .05.
Full-Time (正規雇用に該当)の場合、男女とも 10.4% が肯定的な連絡 (Callback) を受け取っているが、非正規雇用 (Part-Time, Temporary Agency) や不完全雇用 (Skills Underutilization)、失業 (Unemployment) は Callback rate がやや低いことがわかる。このような差は男性の場合は有意であるが、女性の場合は有意にならない。ただし、有意な交互作用があるかどうか検討すると、有意になるのはパートタイムだけで、残りの三つに関しては、男女で同じぐらい Callback Rate が下がると考えたほうがいいのかもしれない。このような結果は応募した職種や地域、企業規模を統制しても同じである。

つまり、少なくともパートタイムに関しては仮説通りの結果が得られており、女性の場合はパートタイムでも採用で不利になりにくいが、男性の場合は不利になるのである。

このような非正規雇用などに対する採用担当者の評価の低さは、求職者の能力 (competence) が低いと判断されているからなのか、それともコミットメントが低いと判断されているからなのかを調べるために、ネットで企業の採用担当者を対象にして調査がなされている。詳細は割愛するが、結果としてはコミットメントよりも能力が低いと評価されているせいで Callback Rate が下がるという結果であった。

ネット調査の方は中途半端な印象だが、フィールド実験の方はおもしろかった。非正規雇用の職歴が能力の低さのシグナルになるというのは、専門家の間ではほぼコンセンサスがあるように思うが、それが男性に関して顕著で、しかも失業の場合と大差ないほど低いというのは、発見であった。ただし、これは履歴書を送ったら面接に来いと言われた、というだけのことで、この後の面接をパスしなければ採用はされないので、最終的に採用に至るかどうかはまた別の問題だということは著者も述べているとおりである。

こういう対象者をひっかけるような実験(例えば最近読んだ論文だと Keizar et al. 2008)が倫理的に許されるのか気になったので、American Sociological Association の Code of Ethics を見てみたら、インフォームド・コンセントが大原則だが、対象者に対する被害が殆ど無く (no more than the minimal) 、インフォームド・コンセントをとろうとすると実験や調査が台無しになってしまうような場合は、大学等の倫理委員会の許可を得た上でインフォームド・コンセント無しで実験や調査をしてもよい、ということになっている。妥当なルールだと思う。

「企業業績の不安定性と非正規労働: 企業パネルデータによる分析」(森川 2010)

森川 正之, 2010, 「企業業績の不安定性と非正規労働: 企業パネルデータによる分析」 RIETI Discussion Paper Series 10-J-023.
非正規雇用率と企業の繁忙の変化について分析した論文。売上や生産量の変化が大きい企業ほど、それに応じて従業員数を変化させる誘引が強い。それゆえ、解雇や採用のコストが比較的低い非正規雇用へのニーズが強まると考えられる。特に派遣や臨時雇用のように、あらかじめ雇用期間を明確に定めた雇用は雇い止めが簡単なので、売上や生産量の変化が大きい企業からのニーズが大きいと考えられる。逆に言えば、安定した企業では派遣や臨時雇用へのニーズが低いし、変化が小さいにもかかわらず臨時雇用や派遣を雇うことは、かえって生産性を下げると考えられる(言い換えれば変化が大きい企業は臨時雇用や派遣を雇ったほうが生産性が高い)。このような仮説は常識的に理解可能であるが、きちんとこれらの仮説を検証した論文は見たことがない。この論文ではこれらの仮説を検証している。

データは経済産業省「企業活動基本調査」の個票データ(1994〜2006 年)で、派遣労働者については2000年以降のデータが用いられている。「パート」とか「正社員」といった用語が用いられているが、これらは労働時間で客観的に分類されており、パートと呼称されていても正社員と同じ時間働いている人は「正社員」のほうにカテゴライズされてしまっている点に注意。臨時・日雇いも雇用期間が一ヶ月以内の者を指しているので、それ以上はカウントされていない点にも注意。せっかくのパネル・データなのだが、なぜか固定効果モデルやランダム効果モデルは用いられておらず、Pooled OLS がなされている。

雇用創出率や雇用喪失率がまず分析されているが、興味深かったのは、雇用数(の対数)の変化の分析である。差分をとって相関係数を計算しているので、固定効果モデルの推定とおなじになるはずである。フルタイマーとパートタイマーの変化は弱い負の相関 (-0.049〜 -0.091)で、一方が増えると他方が減る、つまり、代替関係がほんの少しだけあることが示唆されている。臨時・日雇いとフルタイマーの数の変化の相関は -0.02〜0.01 でほとんどゼロという印象(統計的に有意かどうかは不明)なのだが、派遣とフルタイマーの数の相関はプラスで、0.071〜0.349 である。

パート率、派遣社員率、臨時雇用率を従属変数として Pooled OLS で回帰分析すると、売上の変化の激しさ(ヴォラティリティ)は、パート率には影響しないが、派遣と臨時雇用の比率を高める効果があり、派遣のほうが効果が大きい。企業の生産性を従属変数として Pooled OLS で回帰分析すると、ヴォラティリティと三つの非正規比率変数の交互作用効果が正の有意な値を示しており、ボラティリティの高い企業ではパート率、派遣社員率、臨時雇用率が高いほど生産性が高いという結果である。ただし、なぜか三つの非正規比率の変数は同時にモデルに投入されておらず、別々に推定されているので、結果の解釈は微妙である(同時に投入してくれよ)。

ディスカッション・ペーパーなので、分析は雑な感じであるが、サンプルサイズが 10 万ぐらいあるので、たぶんもっと洗練された分析をしても結論は同じであろう。ヴォラティリティが高いほうが非正規の採用は合理的というのは、納得できるのだが、ヴォラティリティが中央値未満だと、臨時・日雇いを増やすとかえって生産性が低いという結果が出ていた。むやみに非正規雇用を増やすことはかえって企業の生産性を下げるという説もあるが、そのような議論にとっては追い風の結果である。産業の効果は統制されているが、どの程度細かく分類しているのかはよくわからないので、もう少し詳しく知りたいところである。

『多重時系列モデル』 (Brandt and Williams 2006)

Patrick T. Brandt and John T. Williams, 2006, Multiple Time Series Models, SAGE.
Vector Auto Regression (VAR) の概説書。回帰分析では、一方が独立変数で他方が従属変数といった具合に因果の向きが明確であればよいのだが、実際にはそうではない場合もけっこうある。時系列データを使った回帰分析の場合も事情は同様なので、双方向の因果も想定した分析が必要な場合も多い。構造方程式モデリング (Structural Equation Modeling: SEM) の応用もなされているようだが、誤差の系列相関など通常の SEM のソフトウェアでは簡単に扱えない問題も多い(M-Plus なら扱えるのかもしれないが)。

VAR はこのような時系列データの双方向の因果関係を扱うためのアプローチである。モデルは単純で、例えば Xt, Yt, Ztという三つの変数の間に因果関係が想定される場合、すべての変数のラグ変数を何時点か前まで遡ってとって、それらを独立変数として回帰分析する。すなわち、



である。何時点前までラグ変数をとるのかは、データへのフィッティングによって決める。ただし、残差 dt, et, ft は互いに相関しているが、系列相関の類はないと仮定して同時推定する。係数は通常の最小二乗法 (Ordinary Least Square: OLS) で推定しても一致推定量が得られるそうである(ただし、自由度や標準誤差は同時推定したほうが正確なのだろう)。要するに互いのラグ変数に回帰させているだけである。そして、モデルからある変数を取り除いた時(ある変数のパラメータをゼロに固定した場合)、フィッティングが低下するならば、その取り除いた変数は従属変数にたいして、効果があると考える。このような考え方をグランジャー因果性 (Granger Causality) という。さらに、ある変数の値の変化が、他の変数の値の将来の値にどの程度の影響をおよぼすかを計算する。これを インパルス応答分析 (Impulse Response Analysis) という。他にもモデルからの予測値と実測値の差の分散を、3つの内生変数の成分として分割して、相対的な影響力を計るというやりかたもある。これは Decomposition of the Forecast Error Variance (予測誤差分散分解?)と呼ばれる。こういった一連の分析を VAR (Vector Auto Regression) と呼ぶようである。

VAR の特徴は、真の因果メカニズムの特定をしようとするのではなく、互いが互いの予測にどの程度役立つかで因果関係を判定しようとする点(Granger Causality をの採用)であると Brandt と Williams は言う。通常の回帰分析ではモデルが真のメカニズムに合致しているかどうかが問題になるが、VAR は最初からそれをあきらめている。予測に役立つからといって因果的な効果があるとは限らないので、Granger Causality にはとうぜん批判があるわけだが、実際にはデータだけから真のメカニズムを特定するのは非常に困難なので、こういう考え方が現実的であるという主張にも説得力はある。

ただ、この本は入門書としてはまったくダメで、初学者が読んでもさっぱりわからないと思う。すでに VAR をある程度知っている人ならば、それなりに学ぶ点はあるのかもしれないが、記述は抽象的で 全 84 ページ中、最初の 58 ページはまったく具体的な数値例など出てこない。59ページから応用例になるのだが、これも教科書に記載する例にしては微妙すぎるものだし、誤植も多い。明らかにこの緑本シリーズの趣旨から逸脱したテキストで、残念。

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