Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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「文化の書き込まれた偏見:不平等生成過程での製品の役割」Childress and Nault 2019

Clayton Childress and Jean-François Nault, 2019, "Encultured Biases: The Role of Products in Pathways to Inequality," American Sociological Review, Vol.84 No.1, pp.115-141.
小説の内容と編集者や代理人のマッチング過程が、人種等の不平等につながることを主張した論文。ブルデューの文化資本論によれば、評価者は自分と類似したハビトゥスを持つ人を高く評価しやすい。それゆえミドルクラスはミドルクラスのハビトゥスを持った候補者を高く評価し、結果としてミドルクラス出身の若者のほうが、ミドルクラスの仕事につきやすい、というわけである。米国の実証研究でも似たような主張がなされているようだが、Childress and Nault が主張するのは、評価者と製品のあいだにも、似たようなメカニズムが働くということである。つまり、評価者は自信と文化的に親和的な製品を高く評価しやすい、という仮説である。

ただし、このようなメカニズムはいつでも作動するわけではない。第一に、その製品の市場に不確実性が高い、つまりどの製品がヒットするか予測が困難でなければならない。なぜなら不確実性が低ければ、経済合理性の論理が強く働き、文化的に親和的でなくても「売れる」製品が好まれるはずだからである。第二に、評価者は自律性を持っていなければならない。他者の強い影響下にある場合、自分と文化的に親和的な製品を選びたくても選べない場合があるからである。第三に、簡単に脱分化化 (de-cultured) されるような製品の場合は、上記のような文化的親和性の論理は働きにくいだろう。さらにこのようなプロセスが不平等につながるためには、評価者の文化的多様性が低くなければならない。評価者が多様で好まれる文化も多様ならば、特定の文化やハビトゥスの担い手だけが好まれるということは起きないはずだからである。

上のような四つの条件に適合し、不平等が生じている業界として、現代米国小説の出版産業が検討されている。ここでいう製品とは小説であり、評価者とは編集者ないしは代理人のことである(以下、両者を編集者と総称)。どんな小説が売れるかは予測困難であるし、編集者は高い自律性を持っており、彼らが出版の可否の決定に非常に強い影響力を持っている。さらに小説は非常に文化的な製品であるし、米国の編集者はミドルクラス以上の出身の白人がほとんどであるという。白人率は 88% とか 94% といった数字があげられており、編集者になるにはほとんど無給のインターンシップを経なければならず、親の経済的援助なしには生活できないという。

データは 2015 年の小説エージェントのデータベース (N = 447〜1086) と2008年から2009年にかけてなされた編集者や作家、計 82 人へのインタビューと出版社での4か月の参与観察、6ヶ月の一般的な産業での参与観察である。結果として、白人の編集者は白人が主人公の小説を、女性の編集者は女性が主人公の小説を、若い編集者は若者が主人公の小説を、好んで出版する傾向が示されている(オッズ比で5倍前後の有意差あり)。逆に言えば黒人が主人公の小説を出版するのは主に黒人の編集者なので、上記のようにほとんどの編集者が白人という状況では、黒人が主人公の小説は出版されにくい、ということになる。つまりこの論文でいう「不平等」とは主に人種的不平等である。

こういった「不平等」は露骨な差別意識にもとづいているというよりも、編集者が個人的かつ直感的に「よい」とか「共感できる」と思った小説を出版しようとする傾向がある、そしてそれは業界で推奨されてさえいるからであるという。それゆえ、主人公と編集者自信が似ているとか、編集者が育った町が舞台とか、編集者が現在直面している問題を扱っているとか、そういった小説が出版されやすいという。人種が同じである方が共感をえやすいというのも当然で、こういった慣行は編集者自身にも自覚されているようである。

以下感想。主張はごもっともで特に異論はない。当たり前といえば当たり前の結果ではあるが、オッズ比で 5 倍も差がつくというのは想像以上で、そこはおもしろいと思った。また文化的親和性の論理はどんな状況でも働くというわけではなく、特定の条件下で働きやすくなるという議論ももっともで、こういった方向性は生産性があってよいと思う。ただし、この論文では小説出版業界だけが問題になっているので、上記の4つの条件が本当に文化的親和性の論理を作動しやすくするような要因なのかどうかは今後検証される必要があろう。

著者たちは、人と人の文化的親和性ではなく、人と製品の文化的親和性を扱ったのがこの論文の独創的かつ重要なポイントであると繰り返し強調しているのだが、実際には小説の主人公の性別や人種がその小説の作家と同じ性別や人種である例しか参照されていないので、けっきょく編集者と作家の文化的親和性が出版確率を高めていると考えても同じで、あまり説得力がない。また、ここでいう「不平等」とは一体何なのかはっきり書かれていない点は残念だった。非白人の編集者が 6% なので、非白人の作家には出版の機会が限られている、と言っているように読めるのだが、もしも編集者に原稿を持ち込む小説家に占める非白人の比率が 6% 未満ならば、不平等があるとはいえないが、この比率は不明である。Childress and Nault は小説の読者の 24% は非白人であると指摘しているので、このような非白人の読者の数に見合った、非白人を主人公とする小説が出版されないことを「不平等」と言っているのかもしれない。しかし、本当にそれほど非白人のニーズが満たされない状況が長期にわたって続くことが、米国のような規制の弱い市場で本当にあるのだろうか、という疑問はわく。

「仕事満足度とひどい仕事:なぜ清掃員は仕事に満足なのか?」by Lene

Alexandre Léné, "Job Satisfaction and Bad Jobs: Why Are Cleaners So Happy at Work?," Work, Employment and Society, Vol.0 No.0, pp.1-16, available in Online First.
なぜ清掃員の仕事満足度が高いのか検討した論文。単純に考えて、楽で金銭的な報酬やフリンジ・ベネフィット、社会的に尊敬される程度(外的報酬)が高く、やりがいがあって、面白く、成長の機会があり、社会の役に立つ(内的報酬が高い)ような仕事のほうが満足度が高そうだが、必ずそうなるというわけでもない。これらが低くてもなぜか満足している人もいるし、逆にこれらの報酬が高くても満足しない人もいる。清掃員は外的報酬も内的報酬も低いと言われているが、 Léné によれば彼らの平均的な仕事満足度はかなり高い。その理由は彼らの現在の仕事の性質というよりも、彼らのこれまでの職歴や将来移動しうる仕事の性質、準拠集団、といった彼らをとりまくさまざまな文脈によるという。

データは French DARES Working Condition 2013年調査で、分析に用いる有効サンプルサイズは 30,198 である。男女込みで平均年齢は 41 歳だが年齢の最小値と最大値は不明。仕事満足度の指標は、仕事満足に関係しそうな以下の意識項目を単純加算したもので(アルファ=.76)、ストレートに仕事に対する満足を尋ねてはいない(この調査では仕事満足度をたずねていない)。

仕事であなたは以下のようなことをどれぐらい感じますか?
  1. ほかの人の役に立つような何かをしている
  2. 仕事がうまくいったことに誇りがもてる
  3. この会社/組織に誇りが持てる
  4. 楽しめるような仕事をしている
  5. 自身の努力に見合った尊敬と承認を仕事によってえている
  6. 搾取されている
  7. 非難されるようなことをしなければならない
  8. 退屈である

職業カテゴリ別に満足度の平均値を計算すると表 1 のとおりで、分散は不明なのでこれらの平均値のあいだに有意差があるのかも不明であるが、回帰分析ではいろいろな変数を統制しても清掃員 (cleaner) ダミーは一貫して正の有意な値を示すので、他の職よりも有意に高いことはまちがあるまい。

表1 職業カテゴリ別仕事「満足度」の平均(Online Supplement の Appendix 3 より転載)
Occupational Category n 平均満足度
Liberal professions 96 .97
cleaners 2874 .78
Agricultural workers 240 .67
Managerial staff working in the public sector 806 .56
Managerial staff working in the public sector 806 .56
Secondary school teachers, scientific professions 1345 .49
Professions linked to information, the arts and entertainment 224 .48
Civil servants and general duty personnel working in the public sector 4410 .43
Intermediate occupations in healthcare and social work 2552 .4
Skilled craft-type manual workers 1392 .3
Engineers and technical managers working in the private sector 970 .3
Primary school teachers and employees of similar status 1145 .21
Intermediate administrative occupations in the public sector 974 -.01
Foremen, supervisors 594 -.29
Administrative staff working in the private sector 1577 -.37
Police and military 669 -.38
Unskilled craft-type manual workers 665 -.4
Intermediate administrative and commercial occupations in the private sector 1762 -.57
Technicians 1246 -.59
Drivers 573 -.76
Employees working in the retail industry 1071 -1.53
Skilled manual workers employed in handling, warehousing and transportation 403 -1.73
Skilled industrial-type manual workers 1097 -1.73
Unskilled industrial-type manual workers 799 -2.01

この表1を見るとわかるのは、仕事満足度は職業の社会経済的地位にある程度相関しているが、清掃員は例外的に満足度が高いということである。回帰分析では社会人口学的な変数と清掃員ダミーだけを統制したモデルでは、R2 = .131 であるが、さらに仕事の性質に関する 40 ぐらいの変数を統制しており、これによって R2 は .354 まで上昇している。しかし、清掃員ダミーの係数は .731 から .478 まで低下しただけで、有意なままである。清掃員ダミーの効果の .478 / .731 = 65% は上記の統制変数によって媒介されているわけだが、どの変数によって特に媒介されているのかは記述がない。Léné はむしろいろいろ統制しても残る .478 の効果はきっと上記の文脈効果に違いない、ということを強調しているが、もちろんそうだという保証はない。

以下、感想。仕事満足度をストレートに聞いても、社会経済的な地位はそれほど強く相関しないような印象があるのだが(自信はない)、ここでは私の印象よりもはっきり出ていて意外だった。清掃員は例外的というのはおもしろい話で、「人に役立っていると実感できる」、「一般の人と関わる機会がある」、「仕事で失敗すると減給される」といった統制変数が仕事満足度に強い有意な効果を持っているのだが、これらはある程度、清掃員ダミーの効果を媒介しているのではないかと思った。Léné の言うことは専門家の間ではふつうに言われていることで、ただ証拠なしにそれを言っても意味がないから、みんな書かないだけなので、Léné の主張は根拠に乏しいと批判されても仕方あるまい。むしろどんな統制変数が主に清掃員ダミーの効果を媒介しているのかについて検討するほうがよっぽど生産的でおもしろいのに、そこが書かれていないのが残念である。仕事の性質についていろいろな角度からたずねているので、おもしろいデータだと思う。もちろんこの従属変数は「満足度」ではない、という批判は可能なのだが、似たような概念にはなっている気がする。

献本御礼:安井大輔編『フードスタディ・ガイドブック』
食にまつわる人文・社会科学系の代表的な著書を49冊紹介した本。各章3〜7ページぐらいでしょうか?どうもありがとうございます。勉強させていただきます。
McVicar, et al. 2018, 臨時雇用と職歴: Bridge or Trap?

Duncan McVicar, Inga Laß, Yin-King Fok and Mark Wooden, 2018, "Contingent Employment and Labour Market Pathways: Bridge or Trap?," European Sociological Review, Vol.35 No.1, pp.98-115.
職歴を7分類して、どのような人がどのような職歴をたどりやすいのか分析した論文。臨時雇用が長期雇用へとつながる架け橋 bridge となるのか、それともいったん入ったら抜け出せない罠 trap なのかといった議論は西ヨーロッパを中心に盛んになされている。McVicar, Fok, and Wooden は両者を対立的にとらえるのではなく、架け橋になる場合もあるし、罠になる場合もある、と考え、どちらが多く、誰がどちらの経路をたどりやすいのか、というふうに問題設定すべきだ、と主張する。保守主義レジームの場合、労働市場が硬直的なので、罠としての側面が強くなりやすいが、自由主義レジームであれば、臨時雇用と長期雇用のあいだの移動障壁はそれほど高いものにはならないと予測できる。また、男性よりは女性、高学歴者よりは低学歴者、若者よりは中高年のほうが罠としての臨時雇用につきやすかろう。

上記のような仮説をオーストラリアのパネル調査 HILDA Wave 1-14 (2000-2014) を用いて検証している。 Wave 1 の時に15-59 歳だった男女のパーソンイヤーのみが用いられている。職歴は従業上の地位(フルタイム常勤、パートタイム常勤、有期雇用、臨時雇用、その他の雇用、無職)の系列として定義されている。Optimal Matching 法で職歴の類似性を算出し、Ward法で階層的クラスター分析して、職歴を分類している。罠型と架け橋型が分離できるまでクラスターを増やしていくと、以下の7つに職歴は分類できる。

  1. フルタイム常勤一貫
  2. フルタイムから無職へ
  3. 臨時からフルタイム常勤へ
  4. 臨時一貫/浮動
  5. パートタイム常勤一貫
  6. その他の雇用形態
  7. 無職
3番目が架け橋型、4番目が罠型の職歴と解釈されている。3番目と4番目、5番目の人数はほぼ同じである。、次にどのような人々がどのような職歴を歩みやすいのか分析されているが、ほぼ仮説通りの結果が得られている。ただし、若いほど「罠」型より「架け橋」型のクラスターが多いという仮説は支持されていない。

以下は感想。オーストラリアでは非正規雇用を、パートタイム、有期雇用、臨時雇用、に分けている点が興味深い。有期雇用と臨時雇用は法的にも扱いが異なり、前者のほうが保護が強く、2番目の「フルタイムから無職へ」クラスターにもっとも多く含まれることから、定年退職後の雇用延長に用いられていることが推測される。日本の嘱託社員に近いのかもしれない。また、パートタイムでも常勤 permanent と位置づけられる人がフルタイムの四分の一から五分の一程度いる。オーストラリアはふつう自由主義レジームに分類されるので、労働市場の分断は日本や大陸ヨーロッパに比べると弱いと予測されるが、「臨時一貫」クラスターと同じぐらい「臨時からフルタイム常勤へ」クラスターの人々がいることは、ほぼ予測通りという印象である。

確かに非正規雇用といっても色々な仕事があるので、架け橋になる場合と罠になる場合と両方あるだろう、という議論の出発点には同意できる。ただクラスター分析で分類して、それを職歴のタイプとして扱う、というやり方には同意できない。例えば「臨時からフルタイム常勤へ」クラスターの中にも 11.2% だけ臨時雇用を経験したことがない人がいる。機械的に類似性の高い職歴を一つのカテゴリにまとめていけば当然こういうことが起きるが、これでは理論との齟齬が無視できない。

私ならどのようなタイプの臨時雇用が架け橋になりやすいのか、といったリサーチ・クエスチョンをたてる。例えば専門職の臨時雇用は常勤に移行しやすい、といった仮説を検証するわけである。いろいろ批判するのは容易であるが、自由主義レジームでは労働市場の分断が比較的弱いため、そもそも非正規雇用の性質に関する研究が少なく、そういう意味で貴重な研究と言えよう。

献本御礼:井口暁
京大に提出された博士論文をブラッシュアップしたものだと思います。本の帯には
ファースト・オーダーの観察の水準へと回帰せよ
とあります。どうもありがとうございます。勉強させていただきます。
献本御礼:吉川徹・狭間諒太朗編『分断社会と若者の今』
本の帯には
「最近の若者は、○○」って言ってるオトナに反論したい。
とあります。データ分析にもとづいた若者論のようです。勉強させていただきます。どうもありがとうございます。
献本御礼:井上慧真『若者支援の日英比較:社会関係資本の観点から』
日本の地域若者サポートステーション事業とそのモデルになったイギリスの事業の比較だそうです。どうもありがとうございます。勉強させていただきます。
献本御礼:神林博史『1歩前からはじめる「統計」の読み方・考え方』第2版
本書の第 2 版をいただきました。上のリンクと写真は第 1 版かもしれません。第 2 版の帯によると、
データのアップデートに加え、「統計の基本の基本」の解説をさらに充実
だそうです。どうもありがとうございます。勉強させていただきます。
献本御礼:木下衆 2019『家族はなぜ介護してしまうのか:認知症の社会学』世界思想社
京大に提出した博士論文をブラッシュアップしたものだと思います、たぶん。どうもありがとうございました。勉強させていただきます。
献本御礼: 佐藤裕, 2018 『新版 差別論:偏見理論批判』
2005年に出た本の改訂版のようです。勉強させていただきます。ありがとうございました。

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