Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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献本御礼:橘木俊詔・高松理江『幸福感の統計分析』
橘木 俊詔,高松 里江
岩波書店
¥ 2,484
(2018-09-27)

本の帯には
社会学・経済学からのアプローチ
「幸せ」を感じているのは誰なのか
とあります。ありがとうございました。勉強させていただきます。
献本御礼:W. シュルフター著(田中紀行監訳)『マックス・ヴェーバーの比較宗教社会学』
最近の若い人は知らないかもしれませんが、シュルフターはヴェーバー研究で有名な人です。どうもありがとうございました。勉強させていただきます。
「体重による賃金低下:肥満差別のメカニズム」 Bozoyan and Wolbring 2018

Christiane Bozoyan and Tobias Wolbring, 2018, "The Weight Wage Penalty: A Mechanism Approach to Discrimination," European Sociological Review, Vol.34 No.3, pp.254-267.
肥満差別のメカニズムについて検討した論文。米国では体重が重すぎると賃金が低くなる傾向があることはこれまでの研究で繰り返し指摘されているが、そのメカニズムははっきりしない。女性差別の研究でよく使われているメカニズムとして、人的資本説、統計的差別説、選好による差別説、の三つがあるが、それらは過体重 (over weight) にも適用できる。つまり、体重が賃金を押し下げているのではなく、人的資本の低さが賃金を低くしているのであって、一種の疑似相関であるという説が人的資本説である。人的資本説が正しければ、人的資本を適切に統制できれば、体重が賃金を下げる効果は消滅するはずである。統計的差別説によれば、雇い主は体重を労働者の人的資本のシグナルとして用いているということになる。つまり、雇い主は必ずしも労働者の人的資本を正しく知ることはできないため、観察できるシグナル(例えば学歴やこれまでの実績)から人的資本を推測する。体重もそのようなシグナルの一つであり、体重と人的資本の間に関係があるということが統計にある程度裏付けられているというのが、統計的差別説である。この説が正しければ、雇い主が労働者の人的資本を知っているような状況では肥満差別は起きないことになる。例えば勤続年数が長いとか、人的資本の可視性が高い職種では肥満差別は起きないはずである。最後に選好による差別によると、雇い主や同僚が太っている労働者を好まないために賃金が低く抑えられると考えられる。これは勤続年数や職種とは関係ないと考えられている。

データは German Socio-Economic Panel の 2002〜2012 の偶数年で、18〜66歳の労働者である。従属変数は対数時給、肥満の指標は身長、体重、年齢、性別から推測した体脂肪 (Kg) である。人的資本は、労働経験年数、学歴、健康状態、職種、知性を測るテストの点数、である。推定にはランダム効果モデルが使われている(固定効果モデルを使うには体重の分散が小さすぎるらしい)。分析の結果、人的資本を統制しないと、体脂肪が 1kg 増えると男性なら 0.5% 、女性なら 1.1% 時給が減少するという推定結果だが(男女とも有意)、人的資本を統制すると男性の効果は半分以下に減少し有意でなくなる。女性の場合、人的資本を統制しても 0.8% 時給を下げる効果があるという推定結果である。つまり男性の場合は人的資本による疑似相関と考えてよさそうだが、女性の場合はそうとは考えられないということである。さらに年齢や就業年数と体脂肪量の交互作用効果が推定されているが、いずれも有意ではない。つまり、統計的差別説は支持できない。となると女性に関しては選好による差別説がいちばんこの分析結果には当てはまるということである。

特に異論はないのだが、「人的資本」とか「能力」とかって、どの程度適切に測定できるのかってことはつくづく考えさせられる。職種によって必要な能力は違うだろうし、一次元で構成できるのかもかなり怪しい。3〜5次元程度に分解して考えたほうがいいのかもしれない。例えば、運動能力、知力、人間関係処理能力、手先の器用さ、等々、考えられそうだが。

献本御礼:中村ほか編『教育と社会階層:ESSM全国調査からみた学歴・学校・格差』
本の帯には
幼稚園・保育所の選択、学校体験の影響、いじめ問題、専門学校進学の意味、家族からの影響、大学進学率の上昇....。教育にフォーカスをあてた日本ではじめての本格的な階層調査の成果
とあります。ありがとうございました。勉強させていただきます。
社会学者の性別と「オシャレ」度

国際社会学会大会で早く会場につきすぎてしまったので、暇つぶしにとったデータの分析。以前から男性より女性のほうが「オシャレ」だと感じていて、それは同業者である社会学者に関しても同じだと思っていた。これはよく言われているように、女性のほうが「見られる」性であるという、ジェンダー間の非対称性が背景にあると考えられる。男性は女性ほどには容姿が評価の対象にならないが、女性の場合は容姿がかなり重要になるので、女性のほうがオシャレになりやすいと考えられる。このような非対称性の背景には家父長制があり、抑圧となる(コルセットや纏足が典型的)ことは多くのフェミニストたちが指摘している通りであるが、着飾ることは自己表現でもあり、「女性のオシャレは家父長制的抑圧」という側面だけを強調することには批判もある。

実際、McClintock (2014) によると女性のほうが physical attractiveness の平均値が高い。いっぽう小林 (2017)小林・谷本 (2016) によるとルックス(顔)の自己評価や他者評価の平均値に男女差はない。ワーディング/測定法がそれぞれ違うし、国も違うので、分析結果が一致しないのは不思議ではないのだが、McClintock のほうが顔に限定せず、全体的な見た目の魅力を測っており、そのような場合には女性のほうがオシャレなので魅力的と評価されているという可能性は考えられる。

今回は2018年の7月にトロントで開催された国際社会学会大会の会場のロビーのようなところを通る人を私が観察して、性別とオシャレかどうかを記録した。データをとったのは 7/19 の午後の部会が始まる前の 15分程度で、発表が行われる部屋のすぐ近くだったので、通りかかったのはすべて国際社会学会大会の参加者だと考えられる(参加者は名札を首にかけることになっているが、このルールは徹底されていないので名札はあてにならない)。性別とオシャレかどうかは、私の主観で判定している。LGBT等も含まれているのだろうが、単純に男女で分類した。特に迷うようなケースはなかった。オシャレかどうかについては私の好みが反映している気はする。

結果は下の表のとおりである。

社会学者の性別とオシャレかどうかのクロス表
オシャレか
Yes No
13 30
48 25


オシャレ率を男女それぞれについて計算すると、男性が 30%, 女性が 66% で 0.1% 水準で有意な差がある (X2 = 12.3, df = 1)。この結果は予想通りなのだが、むしろ「発見」だったのは女性のほうが私の前を通りかかった数が多いということである。男性が 43人、女性が 73人で女性の比率は 63% である。母集団における女性の比率は 50% だという帰無仮説を検定すると、1% 水準で棄却される(二項分布を使った検定)。男性のほうが遅れて会場を訪れやすいとか、サボりやすいとか、私が観察していたフロアにはたまたま女性の多い Research Committee が集まっていたといった可能性も考えられるが、確かにほかのフロアや別の日でも女性の比率は高く、国際社会学会では女性のほうが多数派になりつつあるというのは時代の変化を感じさせる発見だった。

肥満と社会経済的地位の関連:3論文レビュー

Youfa Wang, Carlos Monteiro and Barry M. Popkin, 2002, "Trends of obesity and underweight in older children and adolescents in the United States, Brazil, China, and Russia," The American Journal of Clinical Nutrition, Vol.75 No.6, pp.971-977.
Paula A. Braveman, Catherine Cubbin, Susan Egerter, David R. Williams and Elsie Pamuk, 2009, "Socioeconomic Disparities in Health in the United States: What the Patterns Tell Us," American Journal of Public Health, Vol.100 No.Suppl 1, pp.S186-S196.
Qi Zhang and Youfa Wang, 2004, "Trends in the Association between Obesity and Socioeconomic Status in U.S. Adults: 1971 to 2000," Obesity Research, Vol.12 No.10, pp.1622-1632.
肥満と社会経済的地位の関連について調べていて、このテーマに関係する論文を3本まとめて要約。まず最初の Wang et al. (2002) から。米国 (1974-1994)、ブラジル (1974-1997)、中国 (1991-1997)、ロシア (1992-1998) の4か国で子供(6-18歳)の肥満率のトレンドを分析したもの。各国の最新のデータを見ると、米国 (25.6%)、ブラジル (13.9%)、ロシア (9.0%)、中国 (7.7%) の順で肥満率が高い。データの時期が国によって異なるので、厳密なことは言えないが、ロシア以外では肥満率が上昇し、特に米国で上昇率が高い。

表1 各国の肥満率の年平均上昇率
Brazil China Russia USA
male 0.47 0.35 -0.98 0.58
female 0.45 0.08 -1.25 0.56


女性のほうが上昇率が鈍いのは、女性のほうが痩身規範が強く働いているということだろうが、米国の上昇率が最も高いというのはやや意外である。著者らが言うように、肥満は摂取カロリーが消費カロリーよりも多いことに起因しているはずだから、米国においてこの時期摂取カロリーがもっとも上昇した、あるいは消費カロリーの減少が激しかったということになる。ただこの時期の米国で豊かな世帯が増加してお腹いっぱい食べられる人が顕著に増えたとは考えにくいので、安くて高カロリーなファースト・フードなどの普及が原因ということだろうか。ロシアで肥満が減少している理由は、この時期、経済が混乱して一人当たり GDPが減少していることで説明されている。

興味深かったのは世帯収入と肥満率の関連で、1994年の米国では高収入世帯の子供ほど肥満率が低いが、1997年のブラジルでは高収入の世帯ほど子供の肥満率が高い。中国とロシアではほとんど関連がみられない。これまで何度か指摘されているのを聞いたような気がするが、近代化の進展に伴って、"痩せている/太っている" ということが社会的地位にもたらす含意が変わっていくということなのだろう。

二番目の論文では健康関連の指標が社会経済的地位によってどう異なるか、米国の全国サンプルで検討されている。それらの健康指標の一つに肥満率がある(20-64歳が対象)。世帯所得で見ても、学歴で見ても、最上層で肥満率が低いが、中層と下層の肥満率にはそれほど大きな差がない。男女別の集計はなされていない。

3番目の論文は、肥満と学歴の関連が 1971-2000 のあいだにどう変化したか記述した論文。20-60 歳が対象の米国の全国サンプル。全般に肥満率が上がっているが、高学歴者の肥満率の上昇率が高いため、学歴間の肥満率の差が縮小している。これは男女、人種別に分析されているが、ロバストな傾向である。ただ、最新の 1999-2000年のデータだけが突出してほかの年と異なる傾向を示しているので、その後の傾向も知りたいところではある。この分析結果は1番目の論文の結果とはあまり整合性がよくないが、対象者の年齢が異なるので、そのせいなのかもしれない。

献本御礼:中村高康『暴走する能力主義:教育と現代社会の病理』
表紙には
... 学習指導要領は教育システムが「育成」しようとしている「能力」の理念を間接的に表現している。しかし、その 「能力」が「新しい能力」であることを標榜しながら、実は陳腐なものの言い換えにすぎないもので一貫していたとしたら ... これが後期近代という時代に生じる能力論議の病的特質なのである。...
とあります。パラパラ読むとギデンズの再帰的近代の話がけっこう重要で、モニタリングと再帰性の過程が「能力」の評価課程にも働くことで、システムがうまくコントロールできず暴走する、といったギデンズ的な話なのかな、と想像しました。どうもありがとうございます。勉強させていただきます。
藤田結子・成実弘至・辻泉編『ファッションで社会学する』.F.モネイロン『ファッションの社会学』

ファッションの社会学の入門書と概説書。

『ファッションで社会学する』のほうは各章の執筆者が自分の研究成果についてわかりやすく概説しており、体系性のようなものはないのかもしれないが、わかりやすく、基本文献にも触れられており、入門書としてよいと思う。共著なので章によってクォリティにバラツキがあるのは致し方ないが、個人的には 1, 7, 10, 11章がおもしろかった。

『ファッションの社会学』のほうは前半は学説史、後半は自説の概説になっており、前半は役に立つ。後半はポストモダニズム色が濃厚で、根拠を示さず断言を繰り返し、私には理解できない文が多かった。ポストモダニズムが好きな人でないとついていけないだろう。学史は、ブランメルあたりから始めて、ジンメルを経て、アン・ホランダーとヴァレリー・スティールで終わっている。

献本御礼:菅原祥『ユートピアの記憶と今:映画・都市・ポスト社会主義』
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全体主義からの解放か
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映画人と人々の語りから、ポーランドにおける「社会主義」の記憶に迫る
とあります。どうもありがとうございます。勉強させていただきます。
「職場の健康促進プログラムが肥満者差別におよぼす影響」Powroznik 2017

Karen M. Powroznik, 2017, "Healthism and Weight-Based Discrimination: The Unintended Consequences of Health Promotion in the Workplace," Work and Occupations, Vol.44 No.2, pp.139-170.
職場の健康促進プログラムが太った人に対するイメージにどう影響するか分析した論文。太っている人は太っていない人に比べて社会経済的地位が低く、それは差別に起因するという説は米国ではけっこうある。とうぜん観察されない人的資本による疑似相関である(人的資本が低いほど太っていて、社会経済的地位も低い)という解釈もあるのだろうが、Powroznik はこれは差別だという前提で議論している。

こういった太った人に対する差別意識は、環境によってはっきり表明されたり、されなかったりすると Powroznik はいう。平等主義的な規範が社会や集団の中で共有されていたり、権力者や権威のある人々がこういった規範を支持している場合、偏見や差別意識は表明されにくいと考えられる。しかし、本音を隠すことはストレスなので、場合によっては偏見や差別意識は表明されることになる。 Powroznik によれば、差別の対象であるスティグマは自己責任であり、本人の努力や注意で避けられるようなものであると考えられるような場合、差別意識は表明されやすいという。これが肥満に対してあてはまりやすいということである。もちろん肥満は遺伝子や避けられない環境に起因している場合もあるので、単純に肥満が自己責任といえるのかどうか私は知らないが、いずれにせよ、人々が自己責任だと思っている場合に肥満差別は表明されやすいと予測されている。

このような「肥満は自己責任」という見方は、職場の健康促進プログラムによって強められるという。健康促進プログラムでは運動や食生活の改善によって健康を促進するように従業員に働きかけることになるが、これは個人が体重をコントロールできるという考え方にもとづいていることが多い。米国の半分程度のオフィスでは健康促進プログラムが導入されているというが、こういった環境下では肥満自己責任論が強まり、それは太った人に対する差別意識の表明につながる、という仮説である。

データはオンラインでのヴィネット調査で、架空の求職者の履歴書やエントリーシートを見てもらい、その人の印象や求職先の企業に雇ってもらえそうか、その企業にその求職者を推薦してもよいか、たずねられている。調査票は 4種類あり、求職者が太っている場合と痩せている場合(どちらも元々は同じ女性の写真で、画像を加工して太っているように見せたり、痩せているように見せたりしている)と、求職先の企業が健康促進プログラムを導入していると回答者に知らせている場合と、知らせていない場合を組み合わせて四通りになる。健康促進プログラム導入のシナリオの場合、具体的にどのようなプログラムを導入しているか示されており、本人の努力次第で健康は促進できるというイメージが喚起されている(はずである)。

理論上は、太っている求職者のほうが痩せている求職者よりも回答者の印象が悪く、その差は特に求職先が健康促進プログラムを導入していると知らされた場合に大きくなるはずである。確かに太っている人のほうが若干印象が悪いのだが、健康促進プログラムを導入している場合に特にその差が大きいというわけではない(つまり、求職者が太っているかどうかと健康促進プログラムの有無の交互作用効果は有意ではない)。これは仮説に反する結果のはずだが、なぜか著者は仮説が支持されたかの如く論を進めており、なんだかなー、という感じである。また、不思議だったのは求職者がやせていても太っていても、健康促進プログラムが導入されている場合のほうが、若干求職者の印象が悪くなっていて(統計的に有意かどうかは不明)、どういう効果なのか興味深い。健康促進プログラムのある企業は従業員に対する要求水準が高いというイメージがあり、そのせいで求職者がその要求水準を満たしていないと感じる人が増えるということだろうか?

求職者を求職先の企業に推薦するかどうかについては、記述統計からもとのクロス表をほぼ再現できるので、それを使って自分でロジスティック回帰分析した結果が下の表1 である。

表1 推薦するかどうかのロジスティック回帰分析
Model 1 Model 2
(Intercept) 2.44*** 2.36***
(0.27) (0.35)
肥満 -0.94*** -0.82
(0.27) (0.42)
健康促進プログラム -0.69** -0.55
(0.25) (0.45)
肥満 × 健康促進プログラム -0.20
(0.55)
AIC 24.25 26.12
Log Likelihood -9.12 -9.06
***p < 0.001, **p < 0.01, *p < 0.05 N = 445

従属変数は求職者を求職先の企業に推薦するかどうかで、独立変数は求職者が太っているかどうかと、求職先が健康促進プログラムを導入していると知らされているかどうかである。やはり、肥満と健康促進プログラムの交互作用効果は有意ではなく、Model 1 と Model 2 の適合度を比較しても Model 1 のほうがよいので、Model 1 を解釈すれば十分である。これを見ると、求職先が健康促進プログラムを導入していると知らされていると、有意に推薦される確率が下がっており、交互作用効果は無視できるので、これは求職者がやせていてもほぼ同じだと考えられる。これは Powroznik が想定しているようなメカニズムであるとは考えにくい。にもかかわらず、こういった自分の仮説にとって不都合な事実を伏せるというやり方は、研究者として不誠実であると言わざるを得ない。

とはいえ、ヴィネットを使って見た目からのイメージを調べるというやり方は偏見の研究としてはまっとうだろうし、社会心理学でも使われていそうで、興味深く思った。写真を加工して太って見せたり、痩せて見せたりしているのだが、これもどの程度太らせるのかに結果が違ってくる可能性もあるので、けっこう好奇心をそそられる問題ではある。

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