Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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「わからない」ことの効用

何を聞かれてもすぐに答えが出てしまう社会学者がときどきいる。こういう人たちは頭がいいのは確かなのだが、研究者としては不幸である。なぜなら、どんな問題にも簡単に答えが出てしまうので、どんな研究成果も「当たり前」だと感じてしまい、わざわざ論文にして公表する価値を見出せないらしい。そのため、あまり論文をかけなくなるか、他人にはほとんど理解できないような難解な文章ばかり書くようになる。

よく言われるように、研究者に必要な才能の1つは、適切な問題を定式化する能力である。その問題は問う価値のある重要な問題であり、なおかつその論文の中で解決できるようなレベルの問題でなければならない。そういう意味では、なんでも簡単にわかってしまうのはまずいのである。最近、若年層の非正規雇用化について研究していて思うのは、大きな問題に答えを出すためには、小さな問題を1つ1つ解決しておくことが必要で、ジグソーパズルのピースを埋めていくような作業も重要である。こういう作業をスキップできてしまう人は研究者としては不幸なのである。彼らは問うべき問いを完全に見落としてしまっているのである。今年、若年非正規雇用について講義していると、「こういう重要な問題もありますが、まだ答えはよくわかっていません」と何度も連発してしまい、学生に申し訳ないと思ったことがある。学生には申し訳ないのであるが、そこには、いくらでも研究すべきテーマが転がっているということであり、研究者としては幸せなことなのである。「わからない」ということがわかるということこそ、適切に問題を立てるために重要なことなのであろう。

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コメント
from: xi   2008/01/10 5:24 AM
適切な問題?

「適切」って何ですか?
from: sociology   2008/01/11 5:24 PM
「問う価値のある重要な問題であり、なおかつその論文の中で解決できるようなレベルの問題」が適切な問題というつもりで書いたんですけど。
from: iwa   2008/01/12 10:59 AM
はじめまして、いつも面白く拝読させていただいています。

今回の記事、後半部分には同意なのですが、前半部分に一つ分からないところがあります。

> そのため、あまり論文をかけなくなるか、他人にはほとんど理解できないような難解な文章ばかり書くようになる。

の「あまり論文を書けなくなる」というのは何となく分かるのですが、「どんな問題にも簡単に答えてしまう人」が「難解な文章ばかり書くようになる」のはなぜですか。

そういう人は解決できないような問題ばかり問うことになるからでしょうか。
from: sociology   2008/01/13 12:20 PM
なぜかはよくわかりません。ただ経験則としてそういう傾向があるということです。私の憶測は以下のとおりです。「簡単に答えてしまう」といったって、その答えは、しばしば仮説の段階であり、複数ありうる答え/仮説の1つにすぎません。この仮説の「もっともらしさ」を増やすために、さまざまな調査や実験がなされるわけです。調査も実験も面倒で時間がかかりますが、こういった作業の結果が論文になります。「簡単に答えてしまう」人とは、調査や実験をスキップして結論に飛びつこうとする人たちだという見方もできます。しかし、それでは論文になりません。論文とは自明ではない知識を提供することが求められるからです。そこで、調査や実験に頼らず自明でない知識を作ろうとすると、「難解」になってしまうようです。自明でないということと「難解」ということが同一視されてしまっているのかもしれません。あるいは「簡単に理解できる」=「当たり前」=「論じる価値なし」といった発想なのかもしれません。
from: iwa   2008/01/13 3:16 PM
丁寧な回答ありがとうございます。憶測ということですが、けっこう納得がいきました。経験的な仮説を裏付けるために経験以外のものに頼ろうとしたら、そりゃおかしなことになりますよね。
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