Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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『コメント力』、プラグマティズム、「相手がもっとも力を注いだ点」

『質問力』がよかったので、同じく齋藤孝先生の『コメント力』も読んでみた。基本的な精神は『質問力』と同じなので、どちらか1冊読んで満足できた人はもう一冊は読む必要はないだろう。食い足りなかった人は私のように2冊とも読んでみてもよいだろう。

齋藤孝は実に興味深い。売れているのもよくわかる。

プラグマティックな問題構成

第1の注目点は、「コメント力がつくとこんなにいいことがある」という実利を説く点である。「頭のいい人だと思われる」「異性にもている」「出世の役に立つ」といったぐあいである。一般書だからわざと誇張しているのだろうが、社会学者ならばこんなことは書くまい。しかし、単に一般向けにするためだけに実利を説いているわけではなかろう。齋藤のアカデミックな仕事については何も知らないが、身体と知識や教育の関係をこの本の中でも何度か強調している。『声に出して読みたい日本語』も、「発声する」という身体の働きに注目した点が面白かったわけである。意図的な身体の働きは、行為の一種だから、行為と知識の深い関係に注目するのが齋藤の基本的なパースペクティブのひとつなのだろう。これはプラグマティズムに近い。「実利を説く」というやり方は、日常的な行為と知識を結び付けるもっともオーソドックスな手法なのだろう。

「ほめ」の一手

第2の注目点は、今回も基本は「褒めまくり」という点である。「質問=攻撃」という誤った固定観念を持っている人も多いが、コメントも質問も基本は相手を承認し、より深い相互理解を構成するためのものである。齋藤は基本的に相手を批判する気がないようである。「相手がもっとも力を注いだ点を見つけて、そこにコメントせよ」という主張が繰り返されているが、これも相手から学ぼうとする貪欲な姿勢が表れていて興味深い。相手を批判しようとする場合、相手が見落としている点や相手が十分に力を注いでいない点を見つけて批判することになるが、齋藤の戦略はその正反対である。相手が力を注いだ点からは、自分が知らないことを学べる可能性が高い。また、質問された人も力を注いだ点については話したいことがたくさんあるのが普通なので、議論も盛り上がる。

社会学の世界でどこまで使えるか

それでは、齋藤のコメント法はどこまで社会学者にとって使えるものだろうか。 結論から言うと、相手が自分の専門から遠い場合、齋藤メソッドは使える。しかし、近い場合は使いにくい。

社会学者は研究成果をまとめて学会誌や一般の本に発表する。研究成果は単に面白ければいいというものではなく、厳密な推論と証拠に基づいてなされる必要がある。それゆえ自分の研究の欠点(例えば、論理の破綻や証拠の不足、問題の不明瞭さ)は成果を公表する前に、ある程度つぶしておく必要がある。しかし、自分ではそのような欠点に気づかないことも多いので、他の研究者に聞いてもらったり読んでもらったりして欠点を最小化するという作業が不可欠である。それゆえ、専門の近い研究者にコメントする場合、相手が力を注いだところだけでなく、相手が力を注がなかった点にもコメントするのが親切というものである。学会や研究会では黙っているのに、匿名のレフェリーになったとたんに厳しく批判するというのは誠実さを欠いた行為のように思える。論文の審査には長い時間を要することが多いので、問題があればあらかじめ教えてあげることで、審査の時間を短縮できる。

専門が違う場合は、相手の研究の学術的な水準を十分に評価できないので、欠点についても正確な判断が難しい。そういう場合は、いい加減な根拠で相手の研究の欠点をあげつらうよりも、齋藤メソッドに従ったほうがお互いにとって利益が大きいだろう。

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