Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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始めよければ半分達成したも同じ? オランダにおける初職非正規の長期効果

 これもゼミ論文。

Steijn, Bram, Ariana Need, and Maurice Gesthuizen. 2006. "Well begun, half done? Long-term effects of labour market entry in the Netherlands, 1950-2000." Work, Employment & Society 20, no. 3: 453-472.
学校を出た直後、失業していたか、臨時雇用だったか、終身雇用だったか、でその後の失業リスク、上昇移動、下降移動のハザードを分析している。失業リスクに関しては、理論どおりで、学卒直後失業していた場合、その後の失業リスクは、exp(2.03)=7.6倍、学卒直後臨時雇用の場合、exp(0.93)=2.5倍、終身雇用よりも高い。失業や臨時雇用の期間ではなく、そういった経験があるかどうかが有意な効果を持つ。この不利は、労働経験年数とともに減少するが、完全に相殺されるまでには40年間かかる計算なので、退職するころにようやく差がなくなるという感じである。このような効果は、性別や学歴による違い(交互作用効果)はない。

 職業威信スコアが5以上変化した場合、「上昇移動」が起きたとみなされているが、このような上昇移動のチャンスは、学卒直後終身雇用や失業の場合よりも、臨時雇用のほうがexp(0.59)=1.8倍高い。著者たちは、臨時雇用の場合、最初の職の威信スコアは低いが、その後、それよりも高い職に移動しているからだと解釈している。このような上昇移動のチャンスの相対的な高さは、労働経験年数とともに減少する。このような結果から、初職の臨時雇用は、よりよい職への足がかり (stepping stone) になると結論している。少なくとも失業したままでいるよりは、上昇移動しやすいし、その後も失業しにくいということは確かなようである。

 日本でもそうだといいなあーというのが感想であるが、分析のやり方にはやや問題があるように思える。この分析では、職歴を回顧してもらって、職業歴のデータを得ている。SSMと同じ方法なのだが、このようなデータの場合、一人の対象者が、2回以上同じイベントを経験していることがある。一人1回までならばいいのだが、2回以上経験しているようなケースが多くなると、普通の離散イベントヒストリー分析(つまりはロジスティック回帰分析)の場合、標準誤差を過小に推定してしまうことになる。そこで、マルチレベルモデルか、多段抽出用のロバスト標準誤差の推定が推奨される。とはいえ、社会学者の多くは、標準誤差の意味さえよくわかっていないので、あまりうるさいことは言われないようである。もともとのデータの精度が低いのであまり細かいことを言っても仕方がないというのが実感なので、私も本気で批判する気はありません。

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