Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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『ライフストーリー - エスノ社会学的パースペクティヴ』

 授業の準備で読んだ本。前回論じた佐藤氏の本が、「フィールドワーク」の教科書であったのに対して、この本は、「ライフストーリー」の教科書である。データがインタビューして話をしてもらった記録に限定されている点が、佐藤の教科書と異なる。ライフストーリーについて論文などを書いたことのある研究者にとっては有益なのかもしれないが、私が読んでもほとんど役に立たなかった。本体よりも付録の論文のほうが具体的でわかりやすかった。

日本では主観的な意味世界の記述の重要性が強調されることがあるが、ベルトーの場合はそのような強調はしていない。この点については佐藤も同様である。もちろん、行為の意味を理解するためには、行為者の意図やその行為の文脈などを知る必要があり、ライフストーリーはそのための手がかりを提供してくれる。そういう点では、意味は重要なのであるが、行為や出来事はそれを観察したり体験する人々がどう感じようとも、実際にそこで起きているのであり、そういう意味では客観的事実なのである。ベルトーは自分の立場を称して、「リアリスト」と呼んでいる。ベルトーは「語られたストーリー」は実際に「生きられたヒストリー」とは区別して考えたうえで、「語られたストーリー」から「生きられたヒストリー」に迫るという立場をとっている。

 また、ある少数の個人の体験や意味世界を記述することを目的とする社会学者もいるが、ベルトーは、「社会的世界」の記述や説明こそがエスノ社会学の目的であるという。それでは、なぜ数十のライフストーリーの収集から「社会的世界」の記述や説明が可能になるのか。著者によれば「エスノ社会学的パースペクティブの中心的仮説は、社会的世界あるいは中宇宙全体を規定する論理が、社会的世界を構成する小宇宙でも同じように働いているということである」(p.40) という。例えば、著者はフランスのパン屋の研究をしているが、個々のパン屋が小宇宙、フランスのパン屋をとりまく全体が社会的世界ということになるようである。著者は30人ほどの製パン労働者に話を聞くと、パリ生まれの者に一人も会わなかったという。著者はできるだけライフストーリーの多様性を高めるために、いろいろな製パン労働者の話を聞くよう心がけたが、繰り返し同じパターンや特徴が現れたという。これを飽和のプロセスと呼んでいる。そして、なぜそのような共通性が生じるのかを調べていく。このような作業を通じてフランスのパン屋全体の状況について記述・説明できると考えるのである。

 パン屋の例の場合、パリのパン屋の息子や娘が店を継ぐことはないとという。なぜならパン屋は低賃金の長時間労働であるため、パリのパン屋の子弟は、ほかにもっと楽で賃金の高い仕事に就くのであるという。地方はまだ貧しく、低賃金の仕事で長時間働かざるを得ない人が多くいる。貧しい家庭の出身者の中には、子供のうちに地方のパン屋の徒弟に出される者もかなりいるという。地方のパン屋の主人は、徒弟期間中の若者を低賃金で働かせることができるが、徒弟期間が終わると若者にある程度賃金を支払わなければならないので、地方のパン屋では徒弟期間が終わると、あずかっていた徒弟の若者を解雇してしまうという。そのため、職を失った若者はパリに流入し、そこで製パン職人として働くという。このような地方出身の若者は、長時間・低賃金労働に慣れているため、パリの若者とは違って製パン工を続けるという。

 ここからは感想。飽和のプロセスという議論はかなりあやしい。実感としてはわかるが、厳密には論証になっていない。30人程度に話を聞いただけでは、たまたま例外的なグループを中心に話を聞いている可能性は十分にありうる。私が身の上相談の記事を分析していたとき、最初に入力した50ケースほどを繰り返し読んだときには、男女で相談内容についてある種の違いがあることに気づいた。ところが、これを120ケースほどに増やすと、そのような違いは見つからなかった。つまり、最初の50ケースはたまたま偏ったサンプルだったに過ぎない。また、経験則からいって、例外が1ケースもないはずがない。人々の生活は多様なので、社会学者の考えるパターンにおさまらない人々は必ず存在する。それにもかかわらず、「私が調べたパン屋ではすべてそうだった」と言われると、調べ方が悪いんじゃないかと思えてくる。著者は、一般化の問題を「飽和のプロセス」で解決できると考えているようであるが、人々の多様性を軽く考えすぎているのではないだろうか。

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