Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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本質的緊張: 研究におけるアイデンティティ・統制・リスク

Edward J. Hackett, 2005, "Essential Tensions: Identity, Control, and Risk in Research," Social Studies of Science, Vol.35 No.5, pp.787-826.
分子生命科学の研究者へのインタビューをもとに、研究者間のあつれきや研究テーマ・方法の選択をめぐるジレンマを論じた論文。以下のようなさまざまな「緊張」が論じられている。
  1. 分子生命科学の分野では、研究室内で複数の研究者が共同研究を行う。その際に、研究を指揮する教授や所長と、実際に実験に従事するポスドクや大学院生との間に、研究の方向性や方法を巡って意見が分かれることがある。このとき教授や所長は、ポスドクや院生の判断を尊重するか、自分の方針に従わせるか、というジレンマに直面する。研究の進展のためには、ポスドクや院生の自主的で主体的な研究への献身が不可欠なので、教授や所長は、彼らの判断を尊重したいという誘因をもつが、しかし、彼らの判断が正しいとは限らない。
  2. 研究テーマの選択には、常にリスクが伴う。それゆえ研究テーマの選択とは、異なるタイプのリスクのあいだでの選択であるという。例えば、すでに十分に習熟した研究方法を使って研究を続けるか、それとも新しい研究法の習得のために投資するか、という選択も、2つの異なるリスクの間での選択であるという。十分に習熟した研究方法を使えば、失敗はないしコストも低いが扱える問題が広がらない。逆に新しい研究法の習得のために投資すれば、扱える問題は広がるが、失敗の可能性は高まりコストもかかる。あるいは、人がやらない分野を研究するか、人がやっている分野を研究するか、というジレンマもある。多くの研究者が参入している分野は競争が厳しく、せっかく研究しても先に他の研究室に「発見」されて、研究が無駄になる可能性が高い。人のやらない分野ならば、競争相手がいないので先をこされるリスクはないが、せっかく研究成果を出しても、誰も論文を読んでくれないことになる。
  3. 他の研究室は、競争相手という意味では敵だが、彼らこそ自分たちの研究室が発表する論文の本当の価値を知る読者であり、彼らの発表する研究成果は、自分たちの研究の助けとなりうる。つまり、他の研究室は、同じ分野を研究する仲間でもある。
  4. 教授や所長は、実験室で実験に従事するか、それともオフィスで会議・資金の申請書づくり・雑文や論文の執筆をするか、という選択を強いられる。多くの教授や所長は、次第に実験室から離れていくようである。しかしながら、実験のプロセスや結果を肌で感じることは、研究の方向性を決める上で有益な場合があるため、実験室からはなれることはリスクを伴う。
So, what? という感じの論文である。個々のエピソードはおもしろいが、ありふれた話ばかりで、特にこの論文を読んで初めて知ったことはない。理系の研究者に限らず文系の研究者にも似たようなことはあるし、研究者に限らず、一般企業でも似たような問題に直面することはしばしばあるだろう。つまり、この論文は、常識の上塗りなのである。 100人以上にインタビューして、この程度のお話しか書けないなんて、悲しすぎる。

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