Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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復興マシーンとしての場所:巨大ハリケーン後の脆弱性と地域変化

Jeremy F. Pais and James R. Elliott, 2008, "Places as Recovery Machines: Vulnerability and Neighborhood Change After Major Hurricanes.," Social Forces, Vol.86 No.4, pp.1415-1453.
巨大なハリケーンの被害にあった地域のその後の人口構成や富、復興のスピードに関する不平等を論じた論文。ハリケーンのような災害は、自然災害という側面と、人災・社会的災害という側面の両方を持つ。災害時に、貧困層のほうが被害が大きく、復興が困難になりがちであるということは、(日本のマスメディアはほとんど言及しないが)社会科学者の間ではよく知られた事実である。これは災害以前から存在する不平等が、災害を通して再生産されたり、拡大されたりするという説であるが、Pais and Elliott が論じようとしているのは、災害からの復興期に新たに生じる隔離と排除についてである。

Pais and Elliott が準拠するのは、Molotch (1976) による成長マシーン (growth machine) と呼ばれる議論である。成長マシーンとは、地域の経済成長を最大化しようとする企業や自治体の結託のことである(machine には組織、機関、機構といった訳語もある)。一般に地域住民は自分たちの地域の住みやすさや景観、安全性など、その地域の使用価値を高めようとする。一方、企業は使用価値ではなく交換価値を最大化しようとするので、富を生み出す施設を作り、土地からの収益をできるだけ高めようとする。それがうまくいけば、地価も上昇する。このような企業はデベロッパーであったり、土建屋であったり、その地域に工場や商業施設や港湾等の交通施設を作ることから利益を得られるさまざまな業種にわたるわけであるが、彼らはその地域の開発を進めるという点では利害が一致しているので、協力・提携して、開発を進めようとする。地方自治体も、このような開発が成功すれば税収の増加が望めるので、このような成長マシーンの一員として活動しがちであるという。

しかし、地域住民の利害と成長マシーンの利害は、必ずしも一致しない。確かに様々な施設ができれば利便性は向上するし雇用も生まれるが、環境や景観が破壊されたり、災害時の危険性が高まったりする(例えば、山を削ったせいで土砂崩れの危険性が高まったり、防風林を切ったせいで台風の被害が増える)ことがある。しかし、成長マシーンと地域住民では、成長マシーンのほうが圧倒的に権力を持っている(し、地域住民の少なくとも一部は開発によって恩恵を被る)ので、しばしば成長マシーンが勝利し、地域住民の安全性を軽視した開発がなされることがあるという。この議論は、海岸部や河川の近くの都市部に典型的にあてはまるのであるが、その場所そのものに市場価値があってはじめて成り立つ(そうでなければ成長マシーンはその土地に見向きもしないだろう)点に注意が必要である。このような市場価値の高い場所は海岸や河川の近くなど風水害を受けやすい場所に多いという。それゆえ市場原理に従って被災しやすい地域に経済の集積地を作り、その結果として多くの人々が被災するというメカニズムが働いていると成長マシーン論は主張する。

このような成長マシーンは、災害が生じた後の復興期にも活発に活動する。政府の援助金や保険金によって、被災地は災害にあう前以上に成長することがしばしばあるという。このような復興期の建物の再建や新たな施設の建築から、成長マシーンは利潤を引き出す。 Pais and Elliott は、この復興期の官民の結託を復興マシーンと呼ぶ。復興マシーンは以下のような地理的な隔離と排除を生み出しがちである。もっとも被害の大きかった地域(中核被災地)では、下層の人々は住宅が破壊されたりして住み続けられなくなる上、保険にも十分に加入していないことが多いので、別の場所に転居することを余儀なくされることが多い。しかし上層はそもそも安全な家・場所に住んでいることが多いし、被害にあっても保険で以前よりもリッチな家に改装することさえできるという(ハリケーン・ヒューゴの被災地で保険金でジャグジーをつける家が多かったことから、このような焼け太りをジャグジー効果という)。また、賃貸住宅を再建した場合、もとの古い建物のときよりも家賃が高まるので、下層は戻ってきにくくなる。こうして、中核被災地は地価が向上し、下層の比率が下がるという。

中核被災地のまわりは、インナー・リングと呼ばれる。インナー・リングには、中核被災地から避難してきた人々や建物の再建や再開発に従事する労働者が外部から移住してくるので、下層の人々の比率が高まる。こうしてあらたなすみ分けが生まれ、それを通して上層はよりリッチに、下層は集中的に被害をこうむるという構図が生まれる。これが復興マシーンの働きに関する Pais and Elliott の仮説である。

実際に1990年代に巨大ハリケーンの被害にあった4つの地域の人口の変化、経済成長の程度、人口構成比の変化をみると、仮説通りの結果とそうでない結果の両方が得られている。まず、平均的にみれば、被災地では被災後10年以内に、それ以前よりも人口が増え、経済が成長し、移民が増える。これは仮説通りである。ただし、中核被災地とインナー・リングの間のすみ分けの増大に関しては、必ずしも支持されてはいない。

話としては面白いのだが、分析にはいろいろ工夫が必要だと感じた。問題は中核被災地とインナー・リング、そしてその他の地域の境界線をどこに引くかで、 Pais and Elliott は風の強さと海岸部かどうかで区分しているのだが、実際の被害の程度とは必ずしも一致していないだろう。また、地域の単位を小さくとりすぎると、最初から富裕層しか住んでない地域とか貧困層しか住んでいない地域とかができてしまい、上記のような変化が生じようがないということになってしまう。逆に大きくしすぎると、中核被災地とインナー・リングを区別できなくなってしまう。しかし、それなりにもっともらしい議論なので、本当に一般的に成り立つ議論なのか、阪神・淡路大震災など日本の事例でも誰か分析してほしいものである。

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