Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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日本で階級は重要なのか? 階級構造と階級移動の日米独比較

Hiroshi Ishida, 2010, "Does Class Matter in Japan? Demographics of Class Structure and Class Mobility from a Comparative Perspective," Hiroshi Ishida and David H. Slater (eds.) Social Class in Contemporary Japan: Structures, Sorting and Strategies, Routledge, 33-56.
日本の階級構造や世代間移動率を米独と比較した論文。中根千枝のような日本特殊論者や、逆に富永健一のような産業化論者に従えば、日本では階級は重要ではない。中根に従えば欧米では階級に従った集団形成や葛藤があるかもしれないが、日本ではむしろ企業が階級にかわる重要な組織原理だからである。一方、産業化理論に従えば、産業化した社会では業績主義がひろまり、社会の開放性も高まり、さらに地位の非一貫性も高まるので、社会が階級間の対立に引き裂かれるということはあり得ない。中根が欧米での階級の重要性を認める一方、産業化理論は欧米でも階級は重要ではないと考えるという違いはあるものの(富永がこの点をどう考えていたかは知らない)、どちらも日本における階級の重要性を認めていないという点では一致する。

Ishida は EGP階級図式を使い、日本でも米国やドイツと同様に階級は重要であると主張する。階級と学歴、収入、職業威信スコア、階層帰属意識との相関、世代間移動パターンを日米独で比較し、三国は非常に似通った階級構造を持っていると結論付けている。また、階級が階層帰属意識に及ぼす影響力は、威信スコアや学歴、収入よりも強く、この傾向は日独で共通している(米国では学歴が一番影響力がある)。以上から日本特殊論は否定されている。

もともとのリサーチ・クエスチョン(日本で階級は重要か?)が曖昧なので、何がわかったのかも曖昧なのだが、私自身の実感では階級が重要なのはほとんど自明だし、日本特殊論も産業化理論も前世紀の遺物であるので、あまりピンとこない話であった。ただし、中根や富永に対する Ishida の批判はややずれていて、あまり批判になっていないと感じた。中根の本は十数年前に英語で読んだが、私の理解では、中根が言っていたのは、日本人がアイデンティファイし、重要視している集団は階級ではなく会社だ、ということであった。現在でも「会社と階級とどちらがあなたにとって重要か」、とか、「会社と階級とどちらに愛着を感じるか」「同じ会社の人と同じ階級の人と、どちらがあなたにとって身近な存在か」といった質問をされれば、やはり日本では会社のほうが重要で、愛着を感じ、身近な存在であると答える人のほうが多いのではないだろうか。階級なんて日本では日常語じゃないし。中根は、日本人にとっては階級など何のリアリティもないといっていたのであって、それに対していくら階級によって学歴や収入が異なると言ってみたところで、論点がずれているので議論はすれ違いのままであろう。 Ishida 自身がこの本の最初の章で述べていた用語を借りるならば、階級分析の「レベル」がずれているのである。

同様に、富永、原、今田も、地位の非一貫性が日本社会の特徴だと主張した咎で批判されているのだが、産業化理論に従えば、地位の非一貫性はすべての産業社会で生じるはずなので、 Ishida の示した証拠は、むしろ産業化理論を積極的に支持するものだと考えられる。富永たちが何と言っていたのかはわからないが、少なくとも、産業化理論に対する批判にはまったくなっていないと思われる。

また、中根や富永が批判していた「階級」とはオーソドックス・マルクス主義の「資本家 vs. 労働者」という枠組みであって、EGP階級図式とは似て非なるものである。私の印象では、日本で、階級という概念をマルクス信者たちの教義から離れて自由に使えるようになったのは、つい10年ぐらい前からであって、中根や富永に対して、「EGP階級図式は現在最もよく使われる階級概念だから」といっても、完全にずれているという感慨を禁じえない。

私としては、階級分析は日本でも重要だという Ishida の主張には全面的に賛成だし、分析結果もよくまとまっていてよいと思うのだが、問いと結論で中根や富永を批判するという話の流れにはさっぱりついていけなかった。もしかしたら日本文化研究者には、いまだに日本特殊論者がかなりいて、こういった問題設定のほうが、アピールするということなのだろうか。

もう一つ分析結果で興味深かったのは、階層帰属意識の分析結果で、10段階の指標を使っているのだが、これだと階級が学歴や収入よりも強い効果を持つという点である。おそらく収入は個人収入ではないかと思われるし、階級、学歴、収入、を同時にモデルに投入していないし、男女別の分析ではないようなので、はっきりしたことは言えないが、日本の階層帰属意識研究者の主要な論調では、職業は階層帰属意識にあまり強い影響を持たないと言われていたことと、Ishida の分析結果はやや異なるという点である。日本の階層帰属意識研究者は EGP階級図式ではなく、職業威信スコアを好んで使うので、指標の違いに起因するのかもしれないが、いずれにせよこれまでの議論とは違った感じの論調であるのが興味深かった。

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