Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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ロスト・ジェネレーション: 脱工業化した日本における社会階級と経済的ライフチャンス

Mary C. Brinton, 2010, "Social Class and Economic Life Chances in Post-Industrial Japan: The ``Lost Generation''," Hiroshi Ishida and David H. Slater (eds.) Social Class in Contemporary Japan: Structures, Sorting and Strategies, Routledge, 114-133.
バブル崩壊後の階級間格差の拡大についての懸念を表明した論文。Ishida (1993) によると、1970年代ごろの日本の世代間移動率(相対移動)は、英米とほとんど同じであったという。にもかかわらず階級があまり日本人に意識されなかった理由の一つに、階級間の収入の格差が小さかったことがあるという。現在でも世代間移動率に大きな変化はない(あったとすれば若干の増大である)ので、階級間移動障壁が高まったとは考えにくいが、賃金や雇用の安定性に関する階級間格差が大きくなったことで、労働者階級出身の低学歴の若者が、バブル以前の若者よりも苦境に立たされているのではないか、というのが Brinton の懸念である。

日本では脱工業化は1980年代の後半に始まったが、これはブルーカラー職の縮小を帰結した。日本ではブルーカラーであっても大企業の正社員であれば、ホワイトカラーには劣るものの、雇用の安定と一定の賃金を保障されてきた。それゆえ、高卒でホワイトカラーになれなかったとしても、かなりの若者がそこそこ安定したブルーカラーの職をえていた考えられる。これが脱工業化とバブル崩壊のあおりを受けて、就職困難層に転落した、というのは周知のストーリーである。Brinton によれば、労働者階級の出身者は低学歴になりやすいので、出身階級が学歴を経由して非正規雇用になったり失業したりする確率を高めるのではないかと考えられる。実際、Brinton が得た神奈川の高校のデータ分析の結果によると、高校の偏差値レベルと高卒無業率の間には強い相関があるのだが、1997〜2003年の間に その相関係数は、-0.66 から -0.84 まで(絶対値が)増加している。つまり学校間格差が上昇している。この期間の全体の高卒無業率は減少しているので、偏差値の高い高校で高卒無業率が減少したと考えられる。この時期は景気後退が続いていた時期なので、就職者数が増えたとは考えにくいので、たぶん偏差値の相対的に高い高校で進学率が高まったのではないかと思われるが、はっきりしたことはわからない。

このような若者の困難は、景気が悪いときに学校を卒業したせいであって、景気が回復すれば、それよりも若い世代ではそのような困難は解消してしまうのか、それとも、景気が回復しても状況は変わらないのか、という問題についても、若干の思弁がなされている。これはいわゆるロスト・ジェネレーション(ロスジェネ)問題である。バブル崩壊後の不況期に就職した世代をロスジェネと呼ぶが、景気が回復したとき、ロスジェネだけが取り残され、それよりも古い世代と新しい世代は経済発展を享受するという構図になりはしないかと Brinton は危惧(予想)している。

証拠がどれも間接的なものばかりで、はっきりしたことは何も分かっていません、という論文なのだが、Brinton の 2 つの予想のうち、1 つは私の分析結果と整合的で、もう 1 つは整合的でない。まず出身階級が雇用の不安定化に及ぼす効果についてであるが、私が 2007年に ISA の RC28 の会議で報告した分析結果では、1995年以前に入職したコーホートでは、初職が非正規雇用である確率に学歴や出身階層が及ぼす効果は、有意でないかあっても小さいものであったが、1996-2005年の間に入職したコーホートでは、出身階層と学歴の及ぼす効果が大きくなっていた(交互作用効果はそれぞれ5%水準と1%水準で有意)。ただ出身階層が非正規雇用率に及ぼす効果については、研究によって結果がまちまちなので(残念ながら Brinton はそのことすら知らなかったようだが)、慎重な検討が今後も必要である。

私の分析結果と整合的ではない予想は、ロスジェネに関する予想である。私が2009年の本で論じたように、ロスジェネ以降の世代、つまり戦後最長といわれた景気拡大期に就職した世代でも、非正規雇用率はロスジェネと同じか、それ以上に高い。つまり、ロスジェネだけが景気循環の谷間のせいで損をしたというよりも、長期的な社会変動のはじまりをロスジェネが体験したと考えたほうがよさそうだということである。ただし、これも今まさに起りつつある変化を扱っているので、今後の変化を慎重にみていく必要がある。

Brinton も触れているように、脱工業化とそれにともなうリストラクチュアリングが日本で始まったのは、1990年の半ばごろからである。そのあおりを食ったのが、そのころ就職した世代であったというのは事実であろう。しかし、そのような構造変動は、多少景気が良くなったからといって逆戻りするようなものではないと私は考えている。2003年以降の景気回復期には、確かに失業率は下がったが、非正規雇用率はそれほど変化していない。厳選採用といえば聞こえがいいが、少しぐらい業績が回復したからといって正社員比率を上げられるほど余裕のある企業は少ないのかもしれない。

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