Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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科学のハイアラーキー?:科学的知識のコアとフロンティア

Stephen Cole, 1983, "The Hierarchy of the Sciences?," American Journal of Sociology, Vol.89 No.1, pp.111-139.
科学的知識のコアとフロンティアを分けて考え、フロンティアにおける様々な科学の類似性を主張した論文。Zuckerman and Merton (1971) によると、物理学を頂点とする通常科学では、研究者間のコンセンサスの程度が高く、社会科学ではコンセンサスの程度が低い。科学のハイアラーキーとは、物理学を頂点に、社会科学を最底辺に置くようなコンセンサスの程度と累積的発展の程度のハイアラーキーのことである。Cole によれば、Zuckerman らの説は科学的知識を均一な統一体と考えている点で不適切であるという。科学的知識は、その分野の基本的な理論や方法、範例 (exemplars) の部分(コア)と、最新の研究成果の部分(フロンティア)に分けて考えるべきで、コンセンサスの程度や累積の程度も、コアとフロンティアで異なるという。フロンティアにおいては、社会科学と自然科学の間にコンセンサスの程度の違いは存在しないというのが、Cole の結論である。

コンセンサスの程度も累積の程度も直接測定することは困難なので、間接的な指標がいろいろ検討されている。まず、コンセンサスの程度が低く、研究成果の体系化がなされていないと、学習に時間がかかるため、研究歴の短い研究者は、長い研究者に比べて不利になるといわれる。そこで、35歳以下の研究者で、平均より高い被参照回数をあげている者の比率をいくつかの学問分野について計算すると、表1 のようになり、平均的には理系の学問のほうが、若手の被参照率が高いが、数学が 11% と意外に低く、物理学も心理学と大差ないという結果になっている。

表1: 35歳以下の研究者に占める同分野の平均よりも多く参照されている者の比率(p.118より)
分野比率
地学 38
化学 29
物理学 25
心理学 24
社会学 13
数学 11
また、生化学、化学、物理学、心理学の5分野の研究者に対して質問紙調査を行い、同業者に対する評価をたずね、それらがどの程度一致しているのかについても調べられている。表2 がその結果であるが、1列名は、同業者60人の名前を挙げ、それに対する評価がどの程度一致しているのかたずねている。2, 3列目は同業者のうち優れた研究者を5人まであげてもらい、それらがどの程度一致しているのかを計算している(社会関係資本の測定における position generator と name generator に対応している感じ)。
表2: 同業者に対する評価の一致度(p.120 Table 3, 4 より作成)
  N 指標1 指標2 指標3
生化学 107 0.71 41 79
化学 111 0.69 34 61
物理学 96 0.63 47 77
心理学 182 0.74 32 64
社会学 145 0.76 36 81
指標1: 60人の同業者に対する評価の標準偏差の平均
指標2: 上位5人が得た票数の比率
指標3: 1 - 名前の挙がった同業者数÷総票数
指標によって結果はまちまちでどの分野で特に評価が一致しているとは言いにくい。さらに各分野の雑誌における被参照数の集中度を計算した結果が表3である。自然科学系のほうが平均的にみればやはり集中度は高いが、雑誌によるばらつきもかなりあり、一概に自然科学のほうが評価が一致しているとは言いにくいと Cole は言う。
表3: 被参照数の集中度 (p.122 Table 5 より作成)
  ジニ係数
生化学 0.21
化学 0.15
地学 0.1
数学 0.09
物理学 0.18
心理学 0.16
社会学 0.09
さらに National Science Foundation (米国で研究費の配分をしている機関、日本学術振興会に近い役割をはたしているらしい)に提出された Research Proposals への評価の一致度も調べられている。経済学といくつかの自然科学分野についての結果が示されているが、経済学は自然科学の平均よりもむしろ評価の一致度が高いという結果になっている。

また、自然科学のほうが社会科学よりも最近の論文を参照しやすいという説に対しても Cole は否定的で、単に自然科学のほうが社会科学よりも論文数が増加するスピードが速いというだけで、そのことを加味すれば特に自然科学のほうが最近の論文を参照しやすいことはないという。ただし、英文学に関して同様の分析をすると、やはり最近の論文を参照する傾向は自然科学や社会科学よりも弱い。しかし、社会科学に関しては経済学だけしか事例が挙げられておらず、さすがにこれだけでは信じがたい。

このような結果から、フロンティアにおいては、コンセンサスの程度は、どの分野でも大差ないのであり、むしろ自然科学と社会科学の違いはコアの部分にあると Cole はいう。社会科学においてはコアとなるような知識が相対的に少ないが、自然科学ではそれが多い。1970年代に出版された物理学、化学、社会学のいくつかの学部用テキストの文献リストを調べると、物理学と化学では19世紀あたりを中心に18〜20世紀まで幅広い年代の文献が参照されているが、社会学の場合、ほとんどが第二次大戦後に出版された文献である。自然科学のほうが歴史が長いということは大きな要因だろうが、1950年代に出版されたそれぞれの分野のテキストに関して同様の調査をすると、物理学と化学の参照文献にはあまり変化がないのに対して、社会学では最近出版された文献が参照されるため、参照文献のずれが大きかったという。

社会学の結果を経済学や心理学(心理学は自然科学というべきかもしれないが)に一般化できるかどうかに関しては疑問だが、社会学においてはコアとなるような知識が固まっていないという気はする。だから通常科学ではないということになるのだろう。また、社会科学において投稿論文の掲載不可率が高く、審査に時間がかかるというのは事実であるし、論文のイントロ部分をたくさん書かないと論文の価値を理解されにくく、自然と論文も長くなるというのもおそらく事実であろう。こういった事実について Cole は触れていないが、これはやはりコアの未成熟と関係あるのではないだろうか。Cole はコアとフロンティアを峻別して、フロンティアにおいては学問分野による違いはない点を強調するのだが、コアとフロンティアは当然深く関係していると考えられるので、もうひとつ納得できない議論である。しかし、コアとフロンティアを分けて考えるというのは適切であるように思うし、「コンセンサス」の程度とは何なのか考えさせられた論文であった。

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