Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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『開発の経済社会学:韓国の経済発展と社会変容』

韓国の経済発展について社会学的に論じた入門書。記述は平易で丁寧だが、無駄なく論理的に構成されており、良い本だと思った。私は韓国も経済発展も専門ではないので、専門的な観点から見た評価はできないが、階層論に関して触れてあるあたりについて言うならば、誤解を招く表現や誤りを1、2見つけたが、あまり本質的なエラーではなかったので、たぶん専門の部分はもっと誤りが少ないと期待できる。

服部によれば、韓国の経済発展を理解するうえで重要なのは、血縁、地縁、学縁を媒介とした社会ネットワークである。これが取引費用を軽減しつつ、流動性の比較的高い社会を可能にしているという。このような韓国型のネットワークの原型として特に重要なのがチップといわれる家族・親族である。チップは日本のイエとはやや異なる特徴があり、一言でいえば血縁の重要性がイエに比べて著しく高いという。イエの場合、その直系の男子が継ぐのが基本であるが、適当な男子がいなかったり、家業を継承する能力がない場合は、まったく血縁のない養子がとられることもある。チップの場合、血縁のない養子がとられることはなく、養子をとる場合でも同じ「譜族」に属する適切な世代の男子が選ばれなければならないという。譜族とは父系の血族集団のことであり、「大同譜」、「派譜」といった家系図のようなものを持つ。譜族は始祖、派祖が同定されており、譜族のメンバーはすべて始祖、派祖から数えて何代目に当たるのかがはっきりわかるようになっている。日本の家系図と違い、直系だけでなく父系で見た場合の傍系についてもすべて記載するため、どの人が始祖・派祖から始めて何代目かがわかる。養子に話題を戻すと、朝鮮では男子がいなければ自分の子供と同じ世代の譜族から養子をとらなければならないそうである。例えば弟の息子を養子に貰うわけである。このようなルールがさまざまな悲喜劇を生んできたことは想像に難くない。

さらにチップでは同じ譜族に属する者とは結婚できない。外婚制が厳格に守られているのである。いっぽう日本のイエ制度ではイトコ婚もかつては存在していたし、今でも法的には可能である。それゆえチップのほうが婚姻を媒介にした親族ネットワークが広がりやすい。しかし、服部によれば親族ネットワークは無制限に広がっていくのではなく、譜族の格や経済的豊かさのつりあいのとれる譜族が婚姻の相手として好まれるので、おのずと限られた範囲で婚姻ネットワークが形成されるという。格の高い譜族と姻戚関係を持つことは譜族の繁栄にとって重要であっただろうから、とうぜん同程度の格の高さでマッチングが生じやすくなるというのは、ゲーム理論的に納得できる話である。また、とうぜんあまり地理的に離れた譜族と姻戚関係を結んでも、通信・交通のコストがかさむだろうから、あまり意味がない。こうして近場の親族間で密接なネットワークが形成され、これが地縁の基礎となるという。ただし、物理的な近さやコストだけでは説明のできないような婚姻クラスターが形成されることも多いらしく、政治・経済・歴史など様々な要因が絡み合っていることが想像される。慶尚道と全羅道の対立は有名だが、これもある種の経路依存性があって構築されてきた「現実」なのだろう。服部は合理的な説明は困難と述べている。

学縁も重要で、韓国の高学歴志向の一因は、人的資本だけでなく学校を通じて形成されるエリート間ネットワークにあるのかもしれない。このようなネットワークは危機的な状況で特に重要になるという。服部は全斗煥政権の主要メンバーが彼の学縁・地縁で固められていたことを例として挙げている。このようなネットワークが韓国の経済発展を支える重要なファクターであったという。

このような親族/ネットワーク構造の相違は、財閥の形態にも反映している。日本の企業グループは株式の持ち合いで有名だが、韓国では創業者ないしは創業者の家族による経営が基本である。日本の場合は、イエ同様、企業の後継ぎも血縁者である必要は必ずしもなく、企業を存続させる手腕を持ったものが後を継げばよいという考え方になりやすいという。創業家が株式などを大量に所有することはもちろんあるが、経営は能力のある者が担う場合が多いという。株式の持ち合いは、部品市場が十分に成熟していない状況では、品質の高い部品を提供できる企業と相互に強いコミットメントと情報の共有をすることが合理的であったと服部は説明している。また外資などからの乗っ取りを避けるためであったというのはよく知られている。韓国でこのようなことが起きないのは、工業化が遅れて生じており、部品は輸入に頼るか、自分の会社で作るために持ち合いの必要性が生じないからであるという。また継承は血縁を通してなされるため、家族経営から脱することが難しいという。また継承の際に家産の分散が生じるので、日本型の株持ち合いは生じえないようである。

韓国の経済発展の特徴は、「組み立て型工業化」にあるという。組み立て型工業化社会は、組み立ては得意だが、部品の加工が苦手である。それゆえ加工に高いスキルを要する部品(ベアリングが例に挙げてある)は輸入し、組み立てを中心とした産業構造になる。もちろん組み立てにもスキルは必要であるが、1970年代の中盤以降、NC(数値制御)自動機械による組み立てが実現し、ある種の組み立てスキルは機械にとって代わられるようになっていった。韓国が工業化を始めたのは1960年ごろといわれており、海外からの投資が豊富にあり、資本集約的(と服部は言っていないが)な製造業への特化が生じたと考えられる。

欧米や日本の場合、比較的早くから近代化が始まっているので、部品加工に必要なスキルが形成される時間があった。日本は欧米に比べれば後発であるが、それでも、工業製品の部品を加工するために必要なスキルが形成される時間があった。ところが韓国にはそのような時間のないまま外資と政府によって大資本が形成されたため組み立て型工業化社会となったという。ちなみに台湾は韓国よりは日本に近いとみなされている。台湾は韓国とは違い農産物を輸出することができたため、組み立て型に特化する必要がなかったと解釈されている。韓国は組み立て以外に輸出品を作る方法がなかったため、組み立てに特化してしまったが、日本や韓国は工業化初期の時点で農産品を輸出し、そこで得た資本で部品加工業を育てたとされている。

このほかにも豊富な資料をもとにわかりやすく解説してあり、勉強になった。

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