隅谷三喜男・凃照彦・劉進慶, 1992, 『台湾の経済: 典型NIESの光と影』 東京大学出版会.台湾経済の概説書。農業から金融まで包括的に概説してあり、データも豊富。硬い内容の本だけにすらすら読めるというわけにはいかないが、理路整然としていると思う。特に歴史的経緯やその他のNICS (Newly Industrialized Countries) 諸国との比較は参考になった。概説書だけに全体を要約するのは無理だが、印象に残った点を2、3メモしておく。70年代にはNICSとしてメキシコやブラジルなどの中南米諸国も取り上げられていたが、これらの国々の経済成長率はオイルショック以降失速してしまったという。これに対して東アジアの香港、シンガポール、韓国、台湾の成長率は堅調に推移した。このような違いの背景には、産業構造の相違がある。すなわち、東アジア NICS は中南米 NICS に比べて人口が少なく国内市場の規模が小さい。1975年時点ですでにブラジルは1億人、メキシコも6000万人の人口を擁するが、韓国でも3500万人、台湾は1600万人であった。このことは東アジア NICS を強く輸出志向型の経済へと向かわせる原因となった。それと同時に、米国を中心とした外国資本にとっても、東アジア市場よりも中南米市場のほうを魅力的なものとした。そのため、国内産業の育成が、中南米よりも容易であったという。東アジアの経済成長にとっても外資の導入は決定的に重要であったことは、著者たちも認めているが、その程度は中南米においてより強く、そのことは従属理論が中南米で説得力を持つ一因となってきた。
また、東アジア NICS は中南米 NICS に比べて所得の不平等が低い。1977年のメキシコ、1976年のブラジルのジニ係数がそれぞれ .49, .56 であるのに対して、1976年の韓国と台湾でそれぞれ .39 と .28 という数字があげてある。どこまで比較可能なデータなのかは分からないが、顕著な違いである。このような違いは、農地改革の程度の違いに起因するという。台湾は日本の占領下で一度、そして、国民党政権に移行したあと再び農地改革を行っており、戦後は小作農がほとんどいなくなった。韓国の農地改革は台湾ほど徹底してはいなかったものの、ブラジル・メキシコに比べればずっと小作農は少なく、所得格差の減少に大きく貢献した。また、台湾の特徴として、世帯規模が比較的大きく、複数の世帯構成員が収入を得るような場合が多いため、貧困世帯が生じにくく、そのことがジニ係数の縮小に寄与していると示唆されている。
儒教倫理の影響については否定はしないものの、安易に儒教に東アジアの経済成長の原因を帰する議論には否定的で、台湾に関してはむしろ「商人資本」的な文化が、台湾経済を特徴づけており、それが旺盛な起業と、離転職の多さ、とも結びついているという。ただこの「商人資本」という言葉の意味は曖昧でよく理解できなかった。
階層構造との関係で興味深いのは、外省人と内省人の関係である。外省人は行政と旧日本企業を接収して官営企業としたので、砂糖、パイナップル、樟脳などの製造と発電などのインフラ産業の主な担い手となった。戦後すぐの内省人はほとんど農業だったが、その後、繊維、食品、セメント、製紙などの担い手となっていく。このような官営企業=外省人と民営企業=内省人という対立が現在どの程度維持されているのかは不明である。Tsuai and Shavit (2007) の教育達成の分析を見ると外省人かどうかが直接教育達成に影響を及ぼすことはなかった(が、間接的な効果はあるかもしれない)。
ぅわぁ〜こういう研究をしてはるんや、すごいなぁ・・・・貴戸理恵さんというかたが太郎丸さんの図を引用してはったので、おや?と思い、着きました。
こちら「ひきこもり」とよばれるひとたちの「居場所」世話人としてはたらいています。いらしてるひとたちはこもってるわけではないので「元」がつくのでしょうが・・・出会いをえて元気をとりもどしてはたらくことをのぞんで、なかなかかなえられない状況が切ないです。