Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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イギリス社会学に対する量的方法の奨励はどの程度効果があったのか?計量研究の低落の原因

Jennifer Platt, 2012, "Making them count: How effective has official encouragement of quantitative methods been in British sociology?," Current Sociology, Vol.60 No.5, pp.690-704.
イギリスの Economic and Social Research Council (ESRC) の行った量的方法の奨励が社会学ではなぜうまくいかなかったのかを考察した論文。ESRC は社会科学において量的方法が用いられるよう様々な形で奨励を行ってきた。それは 1970年に Survey Unit という部署(部会?)を作ることに始まり、1972年には統計のセミナーをスタートさせ、1992年には大学院教育のガイドライン(当然統計教育を奨励していると思われる)を作り、2004年には National Centre for Research Methods を設立している。

こういった ESRC の努力にもかかわらず、イギリス社会学では統計の利用は増えるどころか、むしろ減少傾向にすらあるという。Platt は、British Journal of Sociology, Sociological Review, そして Sociology の3誌に1954年から2010年までの間の偶数年に掲載された論文を調べたところ、図1のように量的な方法を用いた論文はむしろ 20ポイントの低下であったという。カイ二乗検定してみたが、0.1% 水準で有意であった。

図1 経験的な方法を用いた論文にしめる量的な方法の論文の比率 (%) (p.691, Table 1 より作成

ただし、この数字は経験的な方法を用いた論文にしめる量的な方法の論文の比率なので、非経験的(理論的)な論文も含めて考えた場合、どうなのかは定かではない。また度数を見ると、量的な論文の数は一応増えているのだが、それよりもずっと急速に質的な論文が増えているせいで比率が低下しているという点には留意が必要であろう。

このようにイギリス社会学において量的な方法の比率は増えるどころかむしろ減少しているのであるが、その原因を Platt は 3つあげている。第一に「人口学的」な原因がある。イギリス社会学の規模は1960〜1972年ごろのあいだに急増し、1980年ごろまではゆるやかに増え続けるが、その後、1981〜1988年の間に学生数も教員数も減少している。これはサッチャーに迫害されたということもあるが、社会学の知的な魅力が薄れ、学生の人気が落ちたということもあるという。このような規模の急増の後の減少は、十分なトレーニングを受けていない教員の比率を高める。なぜなら急増期には人が足りないので、必ずしも十分なトレーニングを受けていなくても教員になれるが、その後の縮小期には新規採用が激減し、急増期以前に就職した教員が退職し、急増期に就職した教員だけが大学に残ることになるわけである。 ESRC が統計を奨励し始めたのは1970年ごろからであるが、このころすでに急増期は終わりごろになっており、仮に ESRC の奨励に効果があったとしても、その影響を受けた世代の大学教員就職率が低いため、効果は限定的と考えられる。

量的な方法を用いる論文が減少している2つ目の理由として、知的なあるいは、イデオロギー的な流行の変遷がある。量的な方法は 1970年代以降減少しているのであるが、1970年代には、影響力のある「実証主義」批判の著書や質的方法に関する著書がいくつか出版された時期である。また1970年代はアメリカの公民権運動やベトナム反戦運動が盛り上がった時期で、類似の「新」左翼運動がイギリスでも盛り上がった。「新」左翼運動は社会学におけるマルクス主義やエスノメソドロジー研究の隆盛につながっていったが、これらの学派では理論の価値が経験的な研究よりもずっと高く、そのことが経験的な研究、特に「実証主義」と批判されるような量的な研究の比率の低下につながったと Platt はいう。統計は、右派や政府が大衆を操作し、権力を維持するために用いるものであるという認識が1970年代の後半に作られていったという。さらにフェミニストも数字や統計は女性の経験を言語化するには不適切なものであるとして、量的な方法を退けたという。アン・オークレーは統計的な客観性を男権的で支配的なパラダイムとして批判したそうである。このような「理論」の流行はいつごろかは不明だが、文化論的転回に受け継がれ、質的研究の隆盛につながっていったという。

第3に、もともと計量社会学者などほとんどイギリスにはおらず、1970年代まである程度、計量的な研究があったのは、他分野から流入してきた学際的な研究者によるものであったと Platt はいう。イギリス社会学会には、1967年から始まった Quantitative Sociology Group (QSG) というグループがあり、1980年代のはじめごろには活動は下火になっていたという。このグループの役員等をしていた主要メンバーの出身学部を調べると、20人中、社会学を学部で専攻していたのは、たったの3人で、あとは自然科学・数学(11人)、地理学・心理学等(3人)といった具合で、前述の社会学の拡大期に他分野から社会学に参入した研究者が主であった。つまり、1970年代までの量的研究を支えてきたのは、このような中途参入組であり、正統派社会学はずっとアンチ「実証主義」だったのではないか、というわけである。この世代の研究者が減少したことで、量的な論文も減少していったというシナリオを Platt は描いているようである。

日本とよく似ているのだが、日本の場合、計量社会学はイギリスよりも若干比率が高い感じがするし、明確な比率の変化は見られない。上であげたような実証主義批判の流行は日本でもあったし、他学部からの中途参入組が重要な役割を果たすということもあったように思う。ただ日本の場合、計量社会学は比率の減少にまではいたらなかったのは、社会調査士制度のおかげなのか、アメリカ社会学の影響がイギリスよりも強かったからなのか、よくはわからない。

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