Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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イングルハート, 1997, 『近代化と脱近代化:43カ国における文化・経済・政治変動』

World Values Survey (WVS) にもとづく価値変容の研究。基本的な議論は、前著の『カルチャー・シフト』と同じだが、いくつかの点で議論が拡張されており、データの実証も単なるクロスセクショナルな比較から、時系列の変化へと発展させられている。イングルハートの議論は 1970年代からずっと同じで、豊かな社会が実現することで、物質主義から脱物質主義へと人々の基本的な価値観が変化していくというものであった。このような脱物質主義化は、経済成長による価値変動のかなり重要な要素として位置づけられているが、近代化は価値変動を含む広範な現象群 (syndrome) であり、工業化、経済成長、官僚制化、高学歴化、職業の専門分化、業績主義化、民主化、といった相互に関連する一連の現象からなる。ここまでは概ね前著と同じである。

まず、社会変動のプロセスを近代化と脱近代化に分けて考えている点が、この本の新しい点であろう。近代化とは上であげたようなプロセスであるが、民主化の位置づけは微妙である。脱近代化とは、豊かな社会が達成されたことで、上記のような近代化の諸現象が疑問にさらされ、より個人の幸福を追い求めるような方向に社会が変化していくことをさす。経済成長、官僚制化、等々は、行き過ぎれば弊害のほうが大きくなるので、これに対する対抗運動として、環境保護や個人の自律性やライフスタイルの追求、寛容といった価値が重要になっていくという。

脱近代化がどのような現象群なのかはあまり明確に書かれていないのだが、それがどのような価値変化を伴うのかははっきりと書かれている。近代化の過程では、業績主義や世俗合理主義的な意識の強まり(それはつまり宗教や伝統的価値の弱まり)があるが、脱近代化のプロセスでは、健康、余暇活動、友人との関係、寛容、異質な他者への理解、自由、信頼、といったものが重視されるようになるという。脱物質主義は、このような脱近代的価値の中心的な要素と位置づけられる。つまり、近代化・経済成長のプロセスでまず近代的価値が高まり、さらに経済成長が進むと脱近代的価値が高まる、と考えられている。ただし、経済と価値の因果関係は双方向的、あるいは現象群 (syndrome) の一部であると考えられており、一方的な因果関係は否定されている。1980年と1990年の WVS の結果を比較し、脱近代的な価値観の強まりが多くの国で高まっていると結論付けられている。

この本の『カルチャー・シフト』とのもうひとつの相違点は、脱物質主義が脱近代的価値観の一つとして位置づけられているというところにある。前著では脱物質主義は、政治への関心や宗教・伝統の軽視を含む広範な価値群の総称として位置づけられているようにも読めるし、もっと狭い意味(経済や生存よりも民主主義や自由などを優先する)で使っているようにも読めたのだが、この本では、狭い意味にはっきりと限定して使われている。また、脱物質主義は伝統や宗教からの離脱と位置づけられていたが、伝統や宗教からの離脱は世俗合理主義とされており、異なる次元と位置づけられている。

これまで物質主義から脱物質主義へという一次元で考えていたものを、この本で近代化と脱近代化という直行する二次元で考えるようになったため、データへのフィッティングは良くなっているのだろうが、理論との整合性は微妙な点が多くなってしまっている。まず、近代化したあとに脱近代化が起きるので、近代的価値(伝統 vs 世俗合理主義)と脱近代的価値(生存・経済 vs 自己表現・幸福)という二種類の価値意識は、相関するはずである。しかし、これらは因子分析(主成分、回転なし)で直行解を得たものなので、相関はゼロと仮定されている。この仮定は、明らかにイングルハートの理論と矛盾しているのだが、イングルハートはこのことに気づいていないようである。同様に、理論上は、脱物質主義が民主主義を促すと考えられているのだが、近代化の途中で多くの国が民主化するので、民主主義は近代社会の特徴であって、脱近代社会の特徴とは考えにくい。つまり、脱近代的価値である脱物質主義が、近代的制度である民主主義を促進するという理論になっていて、ねじれが生じている。これは必ずしも矛盾ではないが、丁寧な説明が必要である。しかし、イングルハートはこのあたりの議論を避けているように読める。あるいは議論のねじれにまったく気づいていないのかもしれないが。

このような問題は、近代的価値と脱近代的価値を分類する際に、因子分析で直交する2因子を抽出していることに起因している。それゆえ、斜交回転するとか、確証的因子分析に持ち込むなどすれば解決できるように思える。しかし、いずれにせよ、近代化と脱近代化はある程度同時並行的に起きると考えないと、理論と分析枠組みの整合性が得られないだろう。しかし、脱近代化とは近代化が終わった後に始まると考えるのが普通だし、イングルハートも明らかにそう考えている。

もう一つすごく気になるのは、分析がしばしば個人単位ではなく、国を単位になされていることである。因子分析もしばしば国単位なのだが、価値観を持つのは個人だとイングルハートは想定しているので、因子分析も個人単位でやるべきだろう。国単位と個人単位では同じ分析結果が得られるとは限らない。最近の研究ではさすがにこんなデタラメな分析はやられていないと思うが、個人単位で因子分析してもきちんと同じような因子が抽出されるかどうかは気になるところである。

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