Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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全体性を求める連鎖の不毛さ。あるいは、国際法社会学のアイデンティティについて
「全体 (whole) は部分 (part) の総和ではない。」というのは、社会学者の好きな決まり文句である。個人の行動や心理を研究するだけでは、社会について十分に知ることはできない。だから個人の心理や行動には還元できない社会的事実を研究の対象とする社会学が必要である。というわけだ。ここまでは大抵の社会学者が同意する話である。では次のような主張はどうだろうか。
しかし、じゅうぶん高度に複雑な現象を扱うときに、その現象を別個のサブシステム〔経済システムや法システム〕や行為者〔国家や国際機構や企業や個人〕に分割し、それらをふたたび結合させるならば、カテゴリー・エラーとして知られるものに陥ることになる。カテゴリー・エラーとは、全体は部分の総和以上のものではないと誤って仮定することから来る誤りのことである (Hirose 2003:149)。

彼女が言いたいのは、国際関係や国際社会を扱う場合、国際法学や国際社会学だけでは不十分で、彼女がコミットする国際法社会学が必要だということだ。基本的には罪の無い主張だが、一歩間違えれば、危険な思想である。つまり国際社会学は国際法社会学なしには、何の役にも立たないといっているのと紙一重だからだ。それはちょうど心理学は社会学なしには何の役にも立たないというのと同じだからだ。確かに人間は社会関係の中にあるし、個人の心理は社会の影響を受けるだろう。しかし、社会学を学ばなくても心理学は研究できるし、それで何の問題も無い。同様に国際法社会学なんか知らなくても、国際関係を法学者や社会学者が研究してもまったく問題ない。それらはカテゴリー・エラーではない。

 Hirose (2003) の意図は、国際法社会学というどうしようもなくマイナーな分野の存在理由を確立するためのもので、それ以上の野望があるわけではない。しかし、家族を研究するためには、その家族が住むコミュニティをまず研究しなければならないとか、コミュニティを研究するためには、そのコミュニティが属する国家を研究しなければならない、さらに国家を研究するためには、国家が属する...といった議論には正直言ってうんざりさせられる。そんなことをいっていたら、国際社会を研究するためには、国際社会が属する地球の生態系を研究せねばならず、地球の生態系を研究するためには...という連鎖を無限にたどる必要が出てくる。研究者は、このような全体性をもとめる連鎖をたぐる必要はまったく無いのである。われわれは必要に応じて研究対象のレベルを定めればいいのであり、より上位、より下位のレベルの対象も必要に応じて参照すればいいに過ぎない。
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