Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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Hedges (1987) ハード・サイエンスはどの程度「ハード」なのか? 心理学と物理学における実験結果の整合性比較

Larry V Hedges, 1987, "How Hard Is Hard Science, How Soft Is Soft Science? The Empirical Cumulativeness of Research," American Psychologist, Vol.42 No.5, pp.443-455.
メタ分析で心理学と物理学の実験結果の整合性を比較した論文。物理学のように数学を重用し、累積的に発展する学問をハード・サイエンスと呼ぶことがある。それに対して社会科学のように数学は使われていないか、限定的に用いられており、発展もゆっくりとしており累積性も低い分野をソフト・サイエンスと呼ぶ。しかし、「累積的発展」の内実は非常に曖昧であり、クーンの科学革命論以後は、こういったハード/ソフトといった概念をナイーブにふりまわすことは無意味になった。とはいえ、どの程度、学問が累積的に発展しているのか、といった問題は興味深いので、経験的な検討の対象として価値がある。また、社会科学を科学の世界の二級市民としてさげすむような見方はかなり根深いので、このような見方がどの程度正しいのかは検証してみる価値がある。

そこで、Hedges は心理学と物理学の「累積性」を比較している。Hedges は累積的発展を理論的累積性と経験的累積性に分類する。理論的累積性の説明は意味不明であったが、おそらくクーンの言う「パズル解き」に近く、あるパラダイムの内部でこれまで説明のつかなかった現象が、パラダイムを革新することなく、マイナー・チェンジだけで説明できるようになることであろう。経験的累積性とは、端的に言えば、実験や調査の結果に整合性があるということである。ここでいう整合性とは、まったく「同じ」ように実験をすれば、同じ実験結果がえられ、多少の結果の違いがあっても測定誤差やサンプリング誤差の範疇をこえるものではないということである。累積性と整合性は違う概念だと私は思うが、調査や実験の結果に整合性がまったくなければ、何が事実なのか定まらないということであり、それでは事実の記述のレベルですら「累積」していかないということなのだろう。

このような複数の実験や調査の結果を総合的に検討する方法をメタ分析というが、心理学や物理学ではメタ分析を用いて実験結果の整合性が検討されているそうである。その検討結果はバージ比 (Birge's Ratio) を使って比較可能であるという。バージ比とは実験結果のバラつきを示すための指標である。これを心理学と物理学の 13 ずつの分野での複数の実験結果に関して計算すると、どちらも平均するとバージ比は 2.1 で違いがほとんどない。バージ比は測定誤差やサンプリング誤差が大きいほど小さくなるので、単純に比較できないが、少なくとも単純に物理学のほうが心理学よりも整合性のある実験結果が得られ、「累積的に発展」しているという考えは間違っていると Hedges は結論している。

物理学の整合性が意外と低いというべきか、心理学の整合性が意外と高いというべきかはわからないが、興味深い結果である。心理学は自然科学だという議論もあるし、ソフト・サイエンスの代表例は社会学や政治学にすべきなのだろうが、社会学ではなぜか追試(同じモデルの分析を別のデータで行い、同じ推定結果が得られるか検討すること)の価値が著しく低く見られているため、メタ分析をできるほど分析結果の蓄積がないのが実情で、そもそも分析結果の整合性を自然科学と比較できない。実験が困難な社会科学でこそ追試の重要性は高いと思うのだが。

それから、物理学のレビュー論文ではメタ分析がなされるらしいが、そのときに3〜4割の実験結果はサンプルから除外されてしまうという。これは実験の条件が異なるとか、実験が失敗しているとか、いう理由かららしいが、やろうと思えば整合性を高くするために恣意的な操作ができてしまうので、このあたりのセレクションをどうするのかは、かなりクリティカルな問題である。もちろん恣意的にやっていると論文の審査でひっかかるとは思うのだが、4割も除外してしまうというのはビックリである。

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