Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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イアン・ハッキング『偶然を飼いならす: 統計学と第二次科学革命』

Ian Hacking, 1990, Taming of Chance, Cambridge University Press (=1999, 石原 英樹・重田園江 訳『偶然を飼いならす:統計学と第二次科学革命』木鐸社).
統計学の発展と決定論の浸食に伴って、偶然/必然、正常/異常、法則、因果、といった観念がどのように変化していったのかを物語った本。そういう意味では思想史 (history of idea) の一種ということになろうが、扱われている言葉はけっこう色々あるし、それが社会とどのようにかかわっていたのか、ということも色々書いてあり、「偶然の飼いならし」の過程を社会的な側面を重視しながら記述しようとした本ということになろうか。

「偶然の飼いならし」とは何なのか、明確には定義されていないが、19世紀にドイツやフランスを中心に進行した偶然や確率といった観念の変容のことを指しているようである。啓蒙主義の時代、「偶然」を信じることは非理性的で非合理的で俗っぽい考えであり、理性と科学の光によって一見「偶然」のように見える現象の背後に堅固な法則が存在することが明らかにされるはずであるし、そうされなければならないと考えられていたという。つまり、「偶然」は科学とはまったく対立するものと位置づけられていた。ところが、18〜19世紀の英独仏では、さまざまな大量のデータが印刷され、記録されるようになる。このような「数字の洪水」がデータを集計・要約するニーズを生み(?)、これが平均や分散、正規分布をはじめとした確率分布の知識の発展につながっていく。このようなプロセスを通して、「偶然」は非理性的なものではなく、自明の存在であり、科学的に計算可能で、積極的に研究し、統御すべき対象と認識されるようになっていく。このような過程を「偶然の飼いならし」と言っているように思える。

邦題にある第二次科学革命とは、1800〜1850年ごろに起こった物理学や化学における数学化を指している。「数学化」とはどのような現象なのか、よくはわからないが、正確な測定による数量化されたデータの収集の重要性が増し、様々な定数(重力定数、光の速度、電子の電荷、宇宙の膨張率)の推定が重要な研究課題となったという点が強調されている。この話が出てくるのは7章だけであるが、これが数字の洪水とほぼ時を同じくしており、同じ現象の一部をなしている(あるいは、別々の現象だが密接に関係している)と考えられているようである。

このような「偶然の飼いならし」は必然的に「決定論の浸食」をともなう。このような決定論の浸食の例としては、量子力学における不確定性原理がよく知られているが、本書では道徳科学、社会学、犯罪人類学における偶然や平均、正常/異常の観念の変化が語られられていく。平均値の周りが「正常」に対応していて、平均値から離れるほど「異常」に近づいていく、というのは現代ではよくある議論だが、当然このような考え方は、データの分布とその平均に関する知識を抜きにしては不可能であり、偶然の飼いならしの過程で生まれてきたものである。また、決定論の浸食以前には「法則」とは決定論的で例外のない文字通りの「法則」であったが、統計的な相関は、そのような決定論的法則とは全く異なり、例外や不確実性を許容するものである。こうして「法則」ではなく「相関」が探求されるべき研究課題と認識されるようになっていく。

人の名前がたくさん出てきて誰が誰だかよくわからなくなってしまい、議論の筋が見えない部分も多かった。もっとわかりやすい本を読んでディテールに関する知識を仕込んでから読むとわかりやすいのかもしれない。個人的に面白かったのは、コントとデュルケム、そして彼らに影響を与えた人々に関する記述である。コントは実証主義という語を作り出した人物だが、現在の日本でいうような「実証主義」とはまったく異なる意味で実証主義という言葉を用いていたことはよく知られている。しかし、本書によるとコントは統計学や統計的な規則性(例えば自殺率はそれほど急激に変化しないので、毎年あまり変わらない数の自殺者が出ること)にむき出しの敵意を示している。実証主義が現在では統計的なデータ解析を用いたアプローチをしばしば指すことを考えると、この逆説は興味深い。

またデュルケムが一定の率で自殺や犯罪が起きるのは、社会の「正常」な状態である、といったのは、社会学者にはよく知られているが、本書によれば、このような考え方は突如デュルケムによって発明されたわけでなく、平均=正常という当時支配的になりつつあった考え方を背景としている。ブルセはそのような考え方を準備したし、ゴルドンはさらに「正常」から道徳的な正しさをはぎ取っていった。

本書は「統計は管理・支配の道具だ」といった紋切り型の議論ではなかったので、それなりに楽しめたが、やはりこういう事実をして語らしめるという議論の作りは好きになれないな、という気もする。事実は決して語らない。語るのは人間であり、この場合はハッキングが語っているのである。にもかかわらず歴史的事実を並べて行って、「なんとなくこんな感じがしませんか」とほのめかすというやり方が好きじゃないのである。やっぱり仮説検証型のお話の作りのほうが潔い気がするのだが、そのあたりは扱うデータや問題の性質にも依存するだろうとも思う。

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