Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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独断と偏見で選ぶISA横浜大会ベスト報告: Comparing Results of Measurement Invariance Testing of Human Values: Exact vs. Approximate Measurement Invariance

例によってごく一部の報告しか聞いていないが、その中からまったくの独断と偏見で選ぶ、めちゃくちゃ偏ったISA横浜大会のベスト報告は、

Jan Cieciuch, Eldad Davidov, Peter Schmidt, Rene Algesheimer, and Shalom H. Schwartz "Comparing Results of Measurement Invariance Testing of Human Values: Exact vs. Approximate Measurement Invariance"
だーー!! この報告の素晴らしい点は、"Approximate Measurement Invariance" という概念を提出し、実際にモデリングしている点である。

価値観や態度の国際比較研究では、意識の国際的な比較可能性が問題になる。比較可能なための必要条件として、因子分析した際の因子負荷量などの推定値がすべての国で等しい、という条件がある。もしもいくつかの意識項目がすべての国で同じようにある構成概念を測定できているのならば、因子分析の結果もすべての国で一致するはずである。これを測定の不変性 (measurement invariance) という。測定の不変性にもいくつかのレベルがあるが、高いレベルでの不変性を得ることは、一般的には非常に難しい。特にサンプルサイズが大きく、誤差分散が小さいほど、測定の不変性は得られにくい。なぜなら、サンプル・サイズが大きく、誤差が小さいほど、パラメータ推定値の標準誤差も小さくなるので、高い精度で各国の測定モデルのパラメータが推定できる。そのために、ほんのわずかなパラメータ推定値の違いも、統計的に有意な差があると判定できてしまうのである。つまり、測定は不変ではないという結論になる。そのため、測定の不変性を得るためには、誤差の大きなパラメータ推定値を得たほうがいいのである。これは価値観や態度の国際比較研究者が直面するパラドックスである。

このようなパラドックスに対する対処法として Cieciuch et al. が提案するのが、 "Approximate Measurement Invariance" が成り立てば、比較可能だとみなそう、という考え方である。通常の測定不変モデルでは、すべての国で測定モデルのパラメータ推定値が完全に等しいという制約をかける。これに対して、"Approximate Measurement Invariance" モデルでは、パラメータの推定値が国によって若干ならば違っていてもいいと仮定し、通常の測定不変モデルの制約を緩めるのである。このような "Approximate Measurement Invariance" の考え方はベイズ推定の事前分布で表現されている。パラメータ推定値の国による違いをパラメータの分散で表現するならば、通常の測定不変モデルは、パラメータの分散がゼロだという事前分布を仮定した推定であるのに対して、"Approximate Measurement Invariance" モデルは、パラメータにごく小さな分散をもつ事前分布を仮定したモデルである。このような事前分布にもとづき、ベイズ推定を行えば、"Approximate Measurement Invariance" モデルの適合度を検討できるという理屈である。

ベイズ推定の事前分布で "Approximate Measurement Invariance" を表現するというアイディアはおもしろい。もしもうまくいけば、価値観や態度の国際比較研究を行う上で、非常に強力なツールとなるに違いない。ただし、クリアしなければならない課題もいろいろある。私のベイズ統計に関する知識は入門書レベルでしかないが、気になっている点を書いておこう。

  1. まず「非常に小さな分散」の事前分布を仮定するといったが、どれぐらい小さければいいのか、という問題である。しかし、このあたりは研究が蓄積されていけば相場感も形成されると思うので、私はあまり心配していない。
  2. むしろ私が気にしているのは、事前分布だけを強調して、事後分布について言及していない点である。ベイズ推定では、事前分布にデータから推定した尤度をかけあわせて事後分布を得る、というのが基本の考え方である。つまり、推定値として重要なのは、事後分布の方である。事前分布では国による違いは非常に小さいと仮定していても、事後分布では国による違いが大きくなるということはありうる。そのような場合、モデルの適合度が良かったとしても "Approximate Measurement Invariance" が成立しているとは言えないだろう。
  3. ふつうベイズ統計では、サンプル・サイズが大きいほど事前分布が事後分布に対して持つ影響力は弱まると言われている。つまり、サンプル・サイズが大きいと、事前分布がどうなっていてもほとんど同じ事後分布が得られるということである。そのため、事前分布の分散で "Approximate Measurement Invariance" を表現しても、サンプル・サイズが大きいほど、事後分布への影響はなくなっていくので、そのような不変性の仮定にどんな意味があるのか、という疑問も考えられる。
ほかにもテクニカルな批判はありうるかもしれないが、"Approximate Measurement Invariance" という概念を作って、実際にモデルの推定まで持っていた功績は大きい。今後は、ランダム効果モデルを使ったオルタナティブなどが出てくるのかもしれないが、そういった議論の出発点を作ったという意味で、非常に意義があると思われる。

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