Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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「プッシュ要因か、プル要因か? 女性の自営セクターへの参入」 Hughes (2003)

Karen D. Hughes, 2003, "Pushed or Pulled? Women's Entry into Self-Employment and Small Business Ownership," Gender, Work & Organization, Vol.10 No.4, pp.433-454.
女性の起業が、プッシュ要因とプル要因のいずれによって生じているのか、インタビュー調査から考察した論文。1980年代頃から欧米では自営業が増加している。それまで自営業は減少が続き、5% を切っている国も少なくなかったと思う(が、未確認)。それがこの時期に反転するのは、不況や製造業/公共部門のリストラクチュアリングに伴う解雇によって失業者が増加したと同時に、新自由主義的な政策の一環として起業に対する援助を政府が行ったからではないかと思う(が、未確認)。つまり、自営が増えた背景として、雇ってもらえないから仕方なく起業した(前職から押し出された (pushed) )という要因と、起業が容易になり、以前よりも自営業が魅力的な選択肢となった(自営業に惹きつけられた (pulled) )という要因が考えられる。前者をプッシュ要因、後者をプル要因と呼ぶ。Hughes によれば、北米に関する統計的な分析の結果からは、プル要因が強いとする研究成果が多いものの、事例研究の中にはプッシュ要因を強調する研究もあり、あまりはっきりした判断が出来る状態ではない。

そこで、Hughes は カナダの Alberta 州の 61 人の自営業主(女性)にインタビューと簡単な質問紙調査を行い、プッシュ要因とプル要因のいずれが強い影響を及ぼしているのか、分析している。質問紙調査では、起業の理由としてプッシュ要因(「他に仕事がなかった」、「失業した」、「雇い主に自由契約にされた (contracted out)」(マルチアンサー) )を挙げたものはいずれも 20% 未満であったが、プル要因(「独立したかった」、「やりがいがある (challenging)」、「柔軟に働ける (flexible)」)は 75%〜94% の女性自営業主が起業の理由として挙げており、やはりプル要因の強さを示唆している。しかし、前職を辞めた理由を尋ねると、リストラされたり、前の職場での硬直的な官僚制や政治的な駆け引き、労働時間の柔軟性の低さなどに不満を述べる女性はかなり多かった。それゆえ、プッシュ要因もかなり重要なのではないか、と Hughes は示唆している。

もうちょっとおもしろい話を引き出してくれるのではないかと思っていたのだが、期待はずれだった。Hughes 自身も述べているように、クロスセクショナルなデータ分析で、起業の理由をプッシュ要因とプル要因に分類するというのが、そもそも無理なのである。例えば、「やりがいがある」という起業の理由は、プル要因とみなされているが、逆に言えば、前職にはやりがいがなかったということであり、これはプッシュ要因とも考えられる。同じようにして、ほとんどの起業理由はプッシュともプルとも解釈できる。それゆえ、pushed or pulled? というそもそもの問題設定に無理があるのである。こんなことはインタビューをわざわざするまでもなく、わかりきったことで、せっかくのデータが生きていない。ちなみに時系列データがとれればプッシュ要因とプル要因を識別することはある程度可能である。一時点のデータであっても、起業した時期によって起業の理由が変化するならば、やはりプッシュとプルを識別することはある程度可能だと思うのだが、残念ながらそういう分析は皆無であった。

また、「女性」の自営業参入の研究という点がポイントであるはずにもかかわらず、まったくジェンダーに関しては論じられておらず、ジェンダー・ブラインドな研究の典型とも言える。男女の起業がどう違うかについて研究したいのならば、男性の自営業主のデータも当然必要なのだが、なぜか男性は調べられていない。非常に残念である。また、自営が女性にとって本当にワーク・ライフ・バランスを取りやすい仕事なのか、など面白いポイントはいろいろあると思うのだが、そういう点は論じられていない。以前にも書いたような気がするが、自営業とジェンダーの関係は、重要なテーマであるにもかかわらず、あまり研究されておらず、今後の発展が期待される。

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