Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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会社特殊的能力が自営業主としての独立を促す? Sørensen and Sharkey 2014

Jesper B. Sørensen and Amanda J. Sharkey, 2014, "Entrepreneurship as a Mobility Process," American Sociological Review, Vol.79 No.2, pp.328-349.
会社で働く労働者が自営業主として独立することを促す要因を分析した論文。起業はイノベーションの源泉の一つであり、新自由主義的な政策とも相性がいいため、近年では起業をサポートするような政策が日本でもとられている。このような自営業主としての独立を規定する要因としては、労働者自身の選好(例えば、独立や自立性を好むか)や労働市場の状況(失業率や自営セクターの好況など)が検討されることが多いが、会社で働く労働者の人的資本や会社内での状況も検討すべきではないのか、というのが Sørensen and Sharkey の問題意識である。

起業は離職後のひとつの進路であるから、離職を促す要因は起業を促す要因にもなりうる。 特定の会社への労働者の定着/離職を規定する要因として、会社特殊的人的資本が挙げられる。会社特殊的人的資本とは、一般的人的資本の対概念で、一般的人的資本が多くの会社で役立つ人的資本(例えば、学習能力の高さ、コミュニケーション能力、健康、ストレス耐性)であるのに対して、会社特殊的人的資本は、特定の会社でだけ役に立つ人的資本(その会社内の慣行や人間関係に関する知識、その会社でだけ用いられるスキル)のことである。これらは理念型であり、両者の間には中間的な一般性の人的資本のグラデーションがある。会社特殊的人的資本が高い労働者は、とうぜんその会社に留まるインセンティブが高まる。Sørensen and Sharkey が興味を持っているのは、この会社特殊的人的資本と起業 (entrepreneurship) の関係である。

Sørensen and Sharkey のモデルは、以下のとおりである。会社で働く労働者には3つの選択肢がある。

  1. その会社にとどまり続けるか、
  2. 別の会社に転職するか、
  3. 自営業主として開業するか、
の3つである。労働者は所得が増加する確率がもっとも高い選択肢を選ぶと仮定されている。期待所得を最大化するのではない、という点がポイントで、これが後で効いてくる。

このモデルにおいては、所得は現在の会社での昇進可能性、一般的人的資本、今の会社に特殊的な人的資本、ランダムエラーといった要因によって規定される。基本的には人的資本に比例して所得も高まると仮定されているが、自分の将来の所得を正確に予測することは不可能であり、誤差が生じるとされる。このような誤差は、今の会社に留まる場合よりも、別の会社に転職した場合のほうが大きく、自営業主として開業した場合さらに予測は困難でもっとも誤差の分散が大きくなる、というモデルである。

前述のとおり、他の条件が同じならば会社特殊的人的資本が高い者ほど今の会社にとどまり続けたほうが賃金が高まりやすく、それゆえ、会社にとどまりやすい。このモデルでもそうなっているのだが、Sørensen and Sharkey が注目するのは、会社特殊的人的資本が高い者が、その次に選びやすいのは、他社への転職か、自営業主としての開業か、という問題である。以下では、特に断りのない限り他社への転職か、自営業主としての開業か、という二択で考える。結論から言うと、このモデルにおいては、会社特殊的人的資本が高い者ほど、他社への転職よりも、独立・開業を選びやすい。これは下の図のようなイメージで考えるとわかりやすい。

A さんと B さんという二人の労働者が同じ会社に勤めており、A さんは会社特殊的人的資本が低く、B さんは高いが、一般的人的資本などその他の条件はすべて同じであるとする。 B さんは会社特殊的人的資本が高いので、そのぶん所得も高い。箱ひげ図で示してあるのは、他社に転職した場合と、独立・開業した場合の所得である。箱ひげになっているのは、将来の賃金を正確に予測できない(誤差がある)ため、そのバラつきの大きさを示すためである(図の二つの箱ひげは平均が同じ値で、標準偏差が 1 と 3.5 の正規分布をする乱数を発生させて作ってある)。会社特殊的人的資本の低い A さんは他社に転職すると、かなり高い確率で所得が増加するが、独立・開業すると所得が低下する確率もかなりあり、所得上昇の確率を最大化するという考え方に従うと、独立・開業よりは他社への転職が選ばれることになる。いっぽう B さんは高い会社特殊的人的資本があるので、他社に転職しても所得が高まる確率はゼロである。いっぽう独立・開業すれば多少は所得が高まる可能性がある。それゆえ、他者への転職か独立・開業か、という二択で考えれば、独立・開業が選ばれることになる。

このような違いが生じるのは、他社へ転職した場合よりも独立・開業した場合のほうが、将来の所得が不透明でよくわからないからである。独立・開業すれば、大金持ちになれる可能性もわずかながらあるが、負債を抱えて廃業の憂き目に合う可能性もある。それに比べれば転職した場合のほうが将来の所得のバラツキは小さい。それゆえ、高い会社特殊的人的資本の持ち主には、他社への転職よりは独立・開業が魅力的になるのである。また、このような結果は期待所得を最大化するのではなく、所得が上昇する確率を最大化するという選択原理によってもたらされている。ただし、繰り返すが、もっとも選ばれやすいのは、今の会社に留まることであり、2番めに選ばれやすいのが独立・開業だという話である。

その後、収入や勤続年数など関連する諸変数の値が同じである場合に、どのような組織に所属する人が会社特殊的人的資本が高いのかを予測している。Sørensen and Sharkey のモデルでは、会社内の所得格差が小さく所得の上昇余地の低い者ほど、会社特殊的人的資本が高く、それゆえ他社への転職よりは独立・開業を選びやすい。また、上位の職位の数が労働者数に比して少なく、昇進・昇給の可能性が限られている会社の労働者ほど会社特殊的人的資本が高く、それゆえ他社への転職よりは独立・開業を選びやすい。以上の議論は、仮説にすぎないので、デンマークにおける1980〜1997年のパネル・データを使って仮説の検証がなされている。雇われて働いている人をリスク・セットとする競合リスク・イベントヒストリー分析を行うと、確かに会社特殊的人的資本の指標である現在の会社での勤続年数が長い人ほど、今の会社に最もとどまりやすく、次に独立・開業しやすく、他社への転職は最もしにくい、という結果となっている。また、会社内の賃金格差や最高の賃金も予測通りの結果を示している。

非常にわかりにくい論文で、主要なトピックも瑣末な問題のような気がして、とても難渋した。上で述べた理論モデルもオンライン・サプリメントの数理モデルを読んでようやく理解できた。論文では組織の構造が転職や独立・開業におよぼす影響を解明した、ということが強調されているが、理論モデル上の理屈では、組織構造ではなく会社特殊的人的資本が転職や起業の確率に影響を及ぼしているのであり、組織構造は会社特殊的人的資本の指標として用いられているにすぎない。そのため議論が混乱していたように思う。とはいえ、図で示したような理屈はけっこうおもしろく、不確実性下の選択のモデルとしては応用がきくのかもしれないと思った。

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