Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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非正規雇用を利用する会社における正社員の忠誠心と退職意向 Davis-Blake, et. al. 2003

Alison Davis-Blake, Joseph P. Broschak and Elizabeth George, 2003, "Happy Together? How Using Nonstandard Workers Affects Exit, Voice, and Loyalty among Standard Employees," The Academy of Management Journal, Vol.46 No.4, pp.475-485.
会社が臨時雇用や請け負い労働者を利用することで、正社員の労使関係観、退職意向、労働組合の組織化意向、会社に対する忠誠心が悪化することを論じた論文。非正規雇用の利用は、短期的には雇用の流動性と人件費の削減を会社にもたらす。しかし、それによって、正社員は非正規労働者の教育や管理といった追加負担を求められるが、給与が上がるわけではない、という事例が複数報告されている。また、非正規雇用が増加している会社では、正社員も自分自身が解雇される危険を感じやすい。それゆえ、正社員の会社に対する不満感が高まり、退職意向が強まり、会社に対する忠誠心も弱まる、という仮説が考えられる。さらに、組合を通して会社に異議申立てをしようとする正社員も増えると、Davis-Blake, Broschak and George は予測している。

ただし、このようなメカニズムは、臨時雇用の場合に顕著であり、請負労働者 (contractor) の場合にはそれほどでもないと Davis-Blake, Broschak and George は主張する。請負労働者というと、工場のラインで働いているブルーカラーのイメージが強いが、著者らが想定しているのは、法律家やデザイナー、ライターのような専門知識を提供してくれるような自由業者である。このような専門職の自由業者は教育や管理の必要性があまりないし、会社に雇われている正社員とあまり競合しないので、上記のようなメカニズムで不満感が高まることはあまりないだろうと予測されている。

また、非正規雇用の増加による正社員の忠誠心の低下は、すべての正社員で一様に起きるのではなく、職位が比較的低い社員において起きやすいと考えられる。なぜなら、すでに会社の中核にいるような管理職が非正規雇用で置き換えられることは考えにくいし、非正規雇用の管理や教育といった負担は、職位の低い正社員の仕事である場合が多いと考えられるからである。

以上のような仮説を検証するために、1991 年の General Social Survey (GSS) と National Organization Survey (NOS) のマッチング・データが分析されている。サンプルは、常雇の被雇用者に限定 (N = 252〜268)。従属変数は、

  1. 労使関係に関する評価。「全体的に見て、あなたの職場での経営者と被雇用者の関係はいいですか?」(5件法)
  2. 退職の意向。「色々なことを考慮すると、これから1年以内に別の仕事を本気で探すことがありそうですか?」(3件法)
  3. 労働組合の組織化意向。「もしも無記名投票がなされるとすれば、あなたは自分を代表する組合が結成されることに賛成しますか」(2件法)
  4. 会社への忠誠心。「私はこの会社で働けることを誇りに思う」(5件法)など、5つの項目の合計点(アルファは不明)
であり、主要な独立変数は、GSS の対象者(正社員)が行っている仕事と同じ仕事を、請負労働者にも外注しているかどうか(ダミー変数)、臨時雇用を会社が雇っているかどうか(ダミー変数)である。なお職位は収入と、管理的な業務を行っているかどうかのダミー変数で測定されている。

分析の結果、臨時雇用の利用は、労使関係評価、退職意向、会社への忠誠心に仮説通りの悪い影響を及ぼす。しかし、労働組合化の意向に関しては、むしろ下がる。いっぽう請負労働者への外注は、労使関係評価を有意に悪化させるが、その他の従属変数には効果が無い。仮説では、請負労働者への外注の効果は、臨時雇用の利用の効果よりも弱いと考えられていた。それを支持するように見える推定値はいくつか得られているものの、請け負いと臨時雇用の効果の差は、労使関係評価についてしか検定されておらず、その結果も有意ではないので、あまりはっきりとしたことはわからない。職位による交互作用効果は、一部で有意であるが、有意でないもののほうが多く、これも仮説が指示されたとまでは言い難い。

まとめると、臨時雇用を用いている会社では、用いていない会社に比べて、正社員の労使関係評価は悪く、退職意向も強く、会社への忠誠心も低いが、組合の組織化には消極的である。請け負いの外注は労使関係評価のみを悪化させる。効果の大きさの違いについては、予測通りの結果が出たり出なかったりで、仮説が支持されたとまでは言えない。

仮説の下敷きには、A. O. Hirschman の Exit, Voice, and Loyalty があり、 Voice の指標として労働組合の組織化意向が用いられているのだが、これが微妙に問題だという気がした。 Voice は組合を通したものだけではないし、質問文が、現在労働組合がないことを前提にしている(私の誤訳かもしれないが)ので、これで本当に Voice がうまくとらえられているのか、疑問に感じた。また、非正規雇用を多用するような会社は、組合に対しては否定的というイメージがあるので、そういう会社では、社員も組合を作るよりは他の会社に移ったほうが合理的と考えるのかもしれない。

また、すでに触れたように、請け負い労働のイメージは多様で、個々の社員が正確に請け負いについて理解しているかどうかは疑わしい。また、企業規模が大きくなると、人事担当者であっても請け負いや派遣労働について正確な数字を把握しているとは限らない。それゆえ、誤差が大きくなっている可能性は高い。

このような限界があるとはいえ、非正規雇用の増加が正社員にどのような悪影響があるのか、統計的に明らかにしたという点では高く評価したい。ちなみに 2002年のデータを使って Pedulla (2013) が類似の分析を行っている。こちらも臨時雇用は有意に正社員の忠誠心を低くするが、請け負いは効果が無いという結果であった。

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