Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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「独英の初職が臨時雇用だった人の5年後」Gebel 2010

Michael Gebel, 2010, "Early career consequences of temporary employment in Germany and the UK," Work, Employment & Society, Vol.24 No.4, pp.641-660.
ドイツとイギリスのデータで、初職が臨時雇用であることがその後の賃金と従業上の地位(常雇か、臨時雇か、失業か、非労働力か、学生か)に与える影響を分析した論文。臨時雇用が trap か stepping stone かという問題は西ヨーロッパではかなり盛んに議論されており(例えば Korpi and Levin (2001)Steijn and Need (2006))、特に学校を卒業した直後につく職(初職)が臨時雇用であることが、その後のキャリアに及ぼす影響が注目されている印象がある。これは実質的には試用期間に近いもので、正規労働者として本格的に雇う前に数年間、臨時雇用として雇うような慣行が西ヨーロッパで広がっているからではないかと思う(この辺りの正確な事情は知らない)。これは(少なくとも独英では)高卒よりも大卒で顕著なそうである。日本では高卒のほうが非正規雇用になりやすいので、これは意外に感じられるのだが、西ヨーロッパでは臨時雇用は本当に「臨時」であることに意味があるということなのかもしれない。すなわち、日本では賃金を低く抑えるために非正規雇用を利用することがしばしばあるが、独英での大卒臨時雇用は賃金抑制が主な目的ではないのかもしれない。すなわち、高卒が主に就くブルーカラーや下層のホワイトカラーでは通常の試用期間でその労働者の能力について判断がつくが、大卒エリートが相対的に就きやすい上層のホワイトカラーの場合、もっと長期の試用期間が必要ということなのかもしれない。

当然、初職が臨時雇用の者と常雇の者を比較すれば、常雇の者の方が、1年後、2年後も常雇である可能性が高いと考えられる。しかし、このような初職の効果が、5年後も10年後も永続するとは限らない。上のような試用期間としての性質を考えると、臨時雇いの経験はスティグマにならないかもしれない。日本でも、かなり多くの若者が臨時雇用から常雇に移動するし、逆に常雇の仕事を辞める者も多い。もしもこのようなシナリオ通りならば、初職の効果は数年のうちに消えてしまうだろう。これを統合仮説 (integration explanation) と呼ぶ。逆に臨時雇用の経験がスティグマ(人的資本の低さを示すシグナル)として働き、オンザジョブトレーニングの機会を持たないならば、初職の効果は永続するはずである。これを罠仮説 (entrapment explanation) と呼ぶ。

このような統合仮説と罠仮説がどの程度現実に当てはまるかは、労働市場のセクターや国によって異なると Gangl は言う。大卒の労働市場では、常雇の賃金が高いので、臨時雇用との賃金格差は大きくなりやすいだろうが、前述のように可視性の低い人的資本を見極めるための試用期間であれば、多くの若者が常雇に移動していくはずである。いっぽう高卒や中卒の労働市場では、比較的賃金が低く、可視性が比較的高い人的資本が求められるので、臨時雇用は試用期間というよりも、勤続年数を短縮して賃金を低く抑えるために活用される場合が多くなるかもしれない。同様のロジックで男性の労働市場では臨時雇用と常雇の賃金格差が大きく、女性の労働市場では小さいだろう。またとうぜん女性のほうが非労働力化しやすいだろう。さらに総じてイギリスのほうが雇用保護が弱く、労働力の流動性が高いことを考えれば、イギリスは統合仮説が相対的によく当てはまり、ドイツはイギリスよりも罠仮説がよく当てはまるだろう。

データは British Household Panel Survey (BHPS) と German SOcio-Economic Panel (GSOEP) の 1991-2007年である。従属変数は、初職についてから1〜5年後の賃金、臨時雇用ダミー、失業ダミー、非労働力ダミー、学生ダミーである。分析には傾向スコア・マッチングが用いられており、初職が臨時雇用のグループと常時雇用のグループの間の差が推定されている。分析の結果、どちらかと言えばドイツのほうが初職が臨時雇用であることの効果が強いが、初職についてから5年後には独英の差は縮小しほとんどなくなる場合が多く、失業率を高める効果はイギリスのほうが強い。また傾向スコア・マッチングを用いているせいか、独英の違いは検定されておらず、Gangl の言うような独英の違いが統計的に有意なのかは不明である。学歴別、男女別の分析もなされているが、サンプル・サイズが足りないせいか、係数が不安定で一貫性がなく、やはり Gangl の言うような違いがあるかどうかははっきりしない。Gangl は指摘していないが、ドイツでは男性のほうが罠仮説がよく当てはまる(つまり、初職が臨時雇用であると、その後も臨時雇用にとどまりやすい)のに対して、イギリスでは女性のほうが罠仮説がよく当てはまる、という違いである。どうしてそうなるのかはよくわからないが、興味深い。

傾向スコア・マッチングについてはよく知らないのだが、従属変数が5つあり、それぞれについて初職についた1〜5年後に関して分析しているため 5×5 = 25回分析している。さらにそれを男女別、学歴別に分析しているため、たくさんの係数が推定され、しかも不安定で、国や男女で係数が異なるかどうかも検定されていない。収入以外に関しては、競合リスク・イベント・ヒストリー分析を用いれば、上記のような問題は回避できると思うのだが、このリサーチ・クエスチョンとデータで傾向スコア・マッチングを用いるメリットがどの程度あるのか、いささか疑問に感じた。つまり、傾向スコア・マッチングを用いたほうが係数の推定値のバイアスは小さいと言われているが、この場合、傾向スコア・マッチングを使うことでどの程度バイアスが縮小しているのだろうか。

とはいえ、分析結果は興味深い。オランダの分析では学卒直後に失業していると、その後も失業リスクは高く、その効果が消えるまで40年かかるという推定結果だったので (Steijn and Need (2006))、それに比べると、ずっと早く学卒直後の状況の効果は消滅している。時代や用いている変数が違うので、一概には比較できないが、失業と臨時雇用ではだいぶ意味が違うということであろう。少なくとも学卒直後の臨時雇用は、独英ではそれほど一次的労働市場から分断されていない、つまり統合仮説がけっこう当てはまっているという印象である。

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