Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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不安定労働者のアイデンティティ再構築:なぜ報われなくても一生懸命働くのか? Padavic 2005

Irene Padavic, 2005, "Laboring under Uncertainty: Identity Renegotiation among Contingent Workers," Symbolic Interaction, Vol.28 No.1, pp.111-134.
不安定な条件で働く労働者がどうして真面目に一生懸命働くのか、アイデンティティをキーワードに読み解いた論文。最低賃金ギリギリで昇進の見込みもなく、辞めてもすぐに同程度の条件の仕事ならば見つかる、という労働者には、経済合理性だけ考えれば、まったくまじめに働くインセンティブがない。怠けたりサボったりしたほうが楽できるし、仮に雇い主に見つかって解雇されても、すぐに他の仕事が見つかるし、真面目にやっていたとしてもどうせ解雇されてしまうかもしれないので、こういう条件の悪い仕事は、真面目にやる(経済的)理由がないはずである。しかし、実際には低賃金で不安定な仕事であっても真面目に一生懸命働いている人はたくさんいる。なぜなのか?

Padavic によれば、それは不安定労働者のアイデンティティと自尊心 (self respect) に原因がある。理念型的にいえば、フォーディズムが貫徹している企業においては、労働者は企業と一体化する。労働者は企業という共同体の一員であり、労働者も経営者も企業という同じ村の仲間と考えられる。もちろん労働者と経営者(あるいは資本家というべきか)のあいだには利害の対立があるわけだが、フォーディズムが貫徹している企業では内部労働市場が発展し、雇用は安定しており、定年まで勤め続ける労働者も多いため、このような一体感が形成される。企業の利益は労働者の利益であり、その企業の従業員であることに誇りを感じる労働者も、フォーディズムのもとでは珍しくはない。こうして、規律化された真面目に一生懸命働く労働者が多数生まれた、というわけである。

しかし、不安定労働者はフォーディズムが終わったことによって増加したのであった。企業は不安定労働者を容赦なく切り捨てるので、一体感も損なわれるはずである。それにもかかわらず、不安定労働者がまじめに働くのは、それによって勤勉な労働者というアイデンティティを守り、自尊心を保つためではないのか、というのが Padavic の見立てである。

1996年に 27人の不安定労働者(一人以外はノンヒスパニックの白人)に行った聞き取り調査の結果は、Padavic の見立てとおおむね整合的である。彼らはすべて昇進の見込みの無い臨時雇用や個人事業主(実態は労働者に近い)である。27人中、26人は何らかの形で自分の仕事に非金銭的な価値や誇りを見出しているという。Padavic によれば、以下の3つのタイプのアイデンティティ操作 (identity management) が見られる。

  • 第一に、不安定労働者は「本当の自分は、役者、研究者、アーティスト、等など、なのであって、現在の仕事は仮の姿にすぎない」、と考えることで、現在の苦境を耐えることがある。しかし、これは一生懸命働く理由にはならないだろうと私は思う。
  • 第二に、不安定労働者は、労働倫理 (work ethic) に献身することで自尊心を保つ場合がある。つまり、雇い主が不誠実であっても、自分自身は仕事に対して誠実でありたい、と考える。そして実際に一生懸命働くことで自尊心は守られる。
  • 第三に、不安定労働者は、不安定であるにもかかわらず雇い主と自己同一化 (identification) することで、自尊心を守ることがある。雇用が不安定であっても組織の一員として一緒に働けば、そういう心理が働くことは当然あるし、それゆえ組織の目的のために一生懸命働く場合があるというわけである。

なお、一人だけは上記のようなアイデンティティ操作を一切せず、金のためだけに働き、経営者との利害対立を明確に口にし、職を転々とする者もいた。彼は仕事に献身するようなこともしない。もちろん、26人の献身的労働者もお金のために働いていることを否定しないし、利害の対立を感じることもしばしばあるわけだが、上記のようなアイデンティティ操作を通して自尊心を保ち、それが結果的には経営者の利益に奉仕することになっているわけである。

労働者のモラールの問題は古典的なテーマのように思うが、雇用が不安定になって再び注目されるようになったのだろうか。書いてあることは特に意外でもないが、こういうふうに労働者が搾取されている側面だけを強調するのには、研究倫理的にあまり賛成出来ない。それは真面目に働いている不安定労働者を批判することになりかねないからだ。Padavic にそのような意図があるとは思えないが、暗に「まじめに働く不安定労働者は愚かだ」と言っていることになりかねない点が気がかりなのである。不安定労働者が搾取されているのならば、批判されるべきは経営者であって労働者の側ではない。学問的に Padavic の言っていることが正しかったとしても、そこを強調することは研究倫理的には決して好ましいことではあるまい。

また、不安定雇用であっても、まじめに働くことでオンザジョブトレーニングが効果的に行われ、高いスキルが形成されることはよくあることである。一生懸命やったほうがおもしろい仕事もあろう。確かに "Me, Inc" とか "A Brand Called You" とか、ノマドワーカー、みたいな話が胡散臭いというのはわかるのだが、経済的利害 vs アイデンティティ、みたいな対立図式だけで語ることもまた胡散臭いと感じるのは私だけだろうか。

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