Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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構造方程式モデルでパネル・データの因果分析 Finkel 1995

Steven Eric Finkel, 1995, Causal Analysis with Panel Data, SAGE.
構造方程式モデル (Structural Equation Models: SEM) でパネル・データを分析する方法について概説した本。近年、日本でもパネル・データの蓄積が進み、パネル・データの分析法もかなり普及してきた。そのような文脈では計量経済学のテキストが参照されることが多く、固定効果モデルのような方法がよく用いられている印象がある。しかし、そういった分析法の多くは SEM の枠組みでも扱えることが知られている。両者の違いや長短などについてはよくわからないが、この本は、SEM を使ったパネル・データの分析、特に内生性の扱いについて論じてある。内生性については、前回の Paxton et al. 2011 の記事で紹介したので、そちらを参照されたい。なお、最近は「因果分析」という言葉を、傾向スコア分析のような方法に限定して使うような用法が出てきているようであるが、ここではもっと広い意味合いで用いられている。

双方向の因果関係や誤差項と説明変数のあいだの相関がパラメータの推定に歪みを生むことはよく知られている(Paxton et al. 2011 の記事を参照)。この問題を解消する方法の一つとして操作変数 (Instrumental Variable: IV) のモデルへの投入があるわけだが、これは二段階最小二乗法でも SEM でも同じである。ただ社会学であつかうような横断データでは、適当な IV が見つからないことも多い。しかし、パネルデータの場合、一時点前の変数が IV として使えることも多いし、因果関係にタイムラグを仮定することで、内生性を回避することも可能である。このようないくつかのモデルの特徴や分析の際の注意などが論じられており、役に立つ内容になっていると思う。 SEM なので確証的因子分析や測定誤差の問題も論じられており、さらに観察されない多様性を統制する方法もいくつか紹介されている。ただ、SEM のモデル・フィッティングの評価にはカイ二乗値と p 値しか用いられておらず、CFI や RMSEA のような最近よく使われている指標にはまったく言及がなかった。

内生性の処理に関しては、すでに Paxton et al. 2011 を読んでいたので、特に目新しいとは感じなかったが、パネルデータの強みをどう活かすかという点、そして、観察されない多様性を SEM で統制する方法は、よく知らなかったので興味深い内容だった。特に興味があったのは、観察されない多様性を統制しつつ、内生性によるバイアスも除去するにはどうしたらいいか、という点であったが、これについてもいちおう解答がえられたので、よかった。このモデルを識別するためには、最低 3 wave のパネル、できれば 4 wave ぐらいあると識別できるはずである。

統計モデルのユーザーの観点から言うと、SEM は固定効果モデルや2段階最小二乗法とちがって、モデル・フィッティングを気にしなければならない、というのが面倒という印象はある。しかし、2段階最小二乗法などでもフィッティングの問題は隠蔽されているだけで実際には存在するのだし、モデルの診断を真面目にやればすぐに問題が発覚するはずなので、けっきょくは同じことのようにも思う。

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