Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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逸脱の拡散:フィールド実験による割れ窓理論の検証 Keiser et al. 2008

Kees Keizer, Siegwart Lindenberg and Linda Steg, 2008, "The Spreading of Disorder," Science, Vol.322 No.5908, pp.1681-1685.
割れ窓理論をフィールド実験で検証した論文。割れ窓理論とは、割れた窓や道に散乱したゴミ、落書きのような無秩序の兆候が、別タイプの逸脱や軽犯罪の増加を促す、という仮説。しかし、割れ窓理論に対しては経験的な批判がかなりあり、証拠は不十分 (mixed) であると Keiser, Lindenberg and Steg は言う。

オリジナルの割れ窓理論がどのようなメカニズムを想定しているのは知らないが、Keiser らは次のようなメカニズムを想定している。彼らによると、規範には指令的規範 (injunctive norm) と記述的規範 (descriptive norm) があるという。指令的規範とは、「ゴミを捨てるな」「落書きするな」といった指令を指し、社会学でふつう規範と呼んでいるものとほぼ同じである。いっぽう記述的規範とは、ある状況下で共通に行われている行動や行動パターンを指す(これは社会学者なら「規範」とは呼ばない)。例えば「誰もゴミを捨てていない」「誰も落書きをしていない」といった状況が記述的規範となる。これはタルコット・パーソンズのいう規範的秩序 vs 事実的秩序とほぼ一致する概念セットといえる。Cialdini という心理学者によれば、指令的規範は、記述的規範と一致している方が、一致していない場合よりも、よく順守される。例えば、「ゴミを捨てるな」という指令的規範は、実際に誰もゴミを捨てていないという記述的規範のもとのほうが、ゴミが散乱している(ゴミを捨ている人が多数いる)という記述的規範のもとよりも、よく順守されるだろう。このような効果を Keiser らは Ciardini 効果と呼んでいる。 Ciardini 効果は単なる模倣や同調行動として説明できるし、「多くの人がやっている行為はきっと合理的なのだろう」といったヒューリスティックでも説明可能である。

割れ窓理論は、単にゴミの散乱がさらなるゴミの投棄を引き起こす(Ciardini 効果)だけでなく、もっと大きな逸脱(窃盗などの犯罪)を生むことを主張しているのだが、これは Ciardini 効果だけでは説明できない。なぜならゴミの投棄と窃盗はまったく別の行為であり、単なる模倣や上記のようなヒューリスティックでは説明がつかないからである。そこで Keiser らは以下のような心理的メカニズムを想定することで、割れ窓理論を擁護しようとしている。人間は指令的な規範を守り、ちゃんと振る舞いたい (behave appropriately)、という目標 (goal) を持っているが、それだけでなく、気持ちよさ (feeling better) や快楽を求めたり (hedonic)、自分の持つ資源 (resources) を守ったり、増やしたりしたいという目標も持っている(資源については説明がないが、金銭や財産、権力などだろう)。これらの目標は対立することもあるが、指令的規範からの逸脱(つまり指令的規範と記述的規範の食い違い)を観察すると、一般に指令的規範を順守したいという目標は弱まり、快楽や資源を得ようという目標が強まる。これが逸脱を引き起こすという理屈である。このような心理的メカニズムが働くならば、ゴミの投棄も窃盗の増加につながるはずである。

Keiser らは以上のような仮説を検証するために、6種類のフィールド実験を行い、すべてにおいて仮説を支持するような結果を得ている。一つだけ紹介すると、郵便ポストに 5 ユーロ入った封筒を引っ掛けておく(下の写真 [p. 1684 より転載] を参照)。封筒には透明の窓があり、お金が入っていることがわかるようにしてある。

KeizerLindenbergSteg2008
実験群では、ポストの周りにゴミを散乱させておく。この状況に一人で通りがかった人がこの封筒の中の 5 ユーロを盗むかどうかを調べる。いっぽう対照群では、ポストの周りはきれいにしておく。そしてやはりこの状況で一人で通りがかった人がこの封筒の中の 5 ユーロを盗むかどうかを調べる。ゴミがあると 72 人中の 24% が盗んだが、ゴミがない状況では 71 人中の 13% が盗んだ。5% 水準で有意差がある。

こんな実験、どうやってやるんだろう、というところが一番気になったが(警察の許可とかどうするんだろう? 被験者は罪に問われないだろうが、お金は返してもらうのだろうか? あとで事情を説明するのだろうか?)、割れ窓理論を支持する結果になっており、おもしろかった。合理的選択理論風に言うと、状況によって効用関数が変化する(あるいは効用関数は通常、行為の結果に対して効用を割り当てるが、行為の結果だけでなくよりおおきな文脈や状況を定義域とする関数だと考えることになる)ということだろうか。ありそうな話ではあるが、きっちり実験したことによって面白い研究になっていると思う。フィールド実験、ちょっと勉強してみたくなった。

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