Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
<< March 2020 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>
 
RECOMMEND
後期近代と価値意識の変容: 日本人の意識 1973-2008
後期近代と価値意識の変容: 日本人の意識 1973-2008 (JUGEMレビュー »)

NHKの日本人の意識調査のデータをつっこんで分析した本です。
RECOMMEND
Labor Markets, Gender and Social Stratification in East Asia: A Global Perspective (The Intimate and the Public in Asian and Global Perspectives)
Labor Markets, Gender and Social Stratification in East Asia: A Global Perspective (The Intimate and the Public in Asian and Global Perspectives) (JUGEMレビュー »)

直下の和書の英語版です。審査を通過するためにレフェリーのコメントに従って若干修正してあります。
RECOMMEND
東アジアの労働市場と社会階層 (変容する親密圏/公共圏)
東アジアの労働市場と社会階層 (変容する親密圏/公共圏) (JUGEMレビュー »)

GCOEの成果をまとめた本です。日本を中心に韓国、台湾(中国も少し)との比較研究をしてます。
RECOMMEND
若年非正規雇用の社会学‐階層・ジェンダー・グローバル化 (大阪大学新世紀レクチャー)
若年非正規雇用の社会学‐階層・ジェンダー・グローバル化 (大阪大学新世紀レクチャー) (JUGEMレビュー »)
太郎丸 博
拙著です。非正規雇用に関する本はたくさんありますが、「なぜ正規雇用と非正規雇用では賃金格差があるのか」など当たり前と思われがちな問題を突き詰めて考えてみました。
RECOMMEND
フリーターとニートの社会学
フリーターとニートの社会学 (JUGEMレビュー »)

拙編です。オーソドックスな計量社会学の手法で、若年非正規雇用や無職にアプローチした本です。白い装丁なので、輪郭がわからないですね...
RECOMMEND
人文・社会科学のためのカテゴリカル・データ解析入門
人文・社会科学のためのカテゴリカル・データ解析入門 (JUGEMレビュー »)
太郎丸 博
拙著です。軽く読み流すのは難しいですが、まじめに一歩一歩勉強するために作りました。
ARCHIVES
RECENT COMMENT
  • 阪大を去るにあたって: 社会学の危機と希望
    charlestonblue (10/08)
  • Cohen et. al 2011 「フェミニズムの方法論的インパクト: 社会学のやっかいな問題?」
    abe daijyu (10/05)
  • アマチュア社会学の可能性
    読者 (02/20)
  • 社会システム理論の野望、あるいは全体性へのオブセッション
    宮国 (12/19)
  • 片山他 2015「図書館は格差解消に役立っているのか?」
    オカベ (12/09)
  • ランダム効果の意味、マルチレベル・モデル、全数調査データ分析
    YZ (12/07)
  • 学歴社会から「学習資本」社会へ:日本の教育と社会における階級形成の再編
    赤尾勝己 (02/11)
  • グラフィカル・モデリングとは?
    anonymous (11/30)
  • Rスクリプト覚書き:vglm関数で平行性の仮定を置かずに順序ロジット
    ほっくー (08/05)
  • 台湾の経済: 典型NIESの光と影
    おーまきちまき (07/19)
RECENT TRACKBACK
 
「抑止理論を越えて:イスラエルにおいてテロを控えることの期待効用を高めることの有効性」

Laura Dugan and Erica Chenoweth, 2012, "Moving Beyond Deterrence: The Effectiveness of Raising the Expected Utility of Abstaining from Terrorism in Israel," American Sociological Review, Vol.77 No.4, pp.597-624.
イスラエル政府のどのような行動がテロの発生に影響するのか研究した論文。合理的選択理論の説明では、逸脱(この場合はテロ)が生じるのは、逸脱するほうがしない場合より期待効用が高いからである。それゆえ、逸脱を抑止するためには、逸脱した場合の期待効用を下げるか(懲罰戦略と呼んでおく)、逸脱しなかった場合の期待効用を上げるか(報償戦略と呼んでおく)、の二通りの方法がある。

逸脱の期待効用を下げる(懲罰戦略)ためには、逸脱に対する懲罰を厳罰化するか、警察活動を強化して捕まる確率を高めるといった方法が考えられる。イスラエルにおけるテロの場合であれば、テロリストの取り締まりや厳罰化だけでなく、パレスチナの一般住民に対する報復といった方法もとられる。いっぽう逸脱しなかった場合の期待効用を高めるの(報償戦略)はしばしば困難なのだが(大半の市民は犯罪を犯したりしないので、これらの人々全員に報奨金を支払うなどすることは難しいため)、再犯率の高いタイプの元受刑者に職業を紹介するなど、合法的な日常生活から得られる効用を高めるような方法が考えられる。

しかし、テロの場合、イスラエル政府による PLO (Palestine Liberation Organization) やハマスに対する報復は、PLO やハマスからのさらなる報復を生むだけで、実効性がどれだけあったのかについては、これまでもしばしば疑問が表明されてきた。また、自爆テロのようにテロリストが自身の生命の価値をかなり低く評価している場合、テロリスト自身に対する懲罰やテロ組織に対する報復はあまり効果がない。

また、著者らは指摘していないが、パレスチナ側から見れば、逸脱しているのはイスラエル政府の方であって、それに対して罰を与えているのが PLO やハマスなのだから、イスラエルによる懲罰(パレスチナ側から見れば逸脱)は、パレスチナ側からのさらなる報復(パレスチナ側から見れば懲罰)を生むだけだということは、ゲーム理論を勉強していなくても常識的に理解できるように思われる。

前述のように、逸脱しなかった場合の期待効用を高めること(報償戦略)は容易でない場合が多いため、合理的選択理論では厳罰化や警察活動の強化(懲罰戦略)が推奨されがちである。冷戦期にフォン・ノイマンが核先制攻撃の熱心な唱導者であったことはよく知られているが、合理的選択理論はタカ派的な議論と結びつきやすいのである。これに対して Dugan and Chenoweth は、実際のところ懲罰戦略と報償戦略のどちらがテロを減らす効果があるのか、検証するというアプローチをとる。イスラエルとパレスチナの対立の歴史の中では、イスラエルは態度を硬化させたり、軟化させたり、といった変化を繰り返しており、それがテロの数にどう影響したのか分析しようというわけである。

データは時系列 (time series) データで、1987年 6月から 2004年10月までの毎月のテロ発生件数が被説明変数で、前月のイスラエル政府による 4種類の行動の回数が主要な説明変数である。行動は、抑圧的 (repressive) か協調的 (conciliatory) かと、テロ関係者だけに対する行動か (discriminative) それ以外の関係者も含む広範な人々に対する行動か (indiscriminative) 、で分類してある。例えば、ミサイル攻撃などで一般住民にも被害が及べば抑圧的無差別行動 (repressive-indiscriminative) だし、テロリストを釈放するのは協調的限定行動 (repressive-discriminative) ということになる。

分析の結果、一番はっきりとした効果が見られるのが協調的無差別行動(例えば、占領地からの撤退や、イスラエル軍のパレスチナ住民に対する不正行為の調査)である。抑圧的行動は、無差別的であれ限定的であれ、ほとんど有意ではないが、どちらかと言えばむしろテロを増やす傾向が見られる。差別的協調行動(一般住民ではなくテロリストにだけ譲歩する)はほとんど効果がない。

以上の分析結果を単純に応用するならば、抑圧的無差別行動は中止して協調的無差別行動を増やせば、テロを根絶できるということになるが、もちろん現実はそれほど単純ではない。繰り返し述べているように、現実的には無差別協調行動というカードは限られており、そんなに頻繁にカードをきることが出来ないのである。また、イスラエル政府は単にテロの数を減らすだけでなく、内政問題やタカ派的な国民を満足させることで支持率を維持するなど、内政的な要請も満たさなければならない。しかし、少なくともパレスチナの一般住民に対する抑圧的行動には何のメリットもないことは明らかであり、粘り強くパレスチナ住民をイスラエル政府の味方にすることで、テロリストを孤立させる以外にテロを減らす方法はないというのが、この論文の大筋の主張である。

私はパレスチナ問題に関してはまったくの素人なのだが、著しくイスラエルよりの視点から議論されていることに違和感を感じた。米国では社会学であってもこんな感じなのか、と少し驚いた。同業者にユダヤ系の研究者などが多いので(これも単なる私の憶測)、彼らに配慮しているということなのだろうか? とはいえ分析結果は穏当なもので、説得力を感じた。

ただし、分析に問題がないわけではない。協調行動にせよ、抑圧行動にせよ、必ずしも報償戦略や懲罰戦略として機能しているのかはっきりしないからである。報償戦略とはテロリスト側がテロを差し控えたことに対して報償を与えることであるが、協調行動が報償だったのかいちいち確認されているわけではないからである。もちろんそういうケースが多いと考えられると思うが、よくはわからない。懲罰=抑圧という前提に関しても同様の問題がある。

興味深いのは、上のような問題は不問に付す場合、この分析結果は合理的選択理論に対する反証となるのか、という問題である。著者らはこの点について触れていないが、素直に考えれば反証になっているというべきである。なぜなら、抑圧的行動がテロを減らす効果を持っておらず、合理的選択理論の予測に反しているからである。もちろん上で述べたように、テロリストは自分たちの命を非常に軽く見ているから抑圧的限定行動が効果を持たない可能性はあるが、抑圧的無差別行動も効果がないので、テロリストはパレスチナの一般住民の命も非常に軽く見ているということになる。そうなのかもしれないが、いくら命を軽く見ていると言っても同胞の命が失われて悲しまないというのはいささか合理的選択理論的には無理がある議論のように思える。

いずれにせよ、反政府組織の効用関数について説得力のある議論ができないかぎり、合理的選択理論にとっては分の悪い分析結果と言えよう。とはいえ、やはりベースライン・モデルとしての合理的選択理論の価値は否定しようがなく、今後も単純な合理的選択理論をどう修正していくのかが議論の焦点となるように思われる。

スポンサーサイト
- | 14:24 | - | -
コメント
コメントする









 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
トラックバック機能は終了しました。
 

Copyright (C) 2004 paperboy&co. All Rights Reserved.

Powered by "JUGEM"