Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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「中高年期の肥満に対する社会経済的地位と遺伝、コーホートの影響」Liu & Guo 2015

Hexuan Liu and Guang Guo, 2015, "Lifetime Socioeconomic Status, Historical Context, and Genetic Inheritance in Shaping Body Mass in Middle and Late Adulthood," American Sociological Review, Vol.80 No.4, pp.705-737.
中高年期の Body Mass Index (BMI) に対する、出身階層、学歴、資産、遺伝、出生コーホートの効果を、交互作用も含めて検討した論文。肥満は健康に悪影響を及ぼすだけでなく、見た目の印象を悪くするという説もあり、現代人にとっては、重要な問題である。周知のように BMI は肥満の簡便な指標として用いられている。これまでの研究では社会経済的地位 (Socio Economic Status: SES) が高い人ほど BMI が低いと言われている。SES に関しては、出身家庭の SES を重視する研究もあれば、出身階層から現在までの階層履歴の累積的な効果を強調する研究もあれば、移動を重視する研究(明示されていないが、上昇移動した人は BMI が低く、下降移動した人は BMI が高い、という説と思われる)もある。また、遺伝の影響も指摘されている。近年のヒトゲノム解析の発展によりにどの遺伝子が BMI に影響するのかある程度わかっているが、最近の遺伝研究では、遺伝子が病気の発病や肥満に及ぼす影響は環境によって異なるとされており、単純な遺伝決定論よりもずっと洗練されているようである。

この論文の第一の目的は、中高年期のサンプルで BMI に対する SES の履歴と遺伝子の交互作用効果を推定することによって、遺伝子の BMI に対する影響が SES の履歴によってどう異なるのか(言い方を変えれば、SES の効果が遺伝子によってどう異なるのか)を検討することである。この論文で注目されているもう一つの環境要因は、コーホートである。コーホートによって生活習慣が異なるのは珍しい現象ではなく、それが BMI に影響を及ぼすことも先行研究によって指摘されているそうで、BMI の平均値は最近のコーホートほど高いそうである(ただし、時代や年齢の効果をきちんと識別できているかどうかは疑ってみたほうが良いかもしれない)。それゆえ、コーホートと遺伝子の交互作用効果を明らかにすることがこの論文の第二の目的である。第三の目的は、コーホート× SES の履歴×遺伝子の交互作用を検討することにより、SES の履歴と遺伝子の交互作用効果がコーホートによってどのように異なるのか明らかにすることである。

データは Health and Retirement Study で、50歳以上の米国の一般人 (U.S. public) に1992〜2012年の間に1年おきに実施されたのパネル調査からきている。この調査は世帯単位のデータで夫婦ペアでデータをとっているらしい(単身者の扱いは不明)。SES の履歴は

  • 16歳時の父親の職業(明示されていないが連続変数なので Socio-Economic Index と推測される)、
  • 本人の教育年数、
  • すべてのタイプの資産、年金、等など(明示されていないが、調査時点のものか?)
をそれぞれコーホートごとに Z 得点に変換したものをもとにして、以下の3つの尺度で測定されている。
  • 幼少期の SES: 16歳時の父親の職業をそのまま使用。
  • SES の累積的優位 (cumulative advantage): 上の三つの指標がすべて高い値ならば3,二つが高い値ならば2、一つが高い値ならば1、すべて低い値ならば0を与える(「高い」の基準は不明だが、High, medium, low に分けるとされているので、67パーセンタイルより高いかどうかと推測される)。
  • SES の移動パターン:上の三つの指標を元に「一貫低」「一貫高」「上昇移動」「下降移動」の4種類に分類。
遺伝子の測定については、私の専門外でよくわからないのだが、32 BMI Related single nucleotide polymorphisms をもとに遺伝的な太りやすさをしめす連続変数として尺度化されている。これは Genetic Predisposition Score (GPS) と呼ばれている。

分析には交差分類混合効果モデル(計量経済学者の用語で言えばランダム効果モデルの一種)が用いられているのだが、パーソンイヤー・レベルと、世帯レベル、時点レベルのランダム効果がモデルに導入されているが、なぜか個人レベルのランダム効果はない。時点レベルのランダム効果は時系列相関 (AR1) を仮定している。

遺伝的な太りやすさ (GPS) と BMI のゼロ次の相関は、このデータで一番古いコーホートである 1924年以前生まれで 0.013 で有意ではなく、一番新しいコーホートである 1948-53 年生まれでは 0.162 で有意である。概ね新しいコーホートほど相関が強くなる傾向が見られる。これはその他の変数を統制しても同様の結果である。SES の履歴に関しては、3つの尺度すべてに関して低階層ほど BMI が高いという傾向が見られる(移動パターンに関しては、一貫低、下降、上昇、一貫高の順で BMI が高い)。

SES の履歴と GPS の交互作用、およびコーホート× SES の履歴×遺伝的太りやすさの交互作用に関しては、累積的な SES と移動パターンでは有意な交互作用効果がいくつか見られた。傾向としては、遺伝的に太りにくい人たちの間では階層間格差はほとんどないが、遺伝的に太りやすい人の間では階層間格差が存在する(低階層ほど BMI が高い)、という結果であった。言い換えれば、低階層ほど遺伝的な太りやすさの影響を受けて実際の BMI も高くなりやすいが、高階層では遺伝の影響は限定的で、遺伝的に太りやすい人でも高階層だと実際には BMI はあまり高くない、という結果であった。このような交互作用効果が顕著に見られるのは、もっとも古いコーホートにおいてであり、新しいコーホートほど交互作用効果は縮小し、低階層ほど、そして遺伝的に太りやすい人ほど、実際に BMI も高い、という主効果のみが検出されるようになる。

理論的な背景が書かれておらず、探索的な議論なので、分析のやり方にはいくらでもケチを付けることは可能である。例えば、因果の向きは、SES が BMI を高める、と想定されているが、逆の因果も考えられるので、内生性を統制したいところである。また、交互作用効果はすべて有意になっているわけではないので、Wald 検定や尤度比検定が必要と思われるが、なされておらず、第一種の過誤を犯す確率は 5% よりも高くなってしまっている。等など、いくらでも批判できそうではある(が、これまでの研究成果から因果の向きなどはわかっているのかもしれない)。

しかし、遺伝はセンシティブな問題なので日本の社会学ではほとんど扱われていないが、非常に重要である。米国では遺伝に関しては激しい論争があり、最近では上記のように、遺伝決定論や環境決定論のような単純な議論ではなく、遺伝と環境の交互作用を記述・理論化していくというアプローチが、遺伝情報を積極的に扱っている社会学者の間では主流となりつつあるように見える。

個人的に興味深かったのは、米国人の BMI が日本人よりも高いというのは常識的に知っていたが、このデータだと 28.1 で、標準的とされる 18.5〜25 の範囲をかなり超過しており、私の想像以上だった点である(ちなみに平成22年国民健康・栄養調査で日本の50〜69歳ぐらいの BMI の平均値を見ると 23 ぐらい)。

また、私の偏見では米国人は昔は、フライドポテトやステーキなど高カロリーな食事をとっていたが、最近は痩身規範と健康志向の強まりによって痩せた人が増えているのかと思っていたが、少なくとも 1953年生まれまではそれとは逆で、むしろ新しい世代ほど BMI が高い(もちろん年齢などもを統制しても)のである。ただし、標準誤差とサンプルサイズからコーホート別の BMI の標準偏差を計算すると、3.9, 4.6, 4.7, 5.5, 5.7 で最近のコーホートほどばらつきが大きくなっている(F検定すると 5.5 から 5.7 への変化は p = .08 でぎりぎり有意ではなかったがそれ以上の変化があればだいたい有意になりそう)。分布を見てみないとわからないが、極端に太っている人や痩せている人が増えているのかもしれない。

それから、GPS と BMI の相関はもっと大きいのかと思っていたが、全サンプル平均で 0.13 であまり大きくなくて安心した。もちろん遺伝子の研究が進めばもっと予測力の高い尺度が作れるようになるのかもしれないが。

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