Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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「寡占産業と競争産業における非正規労働者の増加要因」(豊田 2005)

豊田 奈穂, 2005, 「寡占産業と競争産業における非正規労働者の増加要因--電力業・ガス業・水道業と卸売業・小売業・飲食店を対象に」『大原社会問題研究所雑誌』556 : 41-52.
企業規模による擬似パネル・データを産業別に作ってパート比率を規定する要因を検討した論文。電力、ガス、水道業のような寡占産業では競争原理が働きにくい。そのため、正規/非正規賃金比のような、競争的な市場では非正規労働者比率に影響しそうな要因が、寡占産業では影響力を持たないということが考えられる。また労働組合は通常、正規労働者の利益を守るために機能することが多いが、労働組合組織率が高い産業では組合が影響力を持つので、組織率が高い企業ほど非正規労働者比率が低くなるが、組織率の低い産業では影響力がないので、組織率は非正規率に影響をもたないと予測されるという(が、後述のように理論的にはこの議論は不十分だと思う)。

データは、2 つの産業(電力業・ガス業・水道業と卸売業・小売業・飲食店)に関する、1995年 1月から2002年12月までの、企業規模×月の擬似パネル・データで、いくつかの調査からあつめられている。被説明変数はパート労働者の比率で、毎月勤労統計調査から得ている。豊田は、パート労働者=非正規労働者という前提で議論を進めているが、両者にはある程度のズレがある点には注意。説明変数は、

  1. 一般労働者総実労働時間(毎月勤労統計調査より)
  2. 賃金比率(パート労働者賃金/一般労働者賃金)(毎月勤労統計調査より)
  3. 労働組合員比率(労働組合基礎調査から組合員数、毎月勤労統計調査から一般労働者数)
  4. 鉱工業生産指数
  5. 失業率(ただし、鉱工業生産指数と失業率は、卸売業などの分析では多重共線性を避けるため同時に投入せず)
で、すべて一時点前の値を用いている。論文中では、上記のすべての「変化率」を固定効果モデルで推定すると書いてある。なお、擬似パネルは企業規模を単位として作られているが、電力、ガス、水道業業は、500人以上の規模ではパート労働者がゼロのまま変動がない(らしい)ので、サンプルから除外されている。卸売、小売、飲食店は企業規模数が 5、電力、ガス、水道業は企業規模数が 3, 時点数=12ヶ月×8年=96 で、卸売、小売、飲食店のサンプル・サイズは 5×(96−1) = 475 ( 1 を引くのは説明変数が一時点前だから)のはずだが、なぜか 479 で、電力、ガス、水道業は 3×(96−1) = 285 のはずだが、なぜか 288 となっている。

分析の結果、一般労働者の総労働時間(変化率?)も賃金比率(の変化率?)も、電力、ガス、水道業では有意でないが、卸売、小売、飲食店は 5% 水準で有意な効果があり、総労働時間が減り、賃金比率が高まると非正規比率が上がるという結果で、一般労働者とパート労働者の代替性を示唆している。いっぽう組合員比率は、電力、ガス、水道業でのみ負の有意な結果を示している。ただし、卸売、小売、飲食店でも係数の推定値は負で、絶対値はむしろ電力業などよりも大きい。

全般に誤植が多く、数値も上記のように変なところがあり、どこまで信じていいのかわからない。労働組合基礎調査から組合員数を得ているというが、労働組合基礎調査は年に 1回の調査なので毎月の変動は得られない。それゆえ 1年間同じ数値を使っていると思われるが、そうだとすると、組合員比率という変数の月次変動は一般労働者数の変動に反応しており、一般労働者の総労働時間と強く相関していると思われる。これはさすがにマズかろう。また、上記のように、労働組合員比率の係数は、2 つの産業の間で有意に異なるとは言えない。更に言えば、統制変数である失業率や鉱工業生産指数の投入の仕方が 2 つの産業で異なるので、2つの産業の比較にもどこまで意味があるのか疑わしい。

また、前述のように、組合員比率が高いほど組合の意向が反映されやすいという理屈はわかるが、それならば、卸売業等の内部でも、組合員比率が上がれば、非正規雇用率は下がるという予測になるはずなのに、なぜかそうは予測されていない。さらにもう一つケチを付けると、企業規模を単位にした擬似パネルってどこまで意味があるのだろうか。企業は廃業や創業もあるし、規模も変化するし、個体の同一性に不安がある。総じて、残念な論文である。

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