Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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「行き止まりか、跳躍台か? ジェンダーと非正規/不完全雇用履歴の帰結」 (Pedulla 2016)

David S. Pedulla, 2016, "Penalized or Protected? Gender and the Consequences of Nonstandard and Mismatched Employment Histories," American Sociological Review, Vol.81 No.2, pp.262-289.
非正規雇用や不完全雇用が職歴にあることが雇い主の採用意欲にどう影響するのか、男女別にフィールド実験で調べた論文。非正規雇用研究では、非正規雇用が trap か stepping stone かという問題(一度非正規になるとその後正規雇用になるのが困難になってしまうか、それとも失業状態から雇用への架け橋として非正規雇用が機能するか)が論じられており、オランダとスウェーデンの職歴やパネル・データの分析からは、長期失業するよりはマシだが正規雇用を続けるよりは不利(つまり、失業から雇用への跳躍台になるという意味では stepping stone だが、正規雇用よりも不利という意味では trap)という結果が得られている(Korpi and Henrik 2001; Steijn et. al 2006; Gangl 2010)。 男女差も無くはないが、それほどはっきりした傾向はないという感じである。このような非正規雇用の不利は、雇い主の非正規労働者に対する評価を通して生じていると考えられる。つまり、雇い主が、非正規雇用の前歴がある求職者の能力は低いとか、仕事熱心ではないとか評価するので、正規雇用にずっとついてきた求職者に比べて不利になるという理屈である。もしもそうだとすると、非正規雇用の前歴の効果は男女で異なるかもしれない。男性はリタイアするまで仕事に強くコミットすることが要求されるのに対して、女性には家事や育児の責任が求められ、男性ほど仕事に強くコミットすることが期待されていないのは米国でも同じである。それゆえ、男であるにもかかわらず非正規雇用の前歴があることは能力の欠如のしるし (signal) であるが、女性の非正規雇用の場合は家庭責任を優先しているだけで必ずしも能力の欠如のしるしではない、と雇い主は考えるかもしれない。そこで、このような評価を雇い主が本当にするのか検証したのがこの論文である。

フィールド実験では、実際の求人に対してニセの履歴書を 2つ送りつけて、面接などの肯定的な返事が帰ってくるかどうかを調べている。ニセの2つの応募は、一点を除いてほぼ同じである(完全に同じだと雇い主から怪しまれる可能性があるので実験条件以外にも多少の違いをランダムに作ってある)。一方は直前の職が正規雇用または失業状態で、他方はパート、派遣、または不完全雇用である。不完全雇用とは、求職者のスキルレベルより顕著に低いスキルしか必要ない仕事のことで、この実験では、求職者はすべて中西部のランキングが同程度の2つの公立大学のうちどちらかを卒業し、その後 2年間働いてから転職し、その次の仕事を4年半つとめたあと、さらに転職したことになっているのだが、この最後(直近)の仕事が、大規模小売店の販売員 (sales associate) で、それ以前の仕事が専門職など明らかにもっとスキルが必要な仕事であったのに対して、顕著に必要なスキルレベルが低くなるようにしてある。非正規雇用や正規雇用、失業に関しても学歴、初職、第二職は同じだが、三番目の職だけが非正規雇用だったり、失業状態だったりするように作られている。

このような履歴書を、ニューヨーク、アトランタ、ロサンゼルス、シカゴ、ボストンにある会社の求人に対して送りつけている。ただし、2012年11月から2013年6月までに全国規模のオンライン求人サイトにあがってきた求人で、条件に合うもの(職種は管理職、販売職、会計に限定)をサンプリングしている。有効サンプル・サイズは 2420。従属変数は肯定的な連絡(面接などの通知が電話などで返ってくるかどうか)で、分析の主要な結果は、以下の図(p.274 より転載)のようになる。

  • 検定は正規分布を使った単純な平均値の差の検定
  • * 同じ性別の Full-Time と比べたとき p < .05,
  • **       〃         p < .01
  • + 同じ従業上の地位の男女を比べたとき p < .05.
Full-Time (正規雇用に該当)の場合、男女とも 10.4% が肯定的な連絡 (Callback) を受け取っているが、非正規雇用 (Part-Time, Temporary Agency) や不完全雇用 (Skills Underutilization)、失業 (Unemployment) は Callback rate がやや低いことがわかる。このような差は男性の場合は有意であるが、女性の場合は有意にならない。ただし、有意な交互作用があるかどうか検討すると、有意になるのはパートタイムだけで、残りの三つに関しては、男女で同じぐらい Callback Rate が下がると考えたほうがいいのかもしれない。このような結果は応募した職種や地域、企業規模を統制しても同じである。

つまり、少なくともパートタイムに関しては仮説通りの結果が得られており、女性の場合はパートタイムでも採用で不利になりにくいが、男性の場合は不利になるのである。

このような非正規雇用などに対する採用担当者の評価の低さは、求職者の能力 (competence) が低いと判断されているからなのか、それともコミットメントが低いと判断されているからなのかを調べるために、ネットで企業の採用担当者を対象にして調査がなされている。詳細は割愛するが、結果としてはコミットメントよりも能力が低いと評価されているせいで Callback Rate が下がるという結果であった。

ネット調査の方は中途半端な印象だが、フィールド実験の方はおもしろかった。非正規雇用の職歴が能力の低さのシグナルになるというのは、専門家の間ではほぼコンセンサスがあるように思うが、それが男性に関して顕著で、しかも失業の場合と大差ないほど低いというのは、発見であった。ただし、これは履歴書を送ったら面接に来いと言われた、というだけのことで、この後の面接をパスしなければ採用はされないので、最終的に採用に至るかどうかはまた別の問題だということは著者も述べているとおりである。

こういう対象者をひっかけるような実験(例えば最近読んだ論文だと Keizar et al. 2008)が倫理的に許されるのか気になったので、American Sociological Association の Code of Ethics を見てみたら、インフォームド・コンセントが大原則だが、対象者に対する被害が殆ど無く (no more than the minimal) 、インフォームド・コンセントをとろうとすると実験や調査が台無しになってしまうような場合は、大学等の倫理委員会の許可を得た上でインフォームド・コンセント無しで実験や調査をしてもよい、ということになっている。妥当なルールだと思う。

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