Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
<< June 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
 
RECOMMEND
後期近代と価値意識の変容: 日本人の意識 1973-2008
後期近代と価値意識の変容: 日本人の意識 1973-2008 (JUGEMレビュー »)

NHKの日本人の意識調査のデータをつっこんで分析した本です。
RECOMMEND
Labor Markets, Gender and Social Stratification in East Asia: A Global Perspective (The Intimate and the Public in Asian and Global Perspectives)
Labor Markets, Gender and Social Stratification in East Asia: A Global Perspective (The Intimate and the Public in Asian and Global Perspectives) (JUGEMレビュー »)

直下の和書の英語版です。審査を通過するためにレフェリーのコメントに従って若干修正してあります。
RECOMMEND
東アジアの労働市場と社会階層 (変容する親密圏/公共圏)
東アジアの労働市場と社会階層 (変容する親密圏/公共圏) (JUGEMレビュー »)

GCOEの成果をまとめた本です。日本を中心に韓国、台湾(中国も少し)との比較研究をしてます。
RECOMMEND
若年非正規雇用の社会学‐階層・ジェンダー・グローバル化 (大阪大学新世紀レクチャー)
若年非正規雇用の社会学‐階層・ジェンダー・グローバル化 (大阪大学新世紀レクチャー) (JUGEMレビュー »)
太郎丸 博
拙著です。非正規雇用に関する本はたくさんありますが、「なぜ正規雇用と非正規雇用では賃金格差があるのか」など当たり前と思われがちな問題を突き詰めて考えてみました。
RECOMMEND
フリーターとニートの社会学
フリーターとニートの社会学 (JUGEMレビュー »)

拙編です。オーソドックスな計量社会学の手法で、若年非正規雇用や無職にアプローチした本です。白い装丁なので、輪郭がわからないですね...
RECOMMEND
人文・社会科学のためのカテゴリカル・データ解析入門
人文・社会科学のためのカテゴリカル・データ解析入門 (JUGEMレビュー »)
太郎丸 博
拙著です。軽く読み流すのは難しいですが、まじめに一歩一歩勉強するために作りました。
ARCHIVES
RECENT COMMENT
  • アマチュア社会学の可能性
    読者 (02/20)
  • 社会システム理論の野望、あるいは全体性へのオブセッション
    宮国 (12/19)
  • 片山他 2015「図書館は格差解消に役立っているのか?」
    オカベ (12/09)
  • ランダム効果の意味、マルチレベル・モデル、全数調査データ分析
    YZ (12/07)
  • 学歴社会から「学習資本」社会へ:日本の教育と社会における階級形成の再編
    赤尾勝己 (02/11)
  • グラフィカル・モデリングとは?
    anonymous (11/30)
  • Rスクリプト覚書き:vglm関数で平行性の仮定を置かずに順序ロジット
    ほっくー (08/05)
  • 台湾の経済: 典型NIESの光と影
    おーまきちまき (07/19)
  • ペルー移民は日本でどのように社会移動を経験するのか
    佐藤悟 (03/21)
  • ペルー移民は日本でどのように社会移動を経験するのか
    佐藤悟 (03/21)
RECENT TRACKBACK
 
組織内政治と外圧:米国大企業によるリストラ計画の実行 1984-2005, Jung (2016)

Jiwook Jung, 2016, "Through the Contested Terrain: Implementation of Downsizing Announcements by Large U.S. Firms, 1984 to 2005," American Sociological Review, Vol.81 No.2, pp.347-373.
米国の大企業がどの程度ほんとうに人員削減計画を実行するのかは、組織内の政治プロセスによって規定されると主張した論文。米国の組織論では一時期 decoupling という概念が流行ったことがあった。ググってみると decoupling は脱連結、分離、デカップリング、などと訳されているようであるが、「本音と建前の使い分け」といった訳もあった。decoupling とは英語版の Wikepedia によれば「主に新制度派の組織論によって提唱された概念で、組織の実際の活動と組織の公的な方針のあいだのギャップを作り出し、維持する」ことである。Meyer and Rowan (1977) が最初にいい出したとされている。表向きは労働基準法を遵守すると言いながら実際はブラックな企業や、国際化しますといいながら実際はほとんど何もしない大学など、decoupling の例は枚挙にいとまがない。decoupling は、主に外圧を避け、組織(もっと端的に言えば経営者のような組織内の権力者)の自律性を維持するためになされると考えられているようである。

このような decoupling は人員削減計画の表明とその実行においても生じると言われている。すなわち、1980年代以来、米国の機関投資家は企業に対して人員削減を要求してきた。これに応じて経営者は人員削減計画を発表するのだが、その後その計画が実行に移されるかどうかはケースバイケースで、あまり実行されない場合も少なくないという。そこで Jung はどのような場合に人員削減計画は実行に移されやすい(あるいは移されにくい)のか明らかにしようとする。言い換えれば、decoupling が起きたり起きなかったりする条件は何か、というのが本稿のリサーチ・クエスチョンである。

Jung はいくつかの仮説を示している。まず、とうぜん外圧が弱かったり、一時的であれば、人員削減は実行されにくいだろう。株主は人員削減を求める主要な外圧と想定されているが、個人投資家や短期で売買を繰り返すような機関投資家は影響力が弱かったり、企業の長期的な業績や収益に関心を持たないので、人員削減を本当に実行させる外圧として機能しない。外圧となるのは、ある程度長期間その会社の株を大量に保有する機関投資家である。それゆえ、長期、大量保有の株主比率が高いほど人員削減計画は実行されやすいという仮説が示されている。

第二の仮説は、外圧に対抗する組織内部の抵抗運動、すなわち、労働組合の反対に関するものである。人員削減は労働者の解雇につながるはず(新規採用を抑制して自発的な離職による従業員数の自然減を待つこともできるが、大規模リストラの場合はそれだけでは不十分)なので、労働組合は人員削減計画の実行に反対するだろう。それゆえ組合の組織率が高いほど人員削減計画は実行されにくいと予想される。仮に実行されたとしても、その場合に組織の底辺の労働者だけを解雇して、管理職の地位を温存すれば、組合からの経営者に対する反発は非常に大きなものになると考えられる。それゆえ、労働組合組織率が高いほど管理職の削減もあわせて行われやすいと予想される。

第三と第四の仮説は、経営者に対する監視 (monitoring) と動機づけ (incentive) である。取締役会が株主の利益を損なっていないか経営者を監視していれば人員削減計画は実行されやすいだろうし、役員報酬に占めるストックオプションの比率が高いほど経営者は株価や配当を高めるよう動機づけられ、人員削減計画は実行されやすいだろう(本当に人員削減が長期的な会社の価値を高めると経営者が信じていればの話であるが)。

第五の仮説は、経営者の組織内権力の強さに関するものである。経営者にとって中間管理職は組織内の支配を徹底するためのエージェントなので、できるだけ減らしたくないものであると Jung は言う。それゆえ、組織内での支配を徹底する力のある経営者ほど底辺の労働者を解雇し、中間管理職の地位を守ろうとすると予想されている。

主なデータは米国の大企業(Fortune 誌に掲載)で 1965-2005年のあいだ trade されている(株式上場しているという意味か?)金融業以外の産業に主に分類される企業の中から産業別に層化してサンプリングされている。789 社のサンプルをリストワイズして 656 社に関して 1984-2005 年のあいだのパネル・データを作っている。従属変数は二つあり、一つは企業の従業員総数(の対数)であり、もう一つは従業員総数に占める管理職の比率(の対数オッズ)である。

主な独立変数は従業員の 1% 以上を減らす計画を過去二年以内に発表したかどうかを示すダミー変数である。ただし、仮説の検証のためにはこのダミー変数とその他の変数の交互作用効果を検討する必要があり、上記の五つの仮説に対応する調整変数 (moderating variables) が導入されている。経営者に対する監視は取締役会に占める社外取締役の比率で、経営者への動機づけは経営者の報酬に占めるストックオプションの比率で測定されている。経営者の組織内権力は経営者の在職年数で操作化されている(これが適切かどうかは疑わしい)。また企業ごとの組合の組織率が不明であるために産業別の組織率がかわりに用いられている。これについては Jung も問題だと認めていて、企業ごとの組織率がわかるが代表性の低い別のデータセットでも分析がなされている。

分析には固定効果モデルが用いられているが、推定は通常の最小二乗法 (OLS) ではなく、Seemingly Unrelated Regression (SUR: ググっても定訳は見当たらず)が用いられている。これは複数の異なる従属変数を予測する場合に、二つのモデルの残差の間に相関を仮定して同時推定するような推定法である。もちろん別々に OLS で推定しても OLS の前提となる仮定が満たされていれば一致推定量が得られるが、残差の間に相関があるならば SUR のほうが efficient である(つまりパラメータ推定値の標準誤差が小さくなる)らしい。構造方程式モデリングの一種ということになろうか。

分析の結果、上記の仮説はすべて支持されている。

論文のタイトル Through the Contested Terrain を直訳するならば「争議領域を切り抜けて」とでもなるだろうか。というのは、Contested Terrain という語は本文中にはほとんど出てこず、ゆいいつ結論の節に

... 人員削減を実行に移すためには、経営者は激しく争われている領域をなんとか切り抜けなければならない (muddle through highly contested terrain)... (p.367)
という表現が出てくるだけである。おそらく decoupling に関する議論ではあたかも組織が一枚岩の存在であるとみなしたり、経営者が組織を完全にコントロールできるとみなすような議論が多いが、実際には経営者の自由度は必ずしも大きいとは限らない、ということを強調したいのであろう。

テクニカルには、主な説明変数が人員削減計画発表のダミー変数だという点が気になった。とうぜん何人を(あるいは従業員の何パーセントを)削減する計画かによって、実際に削減する数も変わってくるはずなのに、なぜかダミー変数になってしまっているというのは不適切だと思う。

基本的な主張や仮説は、日本の企業風土を知っていれば「当たり前ではないか」と言いたくなるものが多いが、こういう当たり前の仮説を実証することが意外に難しいので、高く評価したい。また、こういった本音と建前の使い分けは日本文化の特徴とされることが多いが、米国でも似たような現象があるという点は銘記されるべきであろう(日米で程度の違いはあるかもしれないが)。個人的には、この種のロジックは非正規雇用の増減に関しても応用できるかもしれないので、興味深く読んだ。こういう企業内の政治過程はコーポレート・ガバナンスというキーワードのもとで論じられることも多いようなので、この種の議論はもっと勉強する必要があると思った。

スポンサーサイト
- | 16:55 | - | -
コメント
コメントする









 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://sociology.jugem.jp/trackback/906
 

Copyright (C) 2004 paperboy&co. All Rights Reserved.

Powered by "JUGEM"