Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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レズビアン、ゲイ、バイセクシャルの賃金格差, Mize 2016

Trenton D. Mize, 2016, "Sexual Orientation in the Labor Market," American Sociological Review, Vol.81 No.6, pp.1132-1160.
レズビアン、ゲイ、バイセクシャル (LGB) の賃金が、ヘテロセクシャルに比べてどの程度で、なぜそのような差がつくのか検討した論文。LGB が差別されており、その権利が必ずしも法的に保護されていないのは、日本でも米国でも同じである。とうぜん賃金にもそのような差別が反映される可能性があるが、Mize によれば、先行研究はバイセクシャルをレズビアンやゲイと区別せずに同じカテゴリに分類してきたため、バイセクシャルとレズビアン・ゲイとの賃金の差異を見落としているという。先行研究ではレズビアンはヘテロセクシャルの女性よりも賃金が高く、ゲイはヘテロセクシャルの男性よりも賃金が低いと報告されている。

これを説明する理屈として、家庭における性別分業が男女の賃金格差を説明するのとほぼ同じメカニズムが援用されている。すなわち、性別分業の下では、女性は家事・育児の責任を負っているが、男性は外で働き家族を養うためにじゅうぶんな収入を得る責任を負う。そのため女性は十分に仕事にコミットメントできないが、男性はコミットメントできるし、そうしなければならない。これが生産性の差につながり(あるいは雇い主がそう信じ)、賃金の差になる。ところが、レズビアンはこのような分業の影響を受けないので、ヘテロセクシャルの女性よりも仕事にコミットでき、それが生産性を高め、賃金も高める、という理屈である。同じようにして、ゲイも家庭での性別分業の影響を受けないので、ヘテロセクシャルの男性ほどには仕事にコミットしないため、そのぶん賃金も下がる、という説が考えられる。

もしもそうだとすると、ヘテロセクシャルとゲイ・レズビアンとの賃金格差のかなりの部分は、子供の有無や結婚しているかどうかで説明がつくはずであると Mize は主張する。なぜならゲイやレズビアンも子供がいれば、ヘテロセクシャルと同じように子育てにコミットしたり、子供を養うために十分な収入を得るため、生産性を高めると予測されるからだ(が、このあたりの理屈はやや苦しいと私は思う。なぜなら、子持ちのゲイは仕事にコミットするとは限らず、子育てのためにますます仕事にコミットしなくなるかもしれないから)。もちろんゲイに関しては生産性は持ち出さずに、家族給のような制度(経済学者風に言えば雇い主が家族を持つ労働者を好むことの制度的なあらわれ)で説明することもできよう(ゲイの平均賃金が低いのは子供を育てているゲイの比率が低く、家族手当を受けている比率が低いから)。もちろん、単純に雇い主がレズビアンのことを好きでゲイのことは嫌っているといった仮説も考えられるが、なぜレズビアンは OK なのか、説明するのが苦しい。

Mize によればバイセクシャルの賃金は、ゲイやレズビアンよりも低いはずであるという。なぜなら、第一に、先行研究によればゲイやレズビアンは生得的な性的嗜好であると考える人が多いのに対し、バイセクシャルは個人の主体的な選択であると考える人が多いと言う。つまりバイセクシャルは自己責任なので「罪」が重いというような偏見が(少なくとも米国では)あるという。さらにバイセクシャルは浮気性で複数の相手と性関係を持ちやすいといったイメージが強く、これもバイセクシャルに対する否定的なステレオタイプを形成しているという。こういった悪いイメージが雇い主のバイセクシャルに対する選好を弱め、ゲイやレズビアンよりも低い賃金につながると Mize は考えている。しかし、なぜか仮説は「ヘテロセクシャルの男性/女性よりも、バイセクシャルの男性/女性は賃金が低い」となっており、Mize の主張である「ゲイ/レズビアンとバイセクシャルは区別して分析すべき」という主張との整合性が悪い(なぜなら、ゲイ/レズビアンとバイセクシャルの時給に大差がないならば、賃金の分析の際に両者を区別しなくても分析結果を歪めることにはならないから)。

データは General Social Survey (GSS) の 1991-2014 の合併データと National Longitudinal Study of Adolescent to Adult Health (Add Health) の Wave 4 (2007) である。サンプルは労働者(雇われて働いている人)に限定している。 LGB の指標は 3 種類ある。第一の指標は、18歳以降に性交渉のあった相手に占める同性の相手の比率であり、これが 75% 以上ならばゲイ/レズビアン、0% ならヘテロセクシャル、両者の中間ならばバイセクシャルという定義である。この 75% という区切りの位置は恣意的なものだが、これを 95% まで少しずつ上げていって同じような分析をしても実質的には同じような結果が得られるという(ただし、ゲイやレズビアンの数が減るので有意な結果が出にくくなるだろう)。第二の LGB の指標は本人の自己同定で、"Which of the following best describes you?" -- heterosexual, gay/lesbian, or bisexual という質問に対する回答である (Add Health のほうのワーディングと選択肢は若干異なるが割愛) 。これは GSS では 2008 年以降の調査でのみ尋ねられている。さらに ADD Health では男性に性的魅力を感じるかどうかと女性に性的魅力を感じるかどうかを Yes/No の二択で尋ねているので、これらを組み合わせて、ヘテロセクシャルと LGB を分類している。これが第三の指標である。

分析は男女別で複数の LGB 指標に関して4つのモデルを2種類のデータに関して行っており、結果は必ずしも一貫しておらず、情報量が多すぎてすべての分析結果をきちんと整理して理解しきれない。以下の Table 1 (p. 1141 より転載)が1番簡単な記述統計でわかりやすいと思う。

これを見ると、確かに MIze の言った通り、ヘテロセクシャル女性よりもレズビアンのほうが時給は高く、バイセクシャルの時給がもっとも低い。男性もバイセクシャルの時給が最も低い。ただし、男性は Behavior と Identity でヘテロセクシャルとゲイの時給の高低が異なっており、すっきりしない。ただし、Identity のほうはサンプルサイズがあまり大きくないので、あまりはっきりしたことはわからない。Behavior だけを参考にするならば、予測通り、ヘテロセクシャル男性よりもゲイの方が時給は低いが 0.52 ドルの違いなので、とうぜん有意な差ではない。ただし、回帰分析で人口学的な変数(年齢、人種、学歴)を統制すると、ゲイのダミー変数の係数は負の有意な値を示すので、基本的には Mize の仮説の通りの結果が出ていると言えよう。このようなゲイの時給の低さは、結婚しているかどうかと子供の数を統制すると有意ではなくなり、仮説どおり結婚しておらず子供がいないことがゲイの時給を押し下げる大きな要因となっているようである。いっぽうレズビアン・ダミーの係数は結婚と子供の数を統制しても正の有意な値を示しており、レズビアンの時給の高さは子供や結婚とは関係ないことが示唆される。つまり、ゲイやレズビアンのヘテロセクシャルとの時給の差は、経済学者好みの生産性といった概念ではきれいに説明できないと思われる。

理屈は単純だが、分析結果は錯綜していて難渋であった。おおむね Mize の主張通りの結果が得られているのだが、必ずしも係数は有意ではなく、あまり確信の持てる結果とはいえない。しかし、私は LGB に関しては素人なので、細部ではいろいろおもしろい事実が示されていて勉強になった。例えば LGB の比率は米国では 3〜7% と言われているが、行動レベルで見ればバイセクシャルのほうがゲイやレズビアンよりも多いと言われている(ただし、Table 1 の identity でみるとバイセクシャルの比率は behavior で見た場合よりも少ない)ことがそうである。またレズビアンも差別されているのだから、ヘテロセクシャル女性よりも賃金が低いのかと思っていたが、そうではないことも知らなかった。ヘテロセクシャルや LGB の境界が曖昧なのはとうぜんだが、思っていた以上に分析は大変そうだという印象を受けた。特に LGB 指標の分布と年齢の関係が気になった。性交渉の相手にせよ、自己同定 (self identification) にせよ、ライフコースの中で変化していく可能性があり、そのことを考慮しなくても大丈夫なのか気になる。また、20 代のゲイと 60 代のゲイが同じような困難に直面しているものなのだろうか。私は素人なのでよくわからないが、このあたりのことを考慮するともう少しスッキリした結果が出るかもしれないとちょっと思った(がサンプルが少なすぎて実際に分析するのは難しいのだろう)。

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