Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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教員の見た目は、授業評価にどう作用するか:進化論と期待状態理論の検証

Tobias Wolbring and Patrick Riordan, 2016, "How Beauty Works. Theoretical Mechanisms and Two Empirical Applications on Students' Evaluation of Teaching," Social Science Research, Vol.57 pp.253-272.
教員の「顔のよさ」が、授業評価に及ぼす影響を検討した論文。見た目の良さ (physical attractiveness) が賃金やパフォーマンスの評価に影響するとする研究は多い。この論文では、進化論と期待状態理論 (expectation state theory) を使ってこの現象を説明しようとしている。

進化論的には、見た目の良さは性交するパートナーの包括的適応度の高さの目安 (signal) 、として機能するそうである。例えば、肌の色艶がよいほど若くて健康な可能性が高いので、子供をたくさん埋める可能性も高い。それゆえ、肌の色艶がよい異性を好むような遺伝子を持つ個体が子孫を増やしやすい、というわけである。いったん肌の色艶がよい異性を好む遺伝子が広まれば、たとえ肌の色艶と若さや健康に関係がなかったとしても、肌の色艶がよいほど性交するパートナーとして選ばれやすくなるので、けっきょく肌の色艶がよいほど子供を増やしやすくなる。

このような進化の論理は、あくまで性交するパートナー選びの際に働くのであって、授業評価や賃金とは直接関係ない。しかし、Wolbring らによれば、見た目の良さを基準とするという論理はヒューリスティックとして、性交以外のさまざまな状況下でも用いられる可能性がある。教員にしろ、従業員にしろ、その真の能力や生産性を見極めるのは困難なので、見た目が能力の目安 (signal) として働く、という可能性が考えられている。このような進化論的な説明が正しいとすれば、見た目が評価基準として用いられやすいのは、特に異性を評価する場合であろうと考えられる。

一方、期待状態理論では、見た目が非限定的地位特性 (diffuse status characteristics) として働くと考える。これもけっきょく目安 (signal) ということだが、見た目の良さが地位や権力や能力に付随する特徴であると多くの人々に認識されている(意識的にであれ、無意識のうちにであれ)、ということである。非限定的とは、「野球選手としての能力」のような特定の能力ではなく、それ以外にもさまざまな能力や地位の高さに付随する特徴と考えられているということである。期待状態理論によれば、一度、このような期待の状態(見た目の良い人は能力もある!)が人々の間に広まり始めると、自己強化的にそのような期待の状態がさらに広まっていくという。それゆえ、地位特性はまったくの誤解や偏見にもとづいていたとしても、多くの人々に広まることがある。さらにいったん形成された期待に反する事実は無視されやすく、期待通りの結果だけが記憶に残りやすいため、期待の状態は簡単には変化しない。こういった能力の評価は、集団内での地位や権力の格差を発生させると考えられている。期待状態理論は主に小集団での実験をもとに、このようなダイナミクスをとりあつかう理論の総称らしい。

いったん形成された期待状態は簡単には変化しないが、明白な反例(例えば、見た目はいい教員なのに、授業の内容は間違いだらけで、ハラスメント発言を連発、不正も発覚)が生じる場合もある。このような反例が生じると、観察者は強いフラストレーションを感じ、怒りや落胆を示す。反例が度重なれば、期待の状態も変化するかもしれない。つまり授業評価においても見た目のよい教員が大失敗すると、見た目の悪い教員が大失敗した場合よりも、学生の落胆は大きく、評価は下る、と予測できるということである。この現象は beauty penalty と呼ばれている。

これらの進化論と期待状態理論から、著者は5つの仮説を導いている。

  1. 学生の間では、教員の見た目の評価は高度に一致している。
  2. 学生は、担当教員の見た目が良いほど、授業をサボりにくい。
  3. 学生は、担当教員の見た目が良いほど、授業を高く評価する。
  4. 上のサボりと授業評価の傾向は、学生と教員が異性である場合に特に強い。
  5. 教員が学生の期待に反する場合には、見た目の良い教員のほうが悪い教員よりも授業評価の点は低くなりやすい。

著者らは上の仮説を検証するために、調査と実験から得られたデータを分析している。調査は 2008-2010年にミュンヘン大でのコミュニケーション論、政治学、社会学の授業の評価のデータを集めたもので、実験は架空の教員による講義の音声と教員の写真を見せて、その評価をしてもらうものである。分析の結果、仮説4(見た目の効果は異性を評価するときに強くなる)以外は、支持された、と著者らは言っているが、同意できない部分もある。

仮説1 に関しては、教員の写真を上の調査と実験の回答者/被験者とは別の学生 75 人に見せて、顔の良さを評価してもらって、その評価の一致度を検討している。クロンバックのアルファが 0.95 だったことを根拠に評価がほとんど一致していると著書らは主張しているのだが、クロンバックのアルファは評価の一致度の指標としては不適切である。クロンバックのアルファは評価者の数が増えるほど大きくなる傾向があり、たとえ評価者間の評価の相関係数が 0.1 であったとしても、75 人に評価してもらえば、0.94 をこえることがある(別の記事のシミュレーションを参照)。それゆえ、実際のところどの程度評価が一致しているのかは、この論文の分析からはわからない。

仮説2 (見た目の良い教員の授業はサボりにくい)に関しては調査の結果と一致しているが、その直接効果は小さい。記述が曖昧でモデルの詳細がよくわからないのだが、単純な線形回帰だとすれば、見た目の良さが一標準偏差上昇すると、欠席が 0.03 回減るという推定結果であり、対数変換した一般化線形モデルだとすれば 3% 程度欠席が減少するという結果である。おそらく後者が正しいのではないだろうか?

仮説3 については調査では予測どおりだが、実験では男性に関しては有意になっていないので、ややひっかかる。調査の方も直接効果は 0.03 (従属変数の標準偏差は 0.7、レンジは 4 )なので、大きな効果ではない。

仮説5 (beauty penalty) は、調査では有意な効果が出ておらず、実験でも男性は有意ではなく、女性は微妙な感じである。著者らは仮説5に対応する交互作用の検定をしていないために、実験の結果は評価のしようがない。全般に都合の悪い事実を隠蔽しようとする意図が感じられるので、あまり信用する気になれない。

私としては、仮説2と仮説3は支持されていると思うが、その他の仮説については疑わしい。仮説4は著者も棄却しており、進化論の予測は間違っていたということになる。仮説2,3は、進化論からも期待状態理論からも予測できるので、甲乙はつけがたい。仮説5に関しては、たしかに予測と合致するような係数は得られているものの、有意でなかったり、有意かどうか適切に示されていないため、説得力がない。近年は有意性検定に頼りすぎることは批判されているが、それは都合の良いように恣意的にデータを解釈してよいという意味ではない。

読んでみた感想としては、やはり attractiveness advantage を進化論だけで説明するのは苦しい、ということである。確かに肌の色艶への好みは進化論的に説明がつくだろうし、左右対称な顔のほうが美しいとされることも、もしかしたら進化論的に説明できるのかもしれない(左右対称なほうが若くて健康で多産??)。しかし、顔の魅力は他にも様々な要因からなっており(彫りの深さ、鼻の高さ、二重まぶた、細さ、髪の色、などなど)、それらは文化や時代によってかなり異なっていることが知られている。遺伝子で説明できるのは、そういった美しさの構成要素のごく一部という気がする(のだが、自身はない)。beauty penalty に関しては、存在しているとしてもそれほど大きなものではなかろうと思う。 attractiveness advantage もそれほど大きなものではないようなので、一安心ではある。

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