Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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「なぜエリートはローブロー文化が好きなのか:高地位者のアウトサイダー・アート受容の条件」Hahl, et al. 2017

Oliver Hahl, Ezra W. Zuckerman and Minjae Kim, 2017, "Why Elites Love Authentic Lowbrow Culture: Overcoming High-Status Denigration with Outsider Art," American Sociological Review, Vol.82 No.4, pp.828-856.
地位の高い者がアウトサイダー・アートを受容する条件を検討した論文。ブルデュー系の欧米の研究では、地位の高い者はハイブロウな文化(クラシック音楽や美術界で優れているとされる作品、等など)を好み、地位の低い者はロウブロウな文化(一般大衆向けの作品)を好む、という議論が定番だが、正確には、地位の高い者はハイブロウとロウブロウの両方を消費する傾向が、繰り返し多くの国で確認されている。これは文化的雑食 (cultural omnivore) と呼ばれるが、この現象はブルデュー的な伝統的階級文化論では説明しにくい。もちろんロウブロウ文化を消費することでさらなるディスタンクシオンを行っている、というのがブルデュー的な解釈になろうし、それはそれなりに説得力がなくもないのだが、Hahl たちは別のメカニズムを提唱している。

地位の高さには名誉や金銭的報酬が伴うのが一般的であるので、金や名誉のために偉くなろうとする人は当然いる。しかし、倫理的にはしばしば地位の高いものほどお金や名誉のために行動するのではなく、公共善や共同体の利益に奉仕することが求められる(というよりも金と名誉を得た人は、次に「倫理的・人格に優れた人」という名声を欲しがる、というほうが正しい気がするが、著者たちはそう言ってはいない)。いずれにせよ、地位の高い者ほど自分は公正無私な (disinterested) 人物であることをアピールしたがると言う。その高い地位に見合った、公正無私で信頼できる様子を、ホンモノ (authentic) と Hahl らは表現している。しかし、あるエリートがホンモノであるかどうかは、他人の目からはもちろん、そのエリート当人にとっても、しばしばはっきりしないので、エリートの中には自分がホンモノであるか不安 (authenticity insecurity) を感じる人も出てくる。

このようなホンモノ不安を緩和する方法の一つが、ホンモノの文化/作品を消費することである、と Hahl たちは言う。ホンモノの作品とは、ホンモノの(公正無私で名声のために作品を作らない)作者によって作られた作品のことである。ロウブロウな文化作品は権威の高い業界では低俗とされることが多いので、作者が名声を求めているとは考えにくい。もちろんお金のために作品を作る人はロウブロウでもたくさんいるだろうが、なかにはお金にも無頓着という人もいる。つまり、権威の高い学者や評論家から評価されず、お金とも無縁で、純粋に自身の信じるナニモノかを追求する作者こそホンモノ、というわけである。アウトサイダー・アートは、業界で権威のある人々からの評価をもとめないような製作者によるものと定義されているので、ホンモノの文化の一種ということになる。

もちろん、あるエリートがホンモノの文化を好み、消費しているからといって、そのエリート自身もホンモノとは限らないが、エリート自身にとってもそのエリートを見ている周りの人にとっても、ホンモノ文化の消費は高い地位からの距離の遠さを示し、金や名誉を求めるような態度からも離れているイメージを作り出すということだろう(著者たちはあまりはっきり書いていないが)。それゆえ、ホンモノ不安を感じるエリートほどホンモノのロウブロウ文化を好む、というわけである。

この仮説を検証するために Hahl らは2つの実験を行っている。1つ目の実験では、1 ホンモノ不安を感じる地位の高い状況、2 ホンモノ不安を感じない地位の高い状況、3 地位の低い状況、 を作り出して被験者をそれらのどれかに無作為に割り当て、その後にアウトサイダー・アートとそうでない作品をどの程度好きか評価してもらっている。平均値を比較すると、ホンモノ不安を感じる地位の高い状況に置かれた被検者だけがアウトサイダー・アートのほうを有意に好んでいるという結果で、仮説どおりであった。さらに第二の実験では、被検者には、第一の実験と同じような状況を観察してもらった上で、アウトサイダー・アートを好きな地位の高い者、アウトサイダー・アートでない作品を好きな地位の高い者、(どんな作品が好きか被検者にはわからない)地位の高い者、がどの程度ホンモノ (authentic) か評価してもらった。平均値を比較すると、アウトサイダー・アートを好きな地位の高い者がもっともホンモノであると評価されており、仮説通りの結果であった。

これらの実験では、地位の高さとホンモノ不安は、以下のような実験者の操作によって作られている。まず被検者は Klee と Kandinsky の絵をいくつか見させられ、その好き嫌いを回答するよう求められる。その結果をもとにすると被検者は Q2 または S2 というタイプの性格であると知らされるが、実際にはランダムに割り当てられている。その後 被検者は、黒または白の図の空白の量(長さ?面積?)を言い当てるゲーム (competition) をさせられる。このゲームの上手な人ほど頭がよい (strong cognitive skills) と被検者は知らされる。5回ゲームを繰り返し、解答の正確さとはまったく関係なく、Q2 タイプの性格に割り当てられた被検者は 5回とも正解であったと知らされ、S2 タイプの性格に割り当てられた被検者は2回だけ正解であったと知らされる(たびたび被検者をだます実験!)。他の被検者の正解、不正解の数も知らされる。はっきり書かれていないが、他の被検者が Q2 か S2 かも同時に分かるのだろう。つまり、被検者は Q2 タイプの人は頭が良く、S2 タイプの人は頭が良くない、と示唆される。著者たちは Q2 タイプの人は地位が高い(頭がよい)状況に置かれ、S2タイプの人は地位が低い(頭が良くない)状況に置かれていると解釈している。これは過去にも何度か使われている実験条件だそうである。

Q2 タイプの被検者(地位の高い状況に置かれた人)はさらに 2つの異なる条件にランダムに割り当てられる。一方では、この実験は公開で行われており、実験結果は出版されると知らされる(これもウソ)。もう一方の条件に割り当てられた被検者は、この実験は非公開で行われており、実験結果も出版されないと知らされる。前者はホンモノ不安がある状況、後者はホンモノ不安がない状況と解釈される。もちろん Q2 タイプに割り当てられた被検者のほうが金や名誉を求めているとは思えないが、Q2 タイプに割り当てられた人からすると、自分は頭が良いとされているのだが、ただ単に絵画の好みを述べて図の空白の量を答えただけなので、自身の地位の高さ(頭が良いという評価)に自信が持てない状況に置かれていると考えられる。さらにこれを公開されるとますます後ろめたい感じになるということだろうか。

このような実験での条件設定が、どの程度現実の「地位の高さ」や「ホンモノ不安」に近いのかに関しては、議論の余地があろうが、第一実験では 7点尺度でアウトサイダー・アートへの好き嫌いを尋ねて平均で1点程度の差が出ているので、かなりはっきりとした結果である。第二実験のほうは従属変数のスケールがよくわからないのでなんとも言えないが、130人程度のサンプルで 0.1% 水準で有意な結果が出ている。彼らの議論が正しければ、エリートはホンモノ不安を抱えているときに文化的雑食になる、ということになるが、Hahl らも論じているように、ホンモノ不安を抱えているわけではないが、ホンモノという評価を得たいがために戦略的にアウトサイダー・アートを消費しているエリートもいるだろうし、それを見透かして、アウトサイダー・アートを消費するエリートをむしろ欺瞞的と感じる人もいるだろう。

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