Theoretical Sociology

太郎丸博のブログです。研究ノートや雑感などを掲載しています。(このページは太郎丸が自主的に運営しています。京都大学の公式ページではありません。)
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「遺伝子、ジェンダー不平等、教育達成」Herd et al. 2019

Pamela Herd, Jeremy Freese, Kamil Sicinski, Benjamin W. Domingue, Kathleen Mullan Harris, Caiping Wei and Robert M. Hauser, 2019, "Genes, Gender Inequality, and Educational Attainment," American Sociological Review, Vol.84 No.6, pp.1069-1098.
遺伝的要因とジェンダー、時代が教育達成に及ぼす効果を検討した論文。日本の社会学では遺伝子の効果を口にすることはタブーといった雰囲気も一部であるようだが、欧米では近年のゲノム解析コストの低下にともない、遺伝子が教育達成のような社会的変数に及ぼす効果が検討されている。多少の効果があることは確認済みであるが、近年は遺伝子の効果は環境によって異なる(つまり遺伝と環境の交互作用効果がある)、というパースペクティブが台頭している。例えば、特定の階級に生まれた子しか大学に行けなかった時代には、例え遺伝的にどんなにすぐれた資質を持っていても大学に行ける階級でなければ大学教育を受けられない子供がたくさんいた。しかし、現在の先進国では労働者階級にも大学進学の機会は、ある程度開かれており(もちろん進学率の格差はかなりあるが)、遺伝的に優れた資質があるならば、それが大学進学に繋がる可能性は高まっているだろう。つまり、前近代では階級的な障壁のせいで遺伝的な資質と大学進学のあいだの関連は非常に小さかったが、現代ではそれよりも大きな関連がある、と推測できる。従属変数が複雑な社会的プロセスを経たものであるほど、遺伝の効果は社会環境次第で大きく変化しうる、と考えられている。

階級制度と同じように、ジェンダーという制度も遺伝的に資質のある女性の大学進学を阻んでいたと考えられる。第二次世界大戦以前では、女性の進学できる大学は非常に少なかったし、戦後も女性差別によって男女の大学進学率の格差はかなり維持されてきた。しかし、近年差別の緩和によって大学進学率の格差も多くの先進国で解消しており、女性のほうが大学進学率が高い、という国もある。かつては遺伝的に優れた資質があってもなくても女性はほとんど大学に行けなかったが、現在は遺伝的に優れた資質を持つ女性ほど大学に行きやすくなったため、女性に関しては遺伝的資質と大学進学の関連が強まった、と予測されている。いっぽう男性に関しては、女性のようなドラスティックな制度変容を経験していないため、遺伝的資質と大学進学の関連は変化していない、と Herd たちは予測している。統計的には、大学進学が従属変数で、性別、遺伝的要因、時代の二次の交互作用がある、というモデルになろう。

Wisconsin Longitudinal Survey が主なデータで 1939-40年生まれで、Wave 1 の調査のとき(1957年)に Wisconsin にある高校を卒業した人たち(ヒスパニック以外の白人に限定)が、追跡調査されている。米国の場合、30歳代以降でも大学に入学する人が少なからずいるので、時代/年齢の変化とともに大学進学率も変化する。分析では教育年数が従属変数となっているが、 この世代では男性の方が大学進学率が高く、遺伝的資質の効果も男性の方が一貫して高い。ポイントは、女性の遺伝的資質の効果が時代/年齢の変化とともに上昇しており、このような上昇は上記のような時代の変化による性差別の縮小によるものと解釈されている。ただし、一次の交互作用しか検定されておらず、二次の交互作用が有意になるのかどうかは不明である。

Health and Retirement Survey と National Longitudinal Survey of Adolescent Health のデータを使い、もっと最近の出生コーホートについても遺伝的な資質の効果が検証されている。これらの分析からは最近の出生コーホート/時代になるほど、女性の遺伝的な資質の効果が高まっており、これらの 2つのサンプルでは性別と遺伝的な資質の交互作用効果は認められない。やはり二次の交互作用効果は検定されていないので、どこまでロバストな結果なのかは不明であるが、仮説どおりの結果である。

この研究では、遺伝的資質は、Polygenic Score (多遺伝子性スコア)で測定されている。先行研究では、被検者のさまざまな trait (特性)を従属変数、さまざまな Single Nucleotide Polymorphisms (SNP 一塩基多型)を独立変数とする予測のモデルが推定されており、その結果が利用されている。この場合は教育達成という特性を塩基配列から予測するモデルがすでに先行研究で推定されており、これを使えば塩基配列から、教育達成の遺伝的な資質の高さを推定できる、という理屈である。塩基配列の予測の精度は決定係数で 0.1 程度、父または母の教育年数と同じぐらいだと書かれている。個人的には思ったよりも効果は大きい。

穏当な結果だと思うが、遺伝的資質の効果は過大に推定されている可能性もある。この分析では父母の経済力のような社会的要因がまったく統制されていないのだが、これらと遺伝的資質のあいだに多少の相関がある可能性はある。また、Polygenic Score の中には、本人ではなく親の遺伝的資質の効果が混ざっている可能性もある。例えば教育熱心さに影響する SNP が存在し、それは親から子に遺伝するとしよう。親が教育熱心だと子供が大学に進学しやすくなるのは明らかだが、そのときに子供の進学に影響しているのは、子供の SNP ではなく、親の SNP である。つまり、親の遺伝的特質も統制しなければ、子供本人の遺伝的特質が大学進学に及ぼす影響は正確には推定できないのではないだろうか。遺伝のことはまったくの素人なので、自信はないが。

それから読んでいてずっとひっかかるのは、「性差別がなくなると遺伝的な資質の効果が強まるはずだ」という基本的な考え方である。その通りだとは思うのだが、私たちが差別に反対するのは遺伝的な資質の効果を高めるためだったのか、というとそうではないはずで、遺伝と個人の自由という古典的なトピックを思い起こさずにはいられなかった。

この種の Gene-Environment Interaction の研究は面白いと思っていて、興味があるのだが、遺伝子の専門家と一緒じゃないと到底研究できないので、やったことはない。ただ遺伝について語るのはタブー、みたいな一部の社会学者の雰囲気は好きじゃないので、こういう研究は応援したい。

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